【私小説】中学3年生③─修学旅行 その1─
3年生になってから2週間後に修学旅行があった。
修学旅行は2泊3日。巡るのは、滋賀・京都・大阪の2府1県。一日目は滋賀、二日目は京都、三日目は大阪を巡る。
学校からバスに乗り、そのまま空港へ向かった。
券が配られたあと、荷物のX線検査をし、飛行機に乗った。
初めて乗った飛行機は、絶叫マシーンに乗っているみたいな感じだった。
離陸して上へ上がるとき、機体が傾く。それと同時に、耳の調子がおかしくなり、重力が全身にかかる。その感じが少し恐怖感を覚えた。
空の上からは日本の海岸線とかが見えた。どこがどこかまではわからない。けれども、何となくこんな感じなんだなと楽しめて面白かった。
着陸する前も離陸と同じで、機体が傾き、耳の調子がおかしくなる。物凄い重力がまた全身に加わった。
伊丹空港で降りたあとは、バスに乗って滋賀へ向かった。車窓から太陽の塔とかを見たりして。
琵琶湖の見える公園で降り、そこでお昼を食べた。
琵琶湖を見た感想としては、海みたいだった。本当にこれが湖なのか? と思えるくらいに広い。しかも風のせいなのか、波も打っている。
琵琶湖が海みたいに感じられた答えが、お昼ご飯の後に行った博物館の講座でわかった。
「琵琶湖は元々海であったけれど、大地のはたらきで陸へと押され、残された水が琵琶湖になりました」
講義のしている学芸員さんは、琵琶湖についてこのように語っていた。
(あ、だから海みたいな感じなんだ)
私は理科も得意ではないから、詳細はよくわからなかった。けれども、琵琶湖が大昔海であったならば、そう感じるのも何かわかるような気もする。海みたいに感じたのは、だだっ広い景観のせいもあるのだろう。だが、その土地が持っている記憶がそう見せていると考えると、頭の悪い私にも少し納得できるような気がする。
講義の後は、近くでアクティビティをやった。
アクティビティについては、カヌーみたいな体を動かす系のものもあったけど、運動神経が良くないので釣りにした。
「なかなか釣れないね」
私はぼやいた。先ほどから竹でできた本格的な釣竿にドックフードをつけて釣っているのだが、なかなか釣れないのだ。
「ま、この時期だからねぇ。まだ魚が活動するには水が冷たいんでしょ」
隣にいた多田くんは、そう返した。
「そうか」
道理で釣れないわけだ。ましてや固有種ともなれば、ポケモンで言うなら、揺れる草むらにいるポケモンを探すのと同じくらいのレア度があるであろう。私はこのとき、他のプログラムにすればよかったと後悔した。
結局誰も何も釣ることなく、アクティビティは終わった。
この後は遊覧船でバイキング形式のディナーをとった。みんな、特に男子が殺到するので、何も取れなかった。
(『中学生男子の食欲恐るべし』みたいに大人は言うけれど、なんとなくわかった)
大人がよく中学生男子の底なしの食欲を表すときに言う慣用句の意味が、このときわかった。
「あげる」
三浦くんは、皿に盛りつけた料理の一部を私の空の皿に入れた。
「ごめん」
うれしい。私のために持ってきてくれるなんて。持つべきものは友というけど、それを今実感している。
「全部自分の嫌いなものなんだけどね。というわけで、ヨロシク」
三浦くんはそんな私の思いとは裏腹に、自分の嫌いなもの全部を私に押し付けてきた。
「他人に嫌いなもの押し付けるな!」
思いを裏切られた私は叫んだ。
食べ終えた後、私は甲板の上に登った。
目の前にはどこまでも広がる闇夜と真ん丸なお月様、そしてその影を映す黒い水面がどこまでも続いていた。
──手を伸ばせば届くかな?
船の手すりから身を乗り出し、私は空の上にあるお月様に手を伸ばそうとした。今なら届きそうな、そんな気がした。
「た、健が身投げしようとしてる!!」
一人私が月に手を伸ばそうとしているところへ、三浦くんがやってきて、私を手すりから引きはがした。
「身投げしようとなんてしてないって……」
私は反論した。別に飛び降り自殺をしようとかそう思って出ようとしたのではない。金貨みたいな黄金色に輝く月に手が届きそうな気がしたから、情景反射的にそうした。ムードぶち壊すなよ。
「さっき自分の嫌いなものを全部あげてしまったから怒ってるのか? ごめんよぉ」
「はははっ……」
何だかおかしくなって、笑いが出てしまった。
今ではただ馬鹿馬鹿しい瞬間。でも、何年、何十年経ったその日には、こういうくだらない日々も、永久に語り継ぐ青春のエピソードの一つになっているのだろう。そう考えると、恥ずかしくもあり、微笑ましくもある。
その後は琵琶湖のほとりにあるホテルに泊まり、修学旅行1日目は終了した。美しい風景も、残念なことも、何でもありな修学旅行初日は、これで終わった。
【前の話】
【次の話】
いいなと思ったら応援しよう!
書いた記事が面白いと思った方は、サポートお願いします!