Q eND A《キューエンドエー》連載版 Q4+エピローグ
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Q4 『アンサー』は誰?
1
がらんとした会場に残ったのは、僕、ミラ、Q、リリの4人だけだ。始まったときには26人もいた参加者も、ついにこれだけになってしまった。今はラウンド間の休憩時間だが、もう喋る声も聞こえない。
「いろいろ、気になることはあるけどよ……」
最初に口を開いたのはミラだった。
「Aは『アンサー』じゃなかったのか?」
「そう、みたいだ。僕もよくわかっていないんだけど」
(じゃあ、なんで答えがわかったんだよ)
(僕にもわからないよ)
僕は改めて『異能力』の表を見た。
Answer:クイズの答えがわかる。
BAN:指定した参加者の能力を一定時間無効にする。
Counter:他の参加者がボタンを押す行動を予知し、その前にボタンを押すことができる。
Detective:クイズや能力に関する情報以外を、任意に聞き出すことができる。
Erase:クイズの問題文や選択肢の一部を非表示にできる。
Fifty-Fifty:クイズを2択扱いで回答できる。
Genre:問題の出題ジャンルを変更できる。
Holoscope:ラウンドに1回、参加者のうち一人の能力を知ることができる。
Immortal:指摘によって死なない。
Judge:能力の処理やクイズの詳細なルールについて、正確な情報を得ることができる。
Knight:ラウンド不参加時、参加者一人を選び、死亡しないようにできる。
Loop:死亡したとき、クイズをやり直すことができる。
Medium:死んだ参加者の能力がわかる。
Negotiation:ラウンドへの参加やクイズの得点を、交渉により変更できる。
Overwrite:公開されている能力情報のうちひとつを書き換える。
Phone:スマホを持ち込むことができる。
Quarter:クイズをすべて4択にできる。
Remember:自分の記憶を操作し、経験や知識を正確に引き出すことができる。
Stop:ボタンを押した瞬間、60秒間周囲の時間が停止する。
Telepas:条件を満たした相手と、声を出さずに会話をすることができる。
Underdog:最下位が二人以上いる時、クイズで死なない。
Vale:能力の対象となった時、それを感知して偽りの結果を返すことができる。
この中に僕の『異能力』があり、しかも『アンサー』ではない。だとすると、一体……。
「あれ、えーっと……」
表をいっしょに見ていたミラが、一行ずつ項目を数え始めた。
「どうしたの?」
「いや、なんか……数が合わない気がして」
確かにそうだ。残りの参加者が4人ということは、死んだ参加者は22人。開示されている能力は22個。最初に『アンサー』が開示されているのだから、開示されている能力の数は、死んだ参加者の数より1つ多くないとおかしい。
「てことは……マイカが生きてるかもしれねえのか?!」
「あ、そうか……!それなら数が合うかも」
だとしたら、マイカはどこに?僕は周囲を見渡し、規制線が引かれたままの個室エリアを見た。
「おそらく、あそこだろうね。ただ、探しに行くなら覚悟したほうがいい」
「覚悟?」
僕が聞き返すと、Qは真剣な顔をしてうなずく。
「……気づいた?死体が消えてないこと」
「え、あ……」
今まではいつの間にか消えていた死体が、残っている。サクラの死体も、禅寺の死体も。
「これは、ボクの推測だけど……たぶん、今まで死体が消えてたのは、あの禅寺ってやつが何かしてたんじゃないかと思う。だから、マイカちゃんがどうなっていようと、たくさんの死体があるのは覚悟したほうがいい、って話」
僕はつばを飲み込んだ。
「……でも、行くしか無いよ。行こう」
果たして僕たちは、禅寺の部屋に詰まった16人分の死体を見た。マイカもそのひとつになっていた。ミラはそれを見るなり吐き戻していた。
「マイカ……」
彼女の死体は、胸に大きな血のシミができていた。おそらく銃で撃たれたのだろう。だがその手は、胸の血痕を抑えたままではなく、伸ばした状態になっている。僕はそこに少し違和感を覚えた。
禅寺は、彼女に『ホロスコープ』を使わせたと言っていた。でも、禅寺は能力指摘を間違えた。何があったのか……。ごめんね、と断ってから、その手のひらを見る。
「こ、これは……!」
マイカの手には確かに『A』と刻まれていた。血の文字で。手のひらにひっかいたようなキズができていて、それがAの形をとっていたのだ。
「なるほど、これで『ホロスコープ』の結果を偽っていたんだね……頭のリボンに入っていた針金でひっかいたのかな」
Qがマイカの死体をのぞきこむ。僕はマイカの頭を抱える仕草を思い出した。フリフリの服の形を整えるために入っていた針金。ここまでしっかりと刻むためには、相当痛い思いをしただろう。
「……『アンサー』って偽ってるってことは。僕の本当の能力を占っていたかもしれない。そうしないと確実に偽ることもできないんだから」
ちらりとQを見る。
「いいよ、見な。彼女がキミ宛に残したダイイングメッセージみたいなものなんだから」
僕はうなずいて、マイカの手から血を拭い……そこに書かれた、僕の『異能力』を見た。
2
ずたずたになっていたマイカの手には、しっかりと占った能力が残っていた。
『リメンバー』。それが僕の本当の能力。「自分の記憶を操作し、経験や知識を正確に引き出すことができる」。これを使えば、例えばずっと前に読んだ本とか、何かのテレビ番組で見ただけの、忘れていた知識を思い出して、クイズに答えることができる。
僕は一瞬納得しそうになった。でも、これでは説明のつかないことが多すぎる。そもそも、答えを思い出すには問題文が何を聞いているのか分かる必要がある。問題文を聞く前に答えがわかっていたから、僕は自分の能力が『アンサー』だと思ったのだ。聞く前の問題という絶対に知らないものを、思い出せるわけがない。
「どういうことなんだ……?」
僕は考え込んでしまう前に、マイカの手をもとに戻し、両の手を重ねてあげた。もしかしたら、もう片方の手には、禅寺が占わせたQの『異能力』が書いてあるかもしれなかったが、あえてそれは見ないようにした。
「終わったかい?こっちも収穫があった」
Qが後ろから声をかけてきた。その手にはスマホが握られている。真っ黒の業務用然としたスマホは、警察の5人が持っていたものだ。
「おそらく禅寺は、このスマホで共有されていた情報から、警察の人たちの『異能力』を指摘していたんだね……今はロックがかかっちゃってて、開けないけど」
スマホを受け取り、眺めると裏にはテプラで「乾」と貼ってある。
その瞬間、僕の脳内に、全く知らないはずの記憶が呼び起こされた。
『……Aくん。私にもしものことがあったら、彼女を……サクラを頼む。このスマホには、私の調べた情報が記録されている。……少ないが、脱出に役立ててくれ』
乾が僕に話しかけている。これは何だ?
「どうしたの、Aくん」
急にふらいついた僕を、Qが訝しげに見る。
「いや……知ってる、かもしれない。解除コードを……」
僕の指が、スマホの暗証番号を入力していく。8ケタのそれを打ち込むと、果たしてロックは解除された。
『……彼女の誕生日なんだ。セキュリティ意識が低いと、一度叱られたことがある』
乾のそんな言葉まで、なぜか「思い出せる」。クイズの答えもそうだ。なぜ知らないはずのことを僕は思い出しているのだろう。
「ふうん……なるほどね」
Qは僕がロックを解除したことに、特別驚きもしない様子だった。
「じゃあ、中身を見てみようよ。何か分かるかもしれない。少なくとも、警察の人たちは『異能力』の情報は共有していたみたいだから」
僕はいくつかアプリを立ち上げてみる。大部分はよくわからない専門的なものだったが、そのうちの一つはただのメモ帳で、乾が調べたであろう調査メモが残っていた。
◆
この内容は、『ジャッジ』の郡司から聞き出した情報です。『ディテクティブ』の効果でウソはつけないので、これらの情報は正しいと思って差し支えありません。
・参加者は26人です。
・ここにいるのは、参加者とオラクルだけです。
・『異能力』はオラクルの持つ能力を分けたものです。オラクルはすべての『異能力』が使える生命体で、人外ではなく進化した人間のようです。詳細はわかっていません。
・公正なテストのため、オラクルは参加者にウソをつくことはできません。
・この空間もオラクルの『異能力』で作られたものです。最後の1人になった時、オラクルは空間を消滅させ、残った1人を開放します。
主催者であるオラクルを排除できれば、脱出できるようですが、最初の説明以降オラクルは一度も姿を見せないため、他の方法をとる必要がありそうです。
◆
「そうか……乾は『ディテクティブ』で、このゲームのルールから脱出方法を探していたのか」
『ディテクティブ』はクイズ以外の情報であれば正確な情報を提供させることができる。『ジャッジ』がルールを把握できる能力だから、これも一つの相互作用なのかもしれない。
僕とQが全員に手を合わせてから部屋の外に出ようとすると、ちょうどミラとすれ違いそうになった。
「A、なんかわかったか?」
「うん。マイカが……いろいろ手がかりを残してくれた」
ミラに情報を共有する。Qに聞かれるとまずいかもしれない部分はテレパスで、僕の『異能力』についても伝えた。
「……すげえな、あいつ。あんなビビりの泣き虫だったのに、土壇場で根性ありすぎだろ」
「うん、本当に……ミラも、マイカのことを見に?」
「ああ。でも、マイカの、っていうよりは、ちょっと違うな」
「どういうこと?」
僕がミラに聞き返すと、ミラは覚悟を決めたような表情で僕に言った。
「マイカがほんとに死んでたとしたら、やっぱり開いてる『異能力』の数と、死んだ人の数が合わない。だから、もう一回、死体の数を数えなきゃいけねえと思って」
3
死体を数えるのは、つらい作業だった。自分がクイズで下した人の死体も、そうでない人の死体もあった。僕とQは部屋に残されたものを、ミラは外で倒れているものの数を数えた。合計で、22体の死体があった。
「だとするとやっぱり合わねえよ。22人死んでたら、23個『異能力』が開いてるはずなんだよな?」
「うん……どういうことなんだろう」
死体の全員に手を合わせ、部屋を出る。幸い、死体が腐ったりすることはないようだ。僕らの腹が減らないのと同じ理屈かもしれない。
「もしかしたら、何かの『異能力』で23個目が伏せられているのかも」
「でも、開いてる中にはそんなのなさそうだしなあ」
ミラと僕が首をひねっていると、
「あの」
小さな声が聞こえた。二荒山リリ。禅寺に双子の姉(ないし妹)を殺された、参加者の1人だ。
「ああ、リリちゃん。どうした?まだ休憩時間終わってないだろ」
ミラは優しげな口調で、腰をかがめて彼女に目線を合わせる。
「あの……そこに、死んだ人がいるんですよね」
「……ああ」
「その中に、尾辻さんって女の人もいましたか?」
初めて聞く名前だ。ミラも知らなかったようで、僕のことを見上げてきたが、僕は首を横に振ってみせる。
「あ、そうですよね、名前じゃ……えっと、ケーキ屋さんの服をきてた人です」
それなら覚えがあった。パティシエのような白い服を着た女性の死体があったはずだ。そのことを伝えると、リリは泣きそうな顔で言った。
「尾辻さんは……リリたちを守ってくれたんです。同じ年ぐらいの子供がいるからって……」
涙声になっているリリの話を聞くと、尾辻は最初のほうのラウンドで、自ら犠牲になることでリリとララを生かしたということだった。死ぬ前に『オーバーライト』まで使って、能力指摘で殺されないようにもしてくれたと。
「でも、最後にお礼も言えないままで……だから、最後にまた会えたらって……」
「……なあA、その人だけどっかに連れてこれないか?」
今にも泣きそうなリリを見て、僕はあの死体の山から尾辻という女性のものを引っ張り出してくることにした。断る理由はない。
禅寺が雑に積み上げていたせいで、尾辻の死体を外に出すのはけっこう大変だった。クイズで負けた他の参加者と同じく、頭の無い死体だったが、それでもふくよかな体や腕から人柄が感じられるようだった。
(もう少し、最初から周囲の人のことを見ておくべきだったかもしれない。誰も、ただ死んでいい人なんていなかったんだから)
思わず『テレパス』に乗ってしまったが、ミラからは何も返ってこない。尾辻の死体にすがって泣くリリを、ミラは涙をこらえながら見ていた。
「ありがとうございます。おかげで、最後にお礼が言えました」
しばらくして、リリは泣き腫らした目で僕らに頭を下げた。
「いいって。ていうか、そんな言い方したらお前も死んじゃうみたいだぞ」
「はい、わたしはもういいんです。ララがいないんですから」
ぎょっとするようなことを言うリリを、ミラが抱きしめる。
「そんなこと言うなっ……!えっと、だな、その……」
「あ、いえ、違うんです、ごめんなさい。先にわたしの『異能力』の話をしないといけないんだった」
どうやら家族を殺されて自暴自棄になったわけではないようで、僕は安心したが、彼女が何を言っているのかわからなかった。
「わたし、ララのみがわりなんです。『ダブルキャスト』っていうやつで、ララがクイズに失敗しちゃっても、かわりにわたしがララになって、一回だけ防げる、っていう」
「……?どういうこと?双子じゃなかったのか?」
「わたしの本体……つまり二荒山ララには、双子のおねえちゃんのリリがいます。でも、おねえちゃんはこのクイズには来てないんです。ララは、『異能力』のみがわり……つまりわたしに、リリのつもりになるように言って、双子のふりをしていたんです」
つまり、ここにいるのは『異能力』で作った身代わりで、すでに殺されてしまった二荒山ララのほうが、正しい参加者だった、ということか。
「もちろん、みがわり能力がバレちゃったら、本体のララは死んじゃうんですけど……でも、尾辻さんが『オーバーライト』で『異能力』がバレないようにしてくれたので、大丈夫なはずだったんです。それが、あんなことになっちゃって……」
「クイズでも能力指摘でもない方法で殺されちゃったから、身代わりが機能しないままここまで来てしまった、ってことか……」
「はい……だから、わたしはクイズで勝っても意味ないんです」
リリは力なく笑った。
年端もいかない子供が殺されてしまったのは、本当にひどいことだが、これで死体の数と開示能力の数が合わないことは説明がついた。
僕らは死体の数を1つ多く勘違いしていたのだ。実際にはララは死んでしまっているのだが、『W-cast』の身代わりが生存している状態なので、本体が死んだことによる死亡の置換判定が行われず、システム上は死んでいない扱いになってしまっているのだろう。システム上の死者は21人ということになり、開示されている『異能力』の数とも合う。禅寺という殺人者の存在は、想定されていなかったということだ。
僕はミラにそのことを説明した。でも、ミラはまだ何かひっかかっているようだった。
「んー……だとすると……やっぱり数があわないような……」
【休憩時間を終了します】
思考を遮るように、オラクルのアナウンスが響く。今までただの機械音声だと思っていたこれも、倒せば脱出できる相手の声だと思うと理不尽さが更に強く感じられた。
【解答者は、芦田エイ、天上キュウ】
「やあ、やっと直接対決だね」
僕が振り返ると、個室区画から会場へ向かう廊下に、Qが立っていた。会場からの光を後ろから受けて、細長いシルエットが見える。
「ここまで長かった。長かったよ、本当に……」
かつ、かつ、と大きな歩幅で、Qは僕に近づき、手を差し伸べた。
「クイズの時間だ。いい試合にしよう、Aくん」
4
「キミが驚かないように、あらかじめ言っておくんだけどね」
Qは回答席に向かう途中で足を止めて、僕に言った。
「ここからは、キミの『異能力』で答えを知ることはできないよ」
「なんでそんなことがわかる?僕の『異能力』を知っているのか?」
最初から、Qには目を付けられていた。クイズへの理解も卓越している彼には、『異能力』が見抜かれていてもおかしくはないが。
「まず、答えを知っているのはバレバレだったよ。それが『アンサー』かどうかはともかくね」
僕がどう返すべきか迷っていると、Qはあっけらかんとした口調で続けた。
「だってキミ、クイズに答えられても全然喜ばないんだから。クイズに答えられてうれしくないなんて、答えをしっていた時でもないとあり得ないよ」
「……そんなことで?命がかかっているんだ、喜んでいる暇なんて」
「そんなこと、じゃない。やっぱりキミには、もう少しクイズをわかってもらう必要があるみたいだね」
【ラウンド17を開始します】
「種明かしの続きは、ボクから3問取れたらしてあげる」
思えば、Qは全員の『異能力』について感づいているような印象があった。それにどんなからくりがあるというのだろうか。
僕とQのラウンドが始まる。
Qが言った通り、答えがわからない。少し心細かったが、そんなことを気にしている時間はない。
【問題。相撲の決まり手のうち、攻め込んだ側が、】
ピコーン!
Qのボタンが点灯する。
「……勇み足」
正解音。おそらく、最後まで聞けばわかった問題だ。知っていた知識だ。
「ふふ、悔しいだろう?どんなクイズでもそうなんだよ。だから、答えられた時は嬉しいものなんだよね」
Qの言う通りだ。今までの僕の戦いは、どうクイズを切り抜けるかが重要だった。こうして真っ向からクイズに向き合うのは初めてかもしれない。
【問題。『大漁』『こだまでしょうか』『わた】
ここだ。僕はここで押す。押してから、考えをめぐらせる。
「そう、シンキングタイムを使うんだ」
Qがにやりと笑うのを横目に見ながら、僕は頭脳を回転させる。
これは列挙型の問題だ。今までの傾向からして、列挙されるものは後になればなるほど、誰もが知っているものになるはずだ。『こだまでしょうか』は、聞いたことのあるフレーズだ。たしかACのCMで使われていた詩かなにかで……ということは、これは列挙された作品名から作者を問う問題だろう。『わた』から始まる、誰もが知っている詩……教科書か何かに載って――。
「……金子みすず」
正解音が響く。よかった。正解だ。最後の一つは、『わたしと小鳥とすずと』。作者は、金子みすず。
「いいね!それだよ!」
Qは心底嬉しそうな顔をした。
今までクイズをやってきたおかげで、平等な条件になってもQに早押しで勝てる。決して無駄ではなかった。僕は再びボタンに指を置く。
【問題。日本で一番高い山は】
これは『ですが』問題だ、と思った瞬間。
ピコーン!
「北岳」
Qが正解する。早い。
「まだちょっと難しかったかな。クイズを理解すれば、この速度で押せる……ついて来てね?」
今までで一番楽しそうな顔をしているQだが、手加減する気は全くないらしい。メガネの奥の瞳が鋭く光る。
【問題。『簡単なことも】
直感で押した。押してから考える。僕が今押したのは、書き出し・歌い出し系の問題だと直感で思ったからだ。
「……『フォニイ』」
正解だ。思わず、「よし」と口から漏れる。これは、ならないほうが不自然だ。クイズ経験者には、僕が答えを知っているのがバレるのもムリはない。
【問題。】
ここを取ればリードだ。Qの種明かしも聞ける。
【サッカーとラクロス、ひとチ】
ピコーン!
解答音が鳴る。押したのは僕だ。まずい、完全に早まった。
ラクロスのことは全く知らない。何を聞かれているのかもわからない。
考えろ。考えろ。
この聞き方は、きっと【AとB、Cなのはどちら?】のような問題だろう。そうすると、聞かれている内容はC,つまり【ひとチ】から始まる文章。……ひとチームか。比べるものは、1チームあたりの人数。これだ。でもわからない。そもそも「多いのはどちら?」なのか「少ないのはどちら?」なのかも不明だし、どちらも見たことが――。
ある。あった。僕は『思い出す』。ミラが一時期、ラクロス部に入ろうとしていたことがあって、その時僕は試合を見ている。選手の人数は10人いた。
「ちょっと前まで12人でやってたんだけど、ルールが変わったんだってさ」
ミラがそんな事を言っていたのを、思い出した。だとすれば。
「ラクロス」
一瞬の間があって、正解の音が響いた。
「よく当てたね。1/2に賭けた?」
「いや……ラクロスの人数が変わったってことを、『思い出した』。サッカーが11人なのはみんな知ってる。だから、以前の状態だったらサッカーが答えになる問題だろうと読んで、逆にした」
「驚いた……やるじゃないか。これで3問だね」
僕も驚いている。あのクイズ王のQ相手に、僕が1問とはいえリードしているのだから。
「約束通り、種明かしをしよう」
Qは大仰に手を広げて、言った。
「ボクの『異能力』は『ループ』。脱落したときにクイズをやり直せる……そう、初めからね」
5
「『ループ』によって時間が巻き戻されたとき、ボク以外の参加者は記憶をリセットされる。ボクもクイズの答えなんかは覚えておくことができない。でも、キミは『リメンバー』で、消えたはずの記憶を思い出している。だから、答えを知ることができた」
Qはこともなげに言った。
Loop:死亡したとき、クイズをやり直すことができる。
確かに『ループ』はクイズをやり直せる『異能力』だ。だが、それがまさか、一連のクイズの最初まで戻れる能力だとは。
「……おい、じゃあお前……」
ここまで黙っていたミラが、おそるおそる口を開いた。
「何度も死んで、何度もこのデスゲームをやってるってことか?」
「うん。ざっと300周ぐらいね」
「マジかよ……」
絶句するミラ。僕も自分の頭が弾け飛ぶのを想像して……そして、それを300回以上体験することを想像して、気が遠くなった。
だが、それより気になることがある。今、一対一の状況で僕が『能力指摘』してQを殺せば、僕の勝ちが確定する。それなのにQが自分の『異能力』を明かしたこと。種明かしがどうとか、そういう話じゃない。
「なんで死んでるんだ?勝って脱出できるはずだろ。クイズ王Qなら。脱出できていれば、死んでループすることもない」
「うん、いいところに気がついたね」
Qは普段と変わらない口ぶりで述べた。
「ボクは毎回必ず最後まで勝ち残る。そして、毎回必ずそこで死ぬ。誰も生還なんてできないんだよね」
最悪だ。本当に最悪の事実だ。
「は?!何言ってんだお前!じゃあ今までやってきたことも意味なかったってことかよ!?あんなにたくさん人が死んで、それでっ……!」
ミラが唇を震わせながら叫ぶ。
「キミのその反応を見るのは42回目だね。まあ、落ち着きなよ。何もキミたちをやけっぱちにするためにこんなことを言ったわけじゃあない」
わざとらしい仕草でミラを制するQ。そのまま、僕の方を向いて続けた。
「まず1つ。このデスゲームはもともと『最終的に全員死ぬ無理ゲー』として作られているわけではない。最初にオラクルから提示されたルールを覚えてる?」
勝利条件は、クイズで勝ち続けること、及び『異能力』を他人に知られないこと。クイズに負けるか、他の参加者に自分の『異能力』を指摘される、または他の参加者の『異能力』を指摘して間違えた場合は、死ぬこと。
最後に残った参加者だけが、脱出できること。
「『ディテクティブ』の乾が残した情報によれば、オラクルは嘘をつくことができない。だから、脱出自体はできるようになっているはずなんだ。まあ、それ以外にも根拠はあるんだけど、とにかく脱出自体が不可能にできているわけではない。だから、『なぜボクが毎回死ぬのか』の謎が解ければ、脱出することはできる」
普段通りの飄々とした口調だが、その奥にあるものは計り知れない。どれだけ勝っても最後には死ぬことがわかっていながら、挑み続け、死に続けたということだからだ。
「そしてもう1つ。ボクは勝ち続け、死に続け、それでもこのデスゲームから脱出するための最後の手がかりが、今までつかめなかった。でも、今のキミなら……ボクにクイズで並べるキミなら、解けるかもしれない。最後の問題が」
クイズを熟知し、『ループ』で謎に挑み続けたQ。『リメンバー』で今までのループの記憶を思い出せる僕が、Qと同じだけクイズを知ることができれば、何か解決の糸口が見つかるかもしれない。彼はそう言っているのだ。
「Aくん。キミはボクにないものを持っている。今までのループでも、他の参加者と協力して、いつも諦めないで最後まで戦っていた。キミは300回のループの間にクイズを覚え、たくさんの他の参加者とかかわり、ついにボクとガチの勝負ができるところまで来た。ボクはキミとここに立ててうれしいよ」
本当にうれしいんだ、とQは呟いて、一瞬目を伏せた。が、次の瞬間には、いつものぎらついた目で僕を見て、挑発的に笑っていた。どちらの表情も、僕には見覚えがあった。どこかのループで。
「だけど、ボクに負けるようなら、まだこのループのキミでは不十分ということだ。いつもどおり、また死んで、ループする。何度だってね」
Qは僕に、指をかけたままのボタンを向ける。
「さ、クイズを続けよう。そして、ボクからキミへのQだ。【キミはボクを超えることができるかな?】……期待してるよ、Aくん」
6
5問が終わった時点で、僕が3問、Qが2問。なんとか1問リードしているが、それをQが許すはずもなく。
【問題。6,28,よんひゃ】
「……完全数」
これで3-3。残り4問だ。
どれだけ勝ち残っても、最終的には死んでしまう。Qはそれを『ループ』で何度も体験しつづけていた。そんなQが、自分を超えて、謎を解けという。
ならば僕は、全力で答えないといけない。この後に何が起こるのか、それを防ぐ方法を考えなければ。
【問題。塩漬けされた唐辛子を雪の上に】
僕はボタンを押す。「唐辛子」「雪の上」、どちらも特徴的な単語だ。だから答えられると思った。だが、点灯していたのはQのボタンだった。
「……かんずり」
正解の音。
「うん、今のは惜しかったよ。悔しいだろ?」
「ああ、悔しい。次は負けない」
今まで答えを知っていた時も、わかるであろう場所で押すということに変わりはなかった。ただ、感覚は全く違っている。もっと速く。もっと的確に。僕はボタンを押す指に力をこめる。
【問題。2023年の第95回アカデミー賞で】
まだだ。
【歌曲賞を受賞した、】
まだわからない。曲名か作曲家か作品名か……。
【映画『R】
ここだ!
僕はボタンを叩く。点灯した!
答えは『ナートゥ・ナートゥ』……のはずだ。作品名は読まれた。作曲家は……知らない。でも、そこまで難しいことは聞いてこないはずだ。僕はひとつ息をついてから答える。
「『ナートゥ・ナートゥ』」
正解音が響いた。よし。これでまた並んだ。4-4で、残り2問。Qと延長戦になっては、明らかに分が悪い。ここで決めなければ。
【問題。童話『シンデレラ』で、魔法で馬車に変わるのは】
読み方で、これは「ですが」問題だと思った。これ以上聞かれたら、絶対にQは押してくる。今しかない。
ピコーン!
僕はボタンを押す。点灯したのを確認、問題文の予想にかかる。
【馬車に変わるのはカボチャですが、Xに変わるのは何?】これが問題だろう。シンデレラ……ガラスの靴、カボチャの馬車は知っている。他に何が……。
『思い出せ』。どこかで読んだ記憶ぐらいはあるはずだ。『思い出せ』!
「マイカ、そういう服ってどこで買ってるの?」
どこかのループで、僕はマイカと話していた。久しぶりに彼女の顔を思い出して、少し胸が苦しくなった。
「ああ、これ、通販で買ってます。マイスってブランドのサイトで」
「……鼠?」
「はい。女の子はシンデレラで、自分たちの服は女の子を舞踏会まで送る、カボチャの馬車の御者、みたいな意味らしくて」
【馬車に変わるのはカボチャですが、御者に変わるのは何?】これが問題だ。そして答えは。
「……ネズミ」
正解音。これで5-4だ。あと1問、次をとれば勝ちだ。
「よく押した。よく答えたね」
Qは僕のことを見ないまま言った。僕も彼のことを見ないまま頷く。次で、泣いても笑っても最後の問題だ。
【問題。】
指に力がこもる。
【2019年に本屋大賞を受賞し、】
あ、これは。
【2021年には映画化された】
知っている。ここに来る前に、たまたま読んでいた本だ。
【5人の父と母】
僕は震える指でボタンを押した。
「『そして、バトンは渡された』」
正解。
【ラウンド終了。勝者、芦田エイ】
勝った。僕はQに勝った。
「おめでとう。強かったねえ」
Qは、いままでで一番穏やかな笑顔で、手を叩いて僕をたたえた。
「最後のは、知ってた?」
「ああ、たまたま読んでて。本当に、運だけだった」
「いいや。クイズってそういうものだよ」
そして、僕に向かって軽く手を振ると、回答席を降りていく。
「たまたま昨日覚えたこと、必死に勉強して覚えたこと、全部キミの人生の一部だ。それが肯定されるのがクイズだと、ボクは思うんだよね」
これから死ぬというのに、いつもどおりの飄々とした口調だ。Qは振り返らないまま、歩いていく。自分が死ぬ姿を見せないように、だろうか。
「ああ。何百回もやってきたけど。今回が一番、楽しかったよ」
【敗者、天上キュウ。デスペナルティ】
赤い飛沫が、解答席の陰で、弾けた。
――
もう、会場には僕とミラ、そしてリリしかいない。
Qの言葉によれば、勝ち続けたところで殺されるらしい。何が起こるのか、僕はしっかりと見て……その謎を解かないといけない。
「なんか、静かだな」
ミラはがらんとした空間を見上げてつぶやく。
「もし、3人でクイズになったら、ずっと解答しなければどっちも死ぬことはない。そうなったら、どうなるんだろうな」
「わたしは、2人が残ればそれでいいです。もともと死んでしまっているんだし」
【ラウンド18を開始します】
オラクルのアナウンスが流れた。
次の瞬間。
ピンポーン!
ピンポーン!
ピンポーン!
ピンポーン!
ピンポーン!
「ちょっ、何何何っ!?」
壊れたように正解音が何度も響く。無人の解答席で、ボタンのランプが点灯しつづけている。
「なにっ?なにこれ!」
リリとミラは不気味な現象に怯えている。僕も何が起こっているのかわからないが、おかしなことになっているのは明白だ。周囲を見回しても、変化はボタン以外にはない。
ピンポーン!
ピンポーン!
ピンポーン!
ピンポーン!
「……まずいっ!」
僕は最悪の可能性に思い当たる。そして、能力一覧を見た瞬間、それは確信に変わった。
「数が合わない!参加者は、もう一人いるっ!!」
ピンポーン!
最後の正解音を聞いた瞬間、僕の視界は歪み、暗転した。
7
ここはどこだろう。自分が死んだのは覚えている。死後の世界なんてものは信じていなかったが、ここがそうだとすればいささかキレイすぎる。
真っ暗な空間を、いくつもの光の帯が脇をながれていき、目を凝らすとそれが僕の記憶だとわかる。300回以上ループしたぶんの記憶だ。
「やあ、Aくん。来たね」
僕の前に、Qが立っていた。スポットライトに照らされたように、そこだけが少し明るくなっている。
「……これは何なの?」
「これは『ループ』が見せる映像さ。ボクはキミを今回の『ループ』の対象に選んだんだからね」
Qは相変わらず、なんでもないような調子で言った。
「言ったでしょ?キミならボクが解けなかった謎が、解けるかもしれないって。だから、ボクのかわりにループしてもらうことにした。ボクはループの記憶を全て失うけど、まあ、ふりだしに戻るだけだからね」
僕がQの代わりにループするということは、逆に言えばQはループしないということだ。自分から死を選んでまで、僕に謎を託したのだ。
今、僕は全ての記憶を『思い出して』、最初の状態に戻る。はじめてQと同じ視座に立つ。もしこの場に1人だったら、これほど孤独なことはないだろう。何回も死んで、何回もやり直して、それを自分だけが覚えているなんて。そして、それがバレてもいけないのだ。
今ならわかる。僕は『リメンバー』を使って記憶を操作し、他のループのことを思い出さないようにしていたんだろう。その上で、自分自身に『アンサー』だと本気で信じ込ませることで、他人も欺くことに成功した。
だが、今回は違う。僕は全てを背負って、Qが託した最後のループに挑む。
「……解けそうかい?」
「ああ」
僕はうなずいた。
「アテはある。必ず、全員で生還してみせる」
「頼もしいね。じゃあ、何も覚えていないボクによろしく」
そうして、Qはあの時と同じようにひらひら手を振って、僕といれちがいの方向に歩いていった。スポットライトが彼を追うことはない。
僕は歩き出す。記憶の奔流を遡って、この理不尽なデスゲームの始まりまで。
――
「あ、起きた」
よく知る声が頭上から聞こえて、僕は顔を上げた。ミラだ。さっき僕と同時に頭を爆発させて死んだはずのミラが、僕の顔を覗き込んでいる。
周囲はざわついていて、沢山の参加者がいる。マイカも、警察の人たちも、デメキンや大山もいる。危うくでそうになった涙をこらえ、僕は早速行動を開始する。
「ミラ、僕に『テレパス』を繋いでくれ」
「え!?なんでそれ知ってんの!?」
「いいから早くっ!」
戸惑うミラに『テレパス』の回線をつながせ、僕は前のループで何が起こったかを、一気に映像で伝えた。彼女をかばってサクラが死ぬところも、彼女が最後どうなるかも、全部。
(うっ、これっ、えっ……)
(声を出さないで。整理が追いつかないかもしれないけど、僕らはこのままだとこうなる)
(なんでっ……なんでこんなことに?!)
(それを今から解く。だから、協力してくれ)
『テレパス』で伝わってくる内容でウソはつけない。ウソをついていることまで伝わるからだ。彼女がそのことをすでに知っていたかどうかは不明だが、とにかく頷いた。
「あたし、何すればいい?」
「ミラをかばってくれた女性……大門さんと、乾さんたちにも協力を依頼してほしい。この後すぐ、ルールの説明が始まる。時間がないんだ。これを伝えれば、きっと協力してくれる……そしてこう伝えてほしい」
僕はミラに、彼らに頼みたいことと、乾のスマホの解除コードを教えた。サクラと乾の関係性を示す証拠であり、僕らが普通持ち得ない情報を教えれば、使命感の強い警察の人たちは協力してくれるに違いない。ミラはもう一度頷いて、参加者の中から長身のサクラを探して、駆け出した。
僕はそれを少しだけ見送って、空間の前方を見据えた。
(ここだ。ここに……全てを終わらせるカギがあるはず)
今までのループの記憶。クイズには様々な、本当に様々な展開があった。出される問題と、それぞれに与えられた『異能力』と、最終的にクイズ力でQが勝ち残る(であろうこと。最後まで僕が生きていなかったのでわからないが)のは固定だったが、それでも毎回違う展開になっていた。僕だってそうだ。
ミラとマイカと協力して最後まで進めた前回のようなループもあれば、仲間割れして早々に死んでしまったループもあった。
ラウンド1でQと対決して即死したループもあった。
ミラがすぐに死んでしまって、僕が1人で最後まで戦い続けたループもあった。
マイカと協力し、ミラと敵対したループもあった。
リリとララ、そして尾辻と互いに励まし合いながら乗り越えようとしたループもあった。
警察の人たちと協力し、最後まで作戦を進めようとしたループも。
デメキンと協力して、脱出できたらいっしょに動画を撮ろうと約束したループも。
どんな展開をたどっても、結果は同じ。なら、クイズが始まる前のここにこそ、謎を解くカギがあるはず。
そして、見据えた先の空間に、扉のようなものができて、そこからオラクルが現れ……
「 」
何重にも重なった機械音のような声。それが耳に入った瞬間。
「っづあ!!!!」
僕は頭を抱えて倒れる。2度めでも耐えられない。ミラもマイカも、周りの人全員がそうしているのが見える。
頭が爆発しそうになる。脳が強制的に、音声の意味を分からされていく。脳が悲鳴を上げる。
【我々はオラクル。このメッセージは超高圧縮言語プロトコルにより、有機生命の脳に直接情報を送信するものです。あなたがた人類の脳には少し負担かもしれませんが、テストの効率化のため、ご協力ください】
8
言葉として理解できたのはそこまでだった。あとは、脳の中に生の情報が、無理やり展開されていった。
オラクルの持つ『異能力』技術を人類が正しく使えるかのテストであること。
テストの内容は、『異能力早押しクイズ』であること。自身の知能と『異能力』を使って、早押しクイズで競う。
参加者はここにいる26人、それぞれ異なる『異能力』を与えられていること。
勝利条件は、クイズで勝ち続けること、及び『異能力』を他人に知られないこと。クイズに負けるか、他の参加者に自分の『異能力』を指摘される、または他の参加者の『異能力』を指摘して間違えた場合は、死ぬこと。
最後に残った参加者だけが、脱出できること。
僕は脳にかけられる異様な負荷を感じながらも、この感覚にどこか覚えがあった。これは、『テレパス』で直接会話している時と同じ感覚だ。説明の内容もあわせて、僕の推測は確信に変わった。
オラクルが見せている芸当は、全て『異能力』で説明がつく。先程空間から現れたのも、禅寺ゼンジロウが死体回収に使っていたものと同じ『異能力』だろう。説明の中にあった、オラクルの持つ『異能力』技術とはつまり、オラクルは全ての『異能力』が使えるということだ。
そして、もう一つ。いちばん重要な情報が、この中に隠されている。
【予測より肉体へ負荷がかかっている個体がいますね。仕方ありません。ロスの多い形式ですが、これより先は口頭で説明します】
「質問があるんだけど」
オラクルが説明を始めようとするのを、僕は遮って質問した。
【必要なルールは全て説明したはずですが、公平性のために質疑は受け付けることになっています。どうぞ】
「参加者はここにいる26人って言ったけど……ここには27人いるよね?」
【いいえ、ここには26人しか】
「違う」
僕は1人ずつ指さして人の数を数えてみせたあと、オラクルを指さした。
「お前も含めてここには27人いるよね?」
【いいえ、ここには26人しかいません】
オラクルは平板な調子で繰り返す。やっぱりだ。オラクルはウソがつけない。だから、この言い方しかできない。
人数が1人多くいるように見えるのは、すでに二荒山ララの『ダブルキャスト』が発動して、身代わりができているからだ。だから、「ここにいる26人」とは。
「あそこにいる双子のうち1人は、『異能力』で作った身代わりなんだ。だから、ここにいるのは正確には、僕ら人間25人と、お前だ。なぜ【私は参加者には含まれません】と否定しない?それは、お前が26人目の参加者だからだ」
僕とオラクル以外の参加者全員がどよめく。
「ちょ、ちょっと、アレはこう、デスゲームの主催者的なやつじゃないんですか?!」
マイカがいつもの調子でつっこんでくるので、僕は思わず苦笑してしまう。
「僕らはこんな不可解なシチュエーションで、理解の及ばない存在が現れたから、『あれがデスゲームの主催者側で、自分たちは参加者だ』と思い込んでいたが、違う。アレも参加者の1人だ」
「じゃ、じゃあ主催者は誰なの?」
参加者の1人が叫ぶと、
【このテストを主催しているのはオラクルです】
オラクルはまた感情のない声で返す。
「ああ、そうだろう」
僕はその発言で、もう一つの推理にも確証を得た。全ての根幹に関わる、最大の違和感に対する解答だ。
なぜ、早押しクイズなのか?その答えは。
「オラクルは2人いた!ここにいる参加者側のオラクルが、他のオラクルの主催する知能テストだったこのゲームを乗っ取り、デスゲームに仕立てたんだ!」
9
このデスゲーム――オラクルに言わせれば「テスト」――は、いつもどこかちぐはぐだった。
ルールの説明や、クイズの判定は公平・公正に行われていた。例えば「最後の問題が10000点」みたいな展開はなかった。
『異能力』や能力指摘などのシステムは、時折曖昧な説明がありながらも、参加者が推理、駆け引きができるように調整されており、『異能力』同士の相互作用をすれば有利になるように作られている。
また、不要な争いを生みそうなものも徹底的に排除されていた。僕らはクイズに取り組んでいる間、空腹になることも喉が渇くこともなかったし、個室だって用意されていて眠ることもできた。
一方で、それ以外については、ガバガバもいいところだった。だいたい、クイズや能力指摘の結果以外で人を殺すことができる時点でおかしいのだ。知能テストという名目なのに、他の参加者全員を殺せば生き残って脱出、となってしまう。本気で知能テストをやらせたいなら、暴力は最初に規制すべきだし、オラクルにはそのルールを定め守らせることができたはずだ。
「そもそも、だ」
僕はオラクルに詰め寄る。
「知能テストがやりたいなら、なんで人が死ぬ必要がある?デスゲームがやりたいなら、なんでクイズなんて形式をとる必要がある?おかしいんだ、最初から」
オラクルは何も言わない。言えないのだろう。オラクルはルールを課す側であり、公平性のためにウソをつくことができない。こういうところの律儀さもおかしかった。
「お前らは何がしたくて、何が見たくて僕らを殺し合わせるんだ?」
オラクルの顔には、相変わらず表情らしきものは浮かばない。それでも僕はにらみつける。たとえ僕の推理が間違っていたとしても、これだけは言わせなければならない。僕らの命を弄ぶ目的を。
「そうですよ!デスゲームの主催に思想がなくてどうするんですか!『極限状態で愚かな人間の本性が見たい』とか言ってみろ!」
マイカが(少しピントがずれているが)声をあげたのをきっかけにして、他の参加者たちも騒ぎ始めた。
「そうだそうだ!!なんだって死ななきゃならねえんだよ!」
「何が目的なんですか!説明してください!!」
「納得できなきゃ参加してやらねえぞ!俺たち全員降りたらデスゲームが成り立たないだろ?!」
騒ぎ立てる人間を前にして、オラクルは初めて感情らしいものを見せた。口をにがにがしげに歪め、舌打ちさえした。
【『ループ』と『リメンバー』で知恵でもつけたか?オラクル未満のブタがよ……】
僕は息を呑む。ついに、何回ループしてもたどり着けなかった展開が訪れた。
【ミジンコ並の頭脳でそこまで思いついたことを評価して、特別に教えてやる。「目的」は、この知能テスト自体をブッ壊すことだよ!】
「な、なんだと……?」
【お前らブタどもに崇高なる我らオラクルの『異能力』を使わせるなんて、ぜってーに許せねえからな!!あいつら『啓蒙派』の肝いりの知能テストにもぐりこんで、ルールをいじって全部台無しにしてやろうって寸法だ!せっかく集めてきた人間どもが、互いに殺し合う姿を見せてやるんだよ!】
複数いるオラクル同士の仲間割れ、ぐらいまでは予想していた。しかし、これはつまり……。
「単なる同族へのいやがらせのために、僕らを殺し合わせようとしていたのか?!」
【端的な要約だな!ブタにしては知能が高いと見える】
あまりのことに、僕らはしばらく言葉が出ず、会場は静まり返った。
【だが、ブタは所詮ブタだ、短慮で愚かなブタめ。こうして「いやがらせ」が台無しになった以上、お前たちをこのまま生かしておく理由があると思うか?お前たちをいつでも処分できる立場にあることを忘れたか?】
僕はハっとする。このオラクルが知能テストをデスゲームに変えたとすれば、頭が爆発して死ぬのはこのオラクルの仕業ということになる。
【お前らはブタの中でも幸運なブタだ……ホンモノの『異能力』、その圧倒的な力を、最後に体感できるんだからな!】
オラクルが手を掲げる。その中心に向かって空間が歪んでいく。巨大なエネルギーが収束しているような、異様な熱気と気配だ。
「なんだアレっ!」
「私知ってるっ、ああいうの爆発したら死ぬやつ!!」
「結局デスゲームやらなくても死ぬのかよ!」
命の危機を感じた参加者たちが逃げ始めるも、この空間に逃げ場などない。僕はつばを飲み込み、それでもなんとか、オラクルを睨み続けた。
【ミンチになれブタどもっ!!!】
そして、その手が振り下ろされ――。
【……あ?なん、だ、これ……】
何も起こらない。オラクルの手は空を切るだけだった。
【何だよこれ、何が起こってる?!『啓蒙派』のクソどもの仕業かッ?!】
オラクルは初めて、不快以外の表情を僕たちに見せた。
「この時を、待ってたっす」
「まさか本当に効くとはな……」
「……任務完了だ」
「さっきから黙ってりゃ、ブタブタうっせェ~んだよロボ女!」
逃げようとしていた参加者の中に、それでもオラクルの方を向く者が、5人。全員が、指を銃のようにして、オラクルに向けている。
中央に立った長身の女性、大門サクラが告げた。
「あなたの『異能力』を『BAN』しました。あなたも参加者である以上、この拘束からは逃れられません!」
(間に合った!遅くなって悪い!)
ミラから『テレパス』が届く。遅いどころか最高のタイミングだ。僕がミラに頼んでいたのは、オラクルに『BAN』をしてほしいということだった。
オラクルが『異能力』を全て持つなら、『BAN』を持つ参加者に先に『BAN』をされてしまうのだけが不安だった。だからギリギリまで僕が推理を披露して時間を稼ぎ、ミラの説得と協力要請が終わるのを待っていたのだ。
【す、少しは知恵が回るようだな、ブタにしては……だが、こんなことをしてどうする?銃とかいうオモチャを使って撃ち殺すか?不可能だ、オラクルは不死身だ!あと数十秒たてば、こんなもの……】
苛立たしげなオラクルに、僕は、最後の一手を下す。
「『能力指摘』だ」
【なッ……!】
『異能力』を指摘され、正解された参加者は死ぬ。僕たち参加者を殺し合わせるために作られたルールで、参加者である限りそれは絶対だ。
【バカなマネはよせ!ループの記憶があるなら知っているだろう、お前たちにはこれまで一度も、何一つ『このテストで与えられた異能力』を見せていない!手がかりすら0だ!まさか25匹もいるブタどもでローラー作戦でもする気か?!】
確かに、オラクルが参加者だとして、もとから表にある全ての『異能力』を使えるオラクルが、今回何の『異能力』を与えられているのか、知る由もない。マイカの『ホロスコープ』で占ったところで、特定することは不可能だろう。
だが。
「お前がべらべらしゃべってくれたおかげでわかったよ。いやがらせが目的だっていうなら、僕たちの中にいもしない『異能力』に、疑心暗鬼になって殺し合いをさせるのが一番楽しいだろうからね」
【ばっ、バカなっ、そんなことまでっ!】
初めて焦りの表情を見せるオラクル。僕は、ゆっくりとオラクルを指さして、宣言した。
「お前が、『アンサー』だ」
ピンポーン!!!
最後の正解音が、華々しく鳴る。
【なっ、グ、ブッ、こんなっ、ブタどもにィィイイッ!!】
オラクルの頭が弾け、白い血液のようなものが飛び散った。
そしてその瞬間、真っ白な空間に亀裂が走る。
光だ。太陽の光。そして水が流れ込んでくる。匂いがある。自然の音がある。僕らは解放された。
勝ったのだ。僕たちはデスゲームに勝った。緊張の糸が切れ、僕は押し寄せる水の中に倒れ込んだ。
遠く、光の中に、救助に来た誰かの人影を見ながら、僕は意識を失った。
エピローグ 需要と供給で値段が決まるガンダムってなーんだ?
白い光の中にいた。
照明を浴び、カメラの前に立つQを見て、僕はぼんやり、「本当にクイズ王だったんだな」と思ったりした。
「なあ、A、あたしあの人のサインもらいにいっていいかな?」
隣でミラが明らかにそわそわしていたので、僕はうなずいた。ミラはすぐに観覧席を飛び出して、ゲストに来ていたミュージシャンに突撃していった。ミュージシャンはちょっと迷惑そうな顔をしていたが、ミラのああいうところが、僕は気に入っていたりする。
「お待たせ。楽しんでくれてる?」
大学の卒業式のような、わざとらしいローブをまとったQが僕に話しかけてくる。僕たちは、彼に招待されてテレビ局の見学に来ていた。
あのデスゲームから生還したあと、しばらく警察やら何やらの捜査につきあって(大門サクラや他の警察関係者たちが、いいように処理してくれた)ようやく落ち着いたころに、SNSでQを探してなんとなくフォローしたところ、連絡があったのだ。
「ああ、面白かったよ」
「それはよかった。あっちで少し話せるかな?ボクは、キミに聞きたいことがある」
ここでも、Qは相変わらずの口調だった。
「【元素記号Sで現されるガンダムってなーんだ?】」
「……は?」
「だから、【元素記号Sで現されるガンダムってなーんだ?】だよ。クイズだよクイズ」
テレビ局のカフェテリアで、Qはコーヒーに大量の砂糖を入れて混ぜながら、そう言った。それなりの数の人がカフェテリアを利用していて、新番組の宣伝まで遠くから流れてくるので、かなりざわついている。
「元素記号?ガンダム?僕、アニメとか見ないんだけど……」
「いや、ナゾナゾみたいなものだから。もっと柔軟に考えてよ」
やっぱり天才の考えることはよくわかないな、と思いながら、僕はカフェオレに口をつけ……なんとなく頭によぎった答えをつぶやいた。
「硫黄原子ガンダム?」
「ピンポーン!」
Qはうれしそうに手をたたく。
「なんじゃそりゃ。あるの?硫黄原子ガンダム」
「え?ないよ?」
「ないのかよ!」
クソ問題だ。
「でも、解けたでしょ?」
「それは、そうだけど……」
Qが言うには、これは『機動戦士ガンダムクイズ』という胡乱なクイズで、どこかのSF作家が冗談で出したものらしい。
「キミも出してよ、ガンダムクイズ」
「……【電車代やタクシー代のガンダムってなーんだ?】」
「移動経費ガンダム!」
「正解」
クソ問題だ。Qは「上手い上手い」とけらけら笑った。
「クイズ王のQサンは、こんなアホみたいなクイズを出すために僕をお台場まで呼んだわけ?」
「ああ、ごめんごめん。でも、あるいはそうかもしれない」
Qは笑いすぎて滲んだ涙をふいてから、少しだけ真剣な顔になった。
「あのデスゲーム、ボクの『異能力』は『ループ』だった。でも、ボクにはループした記憶がない。これは推測だけど、ボクは最後、キミのことをループさせたんじゃないのかな?」
「……そうだよ」
「教えてくれないかな、ボクとキミがどんなことを話したのか」
彼にそう聞かれれば、僕に答えない理由はない。あの最後の推理ができたのは、Qのおかげでもあるからだ。
僕はひととおりのことを話し、終わる頃にはカフェオレが冷めていた。
「なるほどね。いかにもボクがやりそうなことだ」
Qはコーヒーの底にたまった砂糖を流し込んだ。
「キミがクイズのことを深く理解してくれてうれしいよ」
「……ああ。そのおかげで、最後の謎が解けたようなものだから」
僕は思い出す。Qと本気で戦った早押しクイズ。あの緊張と興奮を。
「やっぱり早押しクイズでデスゲームなんて、もとから合ってないんだよね。キミも、それでオラクルが2人いるのに気づいたんだろう?」
そうなのだ。それが、僕が最後の謎を解けた理由の一つだ。僕は答え合わせをするように、目の前のクイズ王に話し始める。
「クイズは、出題者と解答者に信頼関係がないと成り立たない。出題者は、『これなら解けるだろう』と思って、解答者が解けるように問題を作る。解答者は、『解ける問題だろう』と思って、出題者の意図を読み解く。どっちが欠けてもだめだ。絶対に解けない問題が出るクイズはクソゲーだし、解けない問題だと思ったら誰も答えない。それじゃ意味がない」
Qは深く頷いた。
「そうだね。特に早押しクイズは、様々なお約束のもとに成り立っている。パラレル問題……いわゆる『ですが』問題なんて、その最たるものだね。あんなの、お約束がなかったらなんでもありだ。最後まで聞かないと解けたもんじゃない」
「だから、『アンサー』なんて存在を用意して疑心暗鬼を煽るあのデスゲームに、クイズが使われるなんて、合わないと思ったんだ。本当は、あの『異能力クイズ』を用意したほうのオラクルは、ゲームとして楽しんでほしくてルールや『異能力』を決めたんじゃないかと」
そこまで言って、僕は気づいた。もしかしたら、僕らがオラクルを倒した方法も、『異能力クイズ』を設計したオラクルによって仕込まれていたのかもしれない。出題者を信じ、他の参加者を信じ、協力することができれば、不死身に万能の『異能力』を持つオラクル相手でも、倒すことができるように。
「うん。だからほら、『機動戦士ガンダムクイズ』、解けたでしょ?ボクはキミが解けると思って出した。キミは解いてみせた。嬉しい!だからこれは、そういう意味ではまさしくクイズなんだよね。ボクは結構好き」
「……まあ、クイズ王が言うならいいんだけどさ」
「おーい、そろそろ再開するって、スタッフの人が」
サインをたくさんもらったミラが、にこにこしながら駆け寄ってきた。Qは時計を見て、あわててスタジオに戻る準備を始める。
「じゃ、よかったら最後まで見ていってよ」
そう言い残して、Qは急ぎ足でエレベーターに向かっていった。
「ね、見てみて。こんなにもらっちゃった、サイン……何話してたんだ?」
「いや……ただ、クイズは面白いねって話」
「ふうん。じゃ、今度ゲーセンにやりに行こうぜ。クイズゲームあっただろ」
僕とミラは他愛もない話をしながら、Qを追うように歩き出す。
僕は少しだけ迷ってから、ミラに言った。
「ねえ、『機動戦士ガンダムクイズ』って、知ってる?」
終わり
この作品は、2022年の逆噴射小説大賞に応募した作品の連載版です。
カクヨムに掲載したものをNoteに転載しています。
おまけ:この章で出てきたクイズの全文
Q 相撲の決まり手のうち、攻め込んだ側が、勢い余って自分の足を先に土俵外へ出してしまい、相手に勝ち星を与えてしまう決まり手をなんという?
A 勇み足
Q 『大漁』『こだまでしょうか』『わたしと小鳥とすずと』などの代表作がある、女性詩人は誰?
A 金子みすず
Q 日本で一番高い山は富士山ですが、二番目に高い山は何?
A 北岳
Q 『簡単なこともわからないわ』というサビで始まる、ボカロPツミキの楽曲は何?
A 『フォニイ』
Q サッカーとラクロス、ひとチームの数が少ないのはどちら?
A ラクロス
Q 6,28,496といった、自分自身が自分自身を除く正の約数の和に等しくなる自然数をなんという?
A 完全数
Q 塩漬けされた唐辛子を雪の上にまく、独特の製法で知られる、新潟県の郷土料理は何?
A かんずり
Q 2023年の第95回アカデミー賞で歌曲賞を受賞した、映画『RRR』の挿入歌は何?
A ナートゥ・ナートゥ
Q 馬車に変わるのはカボチャですが、御者に変わるのは何?
A ネズミ
Q 2019年に本屋大賞を受賞し、2021年には映画化された、5人の父と母を持つ高校生が主人公の小説は何?
A 『そして、バトンは渡された』
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