人材マネジメントポリシーはどう決めるの? - 後編【時をかける戦略×人事】(7話)
〜前回までのあらすじ〜
(ナレーション)
前回、人材マネジメントポリシーを定めることによる効果と具体的な要素を整理した3人の新田。今回は具体的な策定ステップに歩みを進める。
人材マネジメントポリシー策定の5ステップ


New Field Partners(以下、NFP)では、人材マネジメントポリシー策定を、 大きく5つのステップで整理しているよ。
1つ目は、リサーチ。
経営・事業・組織の前提条件を洗い出し、 人材や組織に関する暗黙の前提やズレを可視化する。2つ目は、判断軸の明確化。
人に関する意思決定の優先順位を言語化し、 マネジメントポリシーや人材観を明確にする。3つ目は、約束の定義。
社員に求めることと、会社が約束することを整理し、会社と社員の関係性を明文化する。4つ目は、行動基準の具体化。
求めるスタンスやスキルを定義し、評価・育成・採用で使える粒度まで落とす。5つ目は、人事施策への接続。
採用・制度・育成へ一貫して反映し、 人事施策を同じ思想で揃える。




いきなり評価制度を作るんじゃなくて、
まず前提を洗い出して、判断軸を決めて、社員と会社の約束を整理して、
それから行動基準や制度に落としていくんですね!



そうだね。順番としては、思想 → 約束 → 行動 → 制度と考えると、かなりわかりやすいと思うよ。
この一気通貫設計は、NFPの営業資料でも独自性として整理しているんだ。

(1)リサーチ:暗黙の前提とズレを見つける


最初のリサーチって、
社員アンケートとか、組織サーベイみたいなものですか?



それも含まれるんだけど、人材マネジメントポリシーを作るときのリサーチは、 単に社員の満足度などを聞くというより、人や組織に関する前提のズレを見つけることに近いんだ。
たとえば、経営者は「うちは挑戦を重視する会社だ」と思っている。
でも現場の管理職は「失敗すると評価が下がる会社だ」と思っている。
社員は「本当は安定して成果を出す人のほうが評価される」と感じている。
こういうことが、珍しくない。



会社が言っていることと、現場で起きていることが違うんですね。



そうだね。 だから最初に、経営の言葉、現場の実感、制度の運用、採用で伝えているメッセージを見比べてみる。 そこにズレがあるときは、ポリシーを作る前に、そのズレ自体を可視化しておく必要があるんだ。



最初から「理想のポリシー」を考えるんじゃなくて、
今すでに存在している「暗黙のポリシー」を掘り起こす、
ってことだな。



そう言えるね。どの会社にも、言語化されていない「人の見方」があるんだ。
誰が評価されるのか?
誰が昇進するのか?
誰が辞めていくのか?
そこを見ずにきれいなポリシーを作っても、現実と噛み合いにくいんだよね。

(2)判断軸の明確化:何を優先し、何を優先しないか


次が「判断軸の明確化」か。
ここが一番難しくて、しんどそうだな。



たぶん、ここが一番重要かつ大変で、一番逃げ出したくなるところだね。



逃げ出したくなる……?



なぜなら、ここでは「全部大事です」が通用しないから。
育成を優先するのか、即戦力を優先するのか。
成長を評価するのか、結果を評価するのか。
自由を重視するのか、規律を重視するのか。
短期成果を重視するのか、長期の成長を重視するのか。
もちろん、現実には完全にどちらか一方だけを取るわけではない。 ただ、迷ったときにどちらを優先するのかは、決めておく必要があるんだ。



それを決めないと、制度に入った瞬間にブレるもんな。



そのとおり。
たとえば「育成重視」と言いながら、短期で成果が出ない人をすぐに見切る運用をしていれば、社員は「結局、育成なんて言葉だけだ」と受け取ってしまう。
逆に「即戦力重視」と言いながら、成果を出さなくても長く在籍している人を優遇すれば、 高い成果を出している人は不公平に感じるかもしれないね。



人材マネジメントポリシーって、
「きれいな言葉」じゃなくて、
迷ったときにどっちを優先するかを決めるものなんですね。

(3)約束の定義:社員に求めることと、会社が提供すること


次の「約束の定義」って、なんだか少しやさしい言葉ですね。



いや、たぶんここも重いぞ。
社員に求めるだけなら簡単だけど、
会社が何を返すかまで約束しないといけない。



ソリットニーの言うとおり。
人材マネジメントポリシーは、会社が社員に一方的に要求する文書ではありません。会社は社員に何を求めるのか。その代わり、会社は何を提供するのか。この関係性を言葉にする必要があります。



たとえば?



たとえば、
「高い成果を求める」のであれば、会社はそれに見合う裁量や報酬や成長機会を用意する必要がある。
「挑戦を求める」のであれば、失敗から学べる環境や、再挑戦できる余地が必要になる。
「チームでの貢献を求める」のであれば、個人成果だけでなく、ナレッジ共有や周囲への貢献も評価する仕組みが必要になる。



つまり、
「社員に要求すること」と、「会社が提供すること」が釣り合ってないと、
ポリシーとしては弱い。



そうだね。厳しいことを求めるのは悪いことではない。
ただし、その厳しさに見合う機会や支援や報酬を用意する。
そこまで含めて、会社と社員の約束ということなんだ。

(4)行動基準の具体化:評価・採用・育成で使える粒度にする


ここまで来ると、ようやく人事っぽくなってくるな。



ただ、ここでも注意が必要。
人材マネジメントポリシーを作るときに、「主体性」「挑戦」「チームワーク」「成長意欲」といった言葉は、よく出てくる。
でも、これらの言葉は、そのままだと人によって解釈が分かれやすいんだ。



わかる。
主体性って言っても、勝手に動くことなのか、
責任を持って提案することなのか、
人によって解釈は全然違ってくるよな。



「自律」と「自立」とかもよく見かけるけど、
僕は正直あまり違いがわかっていません……(笑)



そうなんだよね。だから、採用・評価・育成で使える粒度まで落とし込む必要があるんだ。
たとえば「挑戦」であれば、単に新しいことをやることなのか。
顧客価値に基づいて仮説を立て、リスクを見積もり、周囲を巻き込みながら実行することなのか。
そこまで具体化しないと、評価でも面接でも使いにくい。



言葉を、行動に翻訳するんですね。



そのとおり。人材マネジメントポリシーは、現場で見える行動に落とし込まれて初めて機能するんだ。

(5)人事施策への接続:同じ思想で揃える


ここでようやく、採用、評価、育成、配置、報酬といった施策に落とし込んでいくよ。



多くの場合、ここから始めがちなんだよな。
評価制度を作りましょう、採用基準を作りましょう、
研修を用意しましょうって。



もちろん、制度や施策は必要。
でも、人材マネジメントポリシーという判断軸がないまま施策を作ると、それぞれが別々の思想で作られてしまう懸念があるんだ。
採用では「自律人材」を求める。
評価では「上司の期待に正確に応える人」が高く評価される。
育成では「研修を受けること」が目的化する。
こうなると、施策の数は増えても、組織に一貫性が生まれない。



逆に、人材マネジメントポリシーがあると、
全部が同じ方向を向くんですね。



そうだね。
採用では、どんな人を見るのか。
評価では、何を良い行動とするのか。
育成では、どこに投資するのか。
配置では、誰に機会を渡すのか。
これらが同じ思想でつながると、人材マネジメントはようやく有機的に動き始めるんだ。

人材マネジメントポリシーは、思想を制度へつなぐ橋である


人材マネジメントポリシーとは、
経営の考え方を、人事の判断に変換するプロセスと言えるな。



おっしゃるとおり。人材マネジメントポリシーは、思想を制度へつなぐ橋のようなもの。
この橋がないまま制度を作ると、採用も評価も育成も、それぞれ違う岸に向かってしまう。
だからまず、どこからどこへ渡す橋なのかを決める。それが人材マネジメントポリシー策定の役割なんだ。



ステップとしては掴めてきました。でも、
育成か即戦力か。
結果か成長か。
個人かチームか。
自由か規律か。
そういう問いを、どう扱えばいいのかが難しそうですね……。
その判断軸を引き出すための型ってありますか?



(田●要次風に)あるよ。
次回は、NFPで使っている15の設問を紹介するね。

今回のおさらい
人材マネジメントポリシーは、採用・評価・育成・配置を同じ思想で揃えるための判断軸である。
リサーチ→判断軸→約束→行動基準→施策接続の5ステップで整理すると、思想が制度につながりやすい。
人材マネジメントポリシーが完成するとは、社員に求めること、会社が提供すること、現場で使える行動基準が言葉になり、人事施策へ接続できる状態である。
