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ジョージ・シドニー監督 『キス・ミー・ケイト』 : 伝説の「48秒」

映画評:ジョージ・シドニー監督『キス・ミー・ケイト』1953年/アメリカ映画)

最近、黄金期のハリウッド・ミュージカル映画のファンになった私としては、本作も「見ておかないといけない1作」として見た。
一一というのは、半分は「嘘」である。

私は本作の存在を、MGMミュージカル映画のアンソロジー映画である『ザッツ・エンタテインメントPART2』(1975年)で知ってはいたのだが、ひとまず今のところは、フレッド・アステアジーン・ケリーのファンなので、「その他の名作」については、あまりハッキリした認識や記憶がなかった。基礎知識がまだ無いからである。

そしてそのせいで、うっかり本作を、ジーン・ケリーの映画デビュー作である『フォー・ミー・アンド・マイ・ギャル』(1942年)と取り違えてDVDを購入し、さらには本編を見るまで、そのことに気づかなかったのだ。

DVDのケースの装画を見てもジーン・ケリーらしき人物は描かれていないし、その表紙画に描かれたメインキャストにも、ケリーの名前が無い。その上『フォー・ミー・アンド・マイ・ギャル』はモノクロ映画だったはずだが、装画はカラー。
それでも「いや、ポスターなんかはカラーだから、これもそれを使ったものなんだろう」、また「ジーン・ケリーはデビュー作だから、メインの3人には入っていなかったのだろう」などと考えた。
さらには、『フォー・ミー・アンド・マイ・ギャル』は、ジュディ・ガーランドとの共演作だったという記憶がありながら、ガーランドの方には興味がなかったから、本作『キス・ミー・ケイト』のメインキャストの中に、大スターであるガーランドの名前が無いのにも、ぜんぜん注意が及ばなかった。一一まったく、思い込みというのは、怖いものである。

ともあれ、そんなわけで、本編が始まってしばらくし、メインキャスト3人のうちの3番手に当たるアン・ミラーが登場したあたりで、やっと勘違いに気づいた私だったのだが、まあ、アン・ミラーにも多少は興味があったし、本作が、ボブ・フォッシーが脇役の踊り手として登場している作品だったのを思い出したので、それはそれなりに興味を持って見ることにしたのである。

なお、前記の『ザッツ・エンタテインメント PART2』のレビューで、本作『キス・ミー・ケイト』に触れた部分は、次のとおりである。

『本作『ザッツ・エンタテインメント PART2』では、そんなボブ・フォッシーが、俳優(ダンサー)として出演した初期作品『キス・ミー・ケイト』(1953年)が紹介されていた。
フォッシーは、この作品以前すでに、「舞台」の方でダンサーやパフォーマーとして活躍していた人だが、ハリウッドに招かれて『キス・ミー・ケイト』などに出演した後は、「ミュージカル映画」の振付師にもなり、さらに映画監督へと成長していくのである。

で、また面白いのが、この『キス・ミー・ケイト』の主演は、ハワード・キールキャスリン・グレイソンアン・ミラーの3人だそうなのだが、最後のアン・ミラーを、私はごく最近、別のおよそ思いがけない映画で見ていて、そのギャップに驚かされた。

往年の「ミュージカル・スター」であるアン・ミラーは、私が最近DVDで再鑑賞したデイヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』に、個性的な「管理人のおばさん」役で登場していたのだ。』

(『マルホランド・ドライブ』の、アン・ミラー

『ザッツ・エンタテインメント PART2』では、「退き」のダンスシーンの紹介だけだったので、アン・ミラーの若さとダンスが目を惹く一方、アップは無かったから、3組の男女が踊るダンスシーンでは、誰がアン・ミラーで誰がボブ・フォッシーなのかが、今ひとつよくわからなかった

だが、今回『キス・ミー・ケイト』を見ることで、そのあたりがハッキリしたので、『ザッツ・エンタテインメント PART2』のレビューの方にも、アン・ミラーのアップの写真を加えておいた。
当然のことながら、たしかに若いけれど、やはり同一人物であった…。

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さて、そんなわけで、本作『キス・ミー・ケイト』の主演は、

ハワード・キール
キャスリン・グレイソン
アン・ミラー

の3人で、恋愛喜劇としての物語上の主役はハワード・キールキャスリン・グレイトソンのペア。アン・ミラーは、言うなれば「ダンス担当の準主役」である。
つまり、物語上では「主たるワキ役(準主役)」なのだが、しかし単なるワキ役ではなく、ダンスシーンではメインで、キールとグレイトソンのペアは、アン・ミラーほどには踊れないためだろう、「歌唱」中心だったのだ。

(キャスリン・グレイトソンとハワード・キール)
(左から役名で、ロイスの恋人ビル、ロイス、リリー、フレッド)

で、このパターンは、先日レビューを書いた、フレッド・アステアの映画出演第2作の『空中レヴュー時代』 と同じパターン。
恋愛喜劇のメインは別にいて、アステアは「主たるワキ役(準主役)」なのだが、ダンスシーンでは「主役」という作りの映画だったのである。

さて、そんな本作『キス・ミー・ケイト』は、多くの「黄金期ハリウッドミュージカル映画」がそうであったように、ブロードウェイの舞台(ミュージカル)を映画化作品
ストーリーは、次のとおりだ。

『(※ 舞台役者で演出家でもある)フレッドハワード・キール)の自宅に作曲家のコール・ポーター(ロン・ランデル)が新作(※ 舞台のための新曲)をもってやってくる。(※ シェイクスピア作)喜劇『じゃじゃ馬ならし』をベースにした(※ 歌劇)「キス・ミー・ケイト」(※ 用の曲である)。そこへ(※ フレッドの)元妻で(※ 劇中劇「キス・ミー・ケイト」の)相手役を務めるリリーキャスリン・グレイソン)もやって来て、2人は出来あがったばかりの曲を早速デュエットする。(※ そのあと)ロイス・レーンアン・ミラー)も(※ その場に)加わり、一気に盛りあがる。

初日の開幕を前にフレッドとリリーは昔話に花が咲く。リリーはフレッドから花束をもらって上機嫌なのだが、(※ じつは、フレッドが)若いロイスに贈ったものが手違いで(※ リリーに)渡ったのだ。

劇中劇『じゃじゃ馬ならし』が始まる。第1幕の途中でリリーが間違って花束を渡されたことを知るが、波乱のうちになんとか終了。幕間でもリリーの怒りはおさまらず、舞台を降りるとダダをこね、第2幕の途中で本当に出ていく。
終幕、ロイスを中心にした男女3組のダンス・ナンバー。

この後はリリーの代役でしのぐ手はずだったが、舞台を見ると何とリリーが戻っていた。まるで『じゃじゃ馬ならし』そのもので、ハッピー・エンドを迎え、フィナーレで賑やかにテーマ曲「キス・ミー・ケイト」を歌いあげる。』

(Wikipedia「キス・ミー・ケイト」

(劇中劇『じゃじゃ馬ならし』の尻叩きシーン)

ちなみに、映画マニアには周知のことだが、私レベルの人のために説明しておくと、本作の冒頭に登場する「コール・ポーター」氏は、実在の著名な音楽家で、舞台の『キス・ミー・ケイト』に関わった人である。「Wikipedia」によると、

『『キス・ミー・ケイト』(Kiss Me, Kate)は、コール・ポーター作詞・作曲のブロードウェイミュージカル。』

となっているが、コール・ポーターが「舞台脚本」まで書いたわけではないだろうから、これはあくまでも、舞台作品の「キス・ミー・ケイト」の名で知られる、その主題歌「So In Love(ソー・イン・ラヴ)」をコール・ポーターが書いており、この舞台の音楽をポーターが担当した、ということではないかと思われる。

(冒頭のシーン。左から役名で、リリー、コール・ポーター、フレッド)

ちなみに、映画の最初と最後で歌われる「So In Love(ソー・イン・ラブ)」は、名曲としてその後に何度もカバーされ、

『NETテレビ⇒テレビ朝日の『日曜洋画劇場』エンディングテーマに、1967年4月9日の番組開始から1999年3月28日まで使用された。「日曜洋画劇場のエンディングテーマ」として、日本では認識度が上がるが、元からのクラシック曲として勘違いされるにいたる。』

(Wikipedia「ソー・イン・ラヴ」

とのこと。
私が本作『キス・ミー・ケイト』冒頭の、ハワード・キールとキャスリン・グレイソンの歌唱を聴いて「この曲は、どこかで聴いたことがあるぞ」と思ったのは、懐かしき『日曜洋画劇場』のエンディングの、遥かな記憶だったのだ。
ちょっと物悲しくもドラマチックな、印象に残る名曲である。

(「ソー・イン・ラブ」を歌う、フレッドとリリー)

Original Soundtrack Recording 映画「キス・ミー・ケイト」 " So In Love " from Kiss Me Kate

(「So in love」(日曜洋画劇場エンディングテーマ)/コール・ポーター/指揮 荒川昌美/信州室内オーケストラ

日本語翻訳歌詞

さて、そんなわけで、映画の内容としては、これもアステアの『空中レビュー時代』と同様で、エンタテインメント映画としてそれなりに楽しめる作品ではあるものの、どうってことない内容だと言えば、どうってことない作品である。
そもそもが「恋愛喜劇」なんだし、私は「恋愛喜劇」そのものには興味がないのだから、これは致し方のないところであろう。

したがって、映画の内容というか、ストーリー面については、これ以上は立ち入らない。

では、私が本作のどこに興味を持って見たのかというと、次の2点である。

(1)アン・ミラーの、ダンサーとしての力量。
(2)ボブ・フォッシーの、ダンサーとしての力量。

まず、(1)についてだが、アン・ミラーは、物語の冒頭(映画内現実の冒頭)、フレッド(ハワード・キール)、コール・ポーター(ロン・ランデル)、リリー(キャスリン・グレイソン)の3人に続いて登場し、そこで、一人で踊りまくるという展開なのだが、さすがはダンスのプロという感じだ。

どこかでタップダンスの名手」として知られた人だ、という趣旨の記述を目にしたはずだが、たしかに見事なタップであり、ただのダンサーではない、というのがわかった。
実際、アン・ミラーのダンスシーンの多くで、タップの要素が取り入れられているのである。
また、彼女は腕脚がスラリと長く、見事なダンサー体型で、その点でも、なるほどと納得させられた。

(アン・ミラーとトミー・ロール)

もちろん、タップだけではなく、ダンス全般が「プロ」のそれなのだが、しかし、あえて言うと、例えば私が大好きな、フレッド・アステアジーン・ケリーほどの「特別さ」までは、彼女のダンスには感じられなかった。
つまり、「名手」ではあるけど、「神様」や「女王」というほどではない、という印象だったのだ。
だから、今後、アン・ミラーのダンスを見るために、その出演作を見るというようなことまではしないだろうということになったのである。

あと、注文をつければ、アン・ミラーは、たしかに美人ではあるけれど、やはり、ハリウッドの美人女優の中に入れば、二線級という印象は否めない。
つまり、ダンサーとして一流だったから、映画でも準主役がもらえたのだろうという印象は否めなかった。
個人的な好みとしても、顔がちょっと、派手でゴツすぎるのである。

(劇中劇『じゃじゃ馬ならし』の、トミー・ロールとアン・ミラー)

さて、次に(2)の、ボブ・フォッシーのダンスの方だが、一一その前に本作『キス・ミー・ケイト』における、フォッシーの役どころを説明しておかなければならない。

本作の主役が、フレッド(ハワード・キール)とリリー(キャスリン・グレイソン)の二人であり、ロイス・レーン役のアン・ミラーは、準主役のダンスパートのメインだと紹介したが、本作における劇中劇である『じゃじゃ馬ならし』の中では、金持ちの姉娘である「じゃじゃ馬娘」のケイトをリリーが演じ、その妹ビアンカをロイス(アン・ミラー)が演じる。

二人の娘の父は、娘たちの結婚に気を揉んでおり、当然、男嫌いのじゃじゃ馬である姉娘ケイトのほうを、特に心配している。
では、(アン・ミラー演ずるところのロイスの演じる)妹娘ビアンカの方はどうかというと、こちらは「相手は誰でも良いから、早く結婚したい」と言う(歌う)ような娘であり、当人は美人で金持ちの娘なのだから、求婚者はいくらでもいて、劇中劇では、劇に登場する主たる求婚者が、3人となっているのだ。

で、この「妹娘ビアンカへの3人の求婚者」のうちの一人が、ボブ・フォッシーなのである。

物語の終盤であり、劇中劇の終盤において、「Wikipedia」に紹介されていた『ロイスを中心にした男女3組のダンス』シーンがあるのだか、この3組のダンスのメインである、アン・ミラー演ずるロイスの、ダンスパートナーは、しかし、ボブ・フォッシーではなく、トミー・ロールというダンサー俳優だ。
彼は、作中現実でも「ロイスの恋人」ビルとして、アン・ミラーとのペアダンスを披露しており、3人の青年の中では、最もイケメンである。

(役名で、ロイス・レーンと恋人のビル)

つまり『ロイスを中心にした男女3組のダンス』の男性3人であり「妹娘ビアンカへの3人の求婚者」とは、ボブ・フォッシーとトミー・ロールとボビー・ヴァンの3人であり、アン・ミラーはトミー・ロールとペアで踊るので、当然、ボブ・フォッシーとボビー・ヴァンの2人は、別の女性ダンサーと踊ることになる。
これが『ロイスを中心にした男女3組のダンス』ということの意味であり、ボブ・フォッシーのペアとなったは、キャロル・ヘイニーという女性ダンサーであった。

(劇中劇『じゃじゃ馬ならし』の、妹娘ビアンカへの求婚者の3人)

で、問題は、この『ロイスを中心にした男女3組のダンス』シーンでは、本来メインであるはずのアン・ミラーとトミー・ロールペアのダンスを、ボブ・フォッシーとキャロル・ヘイニーのペアが食ってしまった、という点なのだ。

(ボブ・フォッシーとキャロル・ヘイニー)

この3人の男性ダンサーは、ダンサーとしての技量としては、素人の私が気づくほどの際立った差はない。
しかし、素人の私でも気づいたのは、ボブ・フォッシーとキャロル・ヘイニーのペアのダンスの振り付けが、際立ってユニークであり、目を惹くという事実なのである。

で、これはどういうことかというと、この「妹娘ビアンカへの求婚者」役の3人とは、いずれもが「若手のダンサー」として頭角を表してきていた人たちだったので、本作『キス・ミー・ケイト』の演出家は、この3人がそれぞれのペアと踊るダンスの振り付けを、「自由にやってみろ」と、それぞれに任せたのだ。
一一その結果として、伝説的なボブ・フォッシーとキャロル・ヘイニーのペアのダンスが出現することになり、このダンスは、後に“48秒のフォッシーとヘイニーのダンス”と呼ばれることにもなるのである。

私が見た『キス・ミー・ケイト』のDVDに収録されていたインタビューでは、後年のアン・ミラーがインタビューに答えて、

「ボブの振り付けたダンスを見て、これはすごいと思って、監督に伝えたんですけど、それが彼の振付師としての出世の発端になったんですね」

というような趣旨のことを語っていた。
このあたりの正確な事情はわからないものの、とにかく、『キス・ミー・ケイト』では「ワキ役のダンス」のひとつでしかなかった、この「48秒」において、ボブ・フォッシーのその後の、振付師としての人生が決まり、そののち『キャバレー』(1972年)や『オール・ザット・ジャズ』(1979年)など知られる、ミュージカル映画の巨匠(監督)にもなっていったのだ。

そんなわけで、本作『キス・ミー・ケイト』は、ハリウッドのミュージカル映画の歴史を知るためには、はずすことのできない作品だったのである。

(作中現実で、ビルの博打の借金の取り立てにくる、ヤクザの子分の二人組。地味に印象的なダンスを踊る)


(キネマ旬報WEB)https://www.kinejun.com/cinema/view/2372

(2025年6月16日)


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