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【私小説】中学3年生④─修学旅行 その2─

 二日目は泊まったホテルを出て、バスで京都へ向かった。

 京都では、定番の寺社&史跡めぐりをした。

 最初は二条城からスタート。踏むと鶯の鳴き声のような足音がする床、御殿の中に大政奉還の様子を再現した大量の蝋人形などを見た。

 二条城はどこもきらびやかであった。内部の彫刻には金箔が張られていて、薄暗い中でも眩しく感じられた。また、堂々たる襖絵や障壁画もあって、何だか時代劇の世界にいるような感じがした。

 二条城を巡ったあと、3年のクラスから2年のときに決めた行動班に別れ、自由行動の時間となった。

 

 タクシーに乗り、最初の目的地東寺へ降りた。

「迫力あるなぁ……」

 東寺の講堂と金堂にあった立体曼荼羅は、まるで生きているかのような感じだった。仏像たちは、大日如来を中心に思い思いのポーズを取っているのだが、そのどれもが活き活きとしている。

「佐竹くん」

 金堂を見終えたあと、三浦くんが声をかけてきた。

「ん、どうした?」

「写真撮らなくていいのかい?」

「お、そうだった!」

 私はカメラを取り出し、五重塔の写真を撮った。横向きのものと、縦向きのもの合わせて二枚。

 次に京都タワーへ行ったわけだが、これは京都が一望できるくらいで、さほど印象に残らなかった。歴史とか文化に興味のない元クラスメートの女子が決めたことだから仕方ない。

 強いて印象に残っているものがあるとすれば、占いの機械だろうか。展望台にあった。何の占いの機械だったかは忘れたが。

 この占いの機械の少し胡散臭い感じは、10年以上経った今でも謎のままである。


 京都へ行ったときの思い出としては、タクシーの運転手さんの話もある。

 学校がタクシーを手配してくれたのだが、そのときに私たちを乗せるタクシーの運転手さんの話が面白かった。

 運転手さんは、グレーのスーツを着た瘦せ型の60代くらいのオジサンだった。白い髪をオールバックにし、眼鏡をかけている。

「君たち何で来たのかな?」

 運転手さんは、タクシーに乗っている私たちに聞いた。

 三浦くんは「飛行機とバスです」と答えた。

 飛行機と聞いた運転手さんは、

「飛行機な。あんな不自然なもの怖くて乗れんわ。だって、鉄の塊が空飛んでんだぞ、鉄の塊が!」

 と不満げに答えていた。

「確かに言われてみれば!」

 三浦くんは妙に納得した顔で答えた。

「何言ってんだか……」

 同じ班のスタジャンくんは、呆れ顔で三浦くんの方を見ている。

 私も当時はスタジャンくんと同じで、特段深いことは考えなかった。ただ、面白いこと言ってるなくらいなだけで。でも、後になってよく考えてみると、鉄の塊が空を飛んでるというのは確かにおかしい。紙やビニール袋が舞っているならまだわかる。だが、それよりも遥かに重い鉄や銅、アルミニウムの塊が空を飛んでいると考えると、あり得ないよな、と考えてしまうのもわからなくはない。逆に裏を返せば、不可能を可能にした近現代の技術力の象徴とも言える。


 昼食は京都駅の中にある近くのレストランでとった。そのとき運転手さんはコーヒーだけを頼んだ。

「どうしてコーヒーだけ頼むんですか?」

 私がそう聞くと、

「うちの家内みたいになりたくないから。あれは力士みたいにでっぷり太っててさ。あーはなりたくないなって思って、あまり食べないようにしてるんだ」

 と答えた。運転手さんの奥さんがどういうビジュアルなのか、なんとなく想像がついた。

「でも、気立てはいいよ。俺はそこに惹かれて結婚した。大事なのは『見た目』ではなく『心(ハート)』なのさ」

 先ほどの奥さんへの愚痴から一転、イケメンなセリフが出てきたのには、私も少し驚いた。同時に奥さんへの愛情を深く感じられた。最初はおもしろキャラだと思っていたけど、しっかり見た目通りのイケオジだった。


 昼食を食べたあと、知恩院へ立ち寄った。だが、改修工事のためか、入ることはできなかった。

「これ、お願いします」

 私はデジカメを運転手さんに渡した。そして、班員が揃って並ぶ石段の前に整列する。

「じゃあ、撮るよ」

 運転手さんは、私が並んだのを確認したあと、写真を何枚か撮った。

「どうぞ」

 運転手さんは、私にカメラを渡した。

 カメラを見てみる。裏側の液晶画面には、控え目にピースをする女子2人と私、そしてスタジャンくんが写っていた。三浦くんはというと、左脇で楽しそうにピースをしている。

 ちょっとシュールな一枚。けれども、今となっては微笑ましい青春の一枚として私のアルバムに入っている。


 時間の都合で清水寺へと向かった。

 本来であれば、京都護国神社へ向かう予定だったが、集合まで間に合わないので、急遽立ち寄らず、そのまま集合場所である清水寺へ行くことを決めたのだ。

 運転手さんは、清水寺付近にある京都を感じられるところへ案内してくれるというので、向かうことにした。

「おー!!」

 二階建ての日本家屋。立派に結った日本髪に振袖を着、下駄を履いた舞妓さん。目の前に広がっていたのは、イメージしていた京都そのものだった。特に建物に関しては、京都のどこよりも日本らしい。

「日本って感じだねぇ」

 一緒に行動していた平賀さんがこんな言葉を発した。

「懐かしい感じがしていいよね」

 私はそう返した。

「写真、撮らなくてもいいの?」

 和田さんは私に聞いた。

「いいよ、時間無いですし」

「ほんとうに?」

 和田さんがそう聞くと、

「せっかくだから、撮っていきなって!」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 私は良さげなスポットを探した。ちょうど目の前に三重塔があったので、ここで撮ろうと決めた。

「せっかくだし、さっきみたいにみんなで撮らない?」

「いいね。撮ろう」

 観光客の人を適当に捕まえ、写真を撮ってもらうことにした。私と三浦くん、スタジャンくん、平賀さん、和田さんの5人は三重塔が見える通りの前に集まった。

 少し作り笑顔がイタい。けれども、それがぎこちない感じで、甘くてすっぱい青春の味がして、いい一枚だった。


 清水寺では、あの有名な舞台や音羽の滝とかを見たりした。

 清水寺も時間が無かったので、少しだけ見て終わった。

 印象に残ったのは、やっぱり崖にあるあの高く組まれた舞台だろう。

「清水の舞台から飛び降りる」

 こんなことわざがあるけれど、もし本当にここから飛び降りたら、死ぬのは確定だろう。死ななかったとしても、半身不随とか植物人間になるくらいはしそうである。ここから飛び降りた人がいる考えると、昔の人は本当に度胸があるなと思う。

 巡ったあとは、集合地点である仁王門の前に集まり、近くの駐車場に停まっていた貸し切りの観光バスに乗って大阪へ向かった。

 地元にいるときに感じられない伝統文化、普段あまり話さない人との交流、そして運転手さん。京都の探索は楽しかった。

 また行きたいなと思えた。今度行くときは、前に行けなかった知恩院とか京都護国神社とかにも行きたい。今度は三浦くんとスタジャンくんだけでなく、別のクラスの多田くんとも一緒に。

 満足感と未練、二つの感情が入り混じった中、バスの車窓から見える街を眺める。そうしているうちに、意識がゆっくり飛んでいった。

─続く─


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