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母ちゃんのおっぱい

ひどく威圧的な態度でこられたり、不当な攻撃を仕掛けられると、相手が実体よりも巨大に見えることがある。
明らかに理不尽なのに、その尊大さに委縮してしまう。
雰囲気に飲まれ気圧されて、負けたような気がして勝手に傷ついてしまう。

そういうとき、自分の中にも「言い負かされたくない」「言われっぱなしで終われない」という、相手とは別の黒い感情が沸き上がる。

同時に、同じ土俵には死んでも乗りたくない、とも思う。
こちらを見下した相手の態度に少しでも反応すること自体が、結果がどうであれ自分を下げる。

だから、それ以上ヒートアップしないために、心の中で呪文を唱える。

「そうはいっても、この人だって母ちゃんのおっぱい吸ってたんだよなぁ」

そんなに偉そうにしているけれど、同じ人間じゃないか。
あなたも誰かの手で世話をされ、庇護されてきた人じゃないか。
かつては弱い赤ん坊で、その弱さを許されていたではないか。

赤ちゃんだった相手を想像すると、目の前で膨らみ続けていた威容がはじけて、急にサイズ感が戻る。

この人は絶対強者ではないし、完璧でもない。
私を不当に扱っていいわけでもない。
少し冷静な感覚が戻ってくる。

呪文は人を見下さず、人に見下されないため。
相手を怪物化せず、自分も怪物化しないため。