なぜ「力こそ正義」は、よみがえったの?世界は、もう元には戻らない#1
この1年間で読んだ国際政治分野の本の中で、
もっとも強く「これは読まなければならない」と思わされた一冊がある。
『新書 世界現代史 なぜ「力こそ正義」はよみがえったのか』(川北省吾 著)。
正直に言えば、
世界現代史を理解する以前に、面白い。
ページをめくる手が止まらない。
文章には強いストーリー性があり、構成は鮮やかだ。
だが、この本は決して軽い読み物ではない。
中身は、現代政治経済史である。
しかも、
テレビやネット、雑誌にあふれる
「想像力で書き、空想力でコメントする」
いわゆるジャーナリズムとは、一線を画す。
現場を歩き、当事者に話を聞き、
一次情報を積み重ねた、取材の本だ。
紀伊國屋の書評評者が指摘する
「丁寧な取材とニュートラルな記述」
「良質なドキュメンタリー番組を見ているようだ」という評価は、誇張ではない。
世界は、なぜ急に揺らぎはじめたのか
本書が投げかける中心的な問いは、明確だ。
なぜ、
ロシアはウクライナに侵攻したのか。
なぜ、世界中で移民排斥が広がるのか。
なぜ、権威主義国家が力を増し、
なぜ、トランプ2.0が現実味を帯びているのか。
なぜ、民主主義の制度基盤はここまで脆くなったのか。
著者は、これらを「別々の事件」として扱わない。
一つの構造として描き出そうとする。
「警察官」の退却から始まった世界の変化
本書のプロローグに置かれるのは、
「世界の警察官」の退却である。
冷戦後、アメリカは唯一の超大国として、
国際秩序の維持を担ってきた。
だがその役割は、
すでに終わりつつある。
力尽きたのか、
意図的に退いたのか。
理由はともかく、
秩序を取り締まる存在はいなくなった。
その結果、
世界はルールではなく、力で動く空間へと変質していく。
勝ちすぎた覇者と、内側から崩れるアメリカ
アメリカは「無敵」だと信じた。
自らの価値観が世界標準だと疑わなかった。
だがその驕りは、
同盟国の依存と、敵対国の反発を同時に生んだ。
しかも、アメリカ自身が
格差、分断、エリート不信に蝕まれていく。
トランプ現象は異常ではない。
必然だったと、本書は静かに示すはずだ。
民主主義の制度は残っているが、
民主主義への信仰は失われつつある。
過去に取り憑かれたロシア、歴史を書き換える中国
ロシアのウクライナ侵攻は、
安全保障の合理性だけでは説明できない。
そこにあるのは、
屈辱の記憶と復讐、
すなわちリバンチズムだ。
一方、中国は秩序を壊すのではない。
主役を交代しようとしている。
「百年国恥」を原点に、
西洋中心の世界史を
「それは例外的な時代だった」と書き換える。
未来を見ているようで、
両者とも実は過去を見ている。
「南」の逆襲と、価値観なき連帯
BRICSを中心とするグローバルサウスは、
民主主義か権威主義かという対立に関心が薄い。
彼らが求めているのは、
自由でも正義でもなく、選択権だ。
反米ではない。
反・支配である。
民主主義を壊すのは、自由そのもの
SNSは検閲を壊した。
だが同時に、共通の現実も壊した。
事実より感情、
正確さより拡散力。
民主主義は理性を前提とする制度だが、
その前提自体が崩れ始めている。
排外主義や陰謀論は、
経済問題ではなく、恐怖の問題として拡散していく。
世界は「19世紀」に戻りつつある
本書が辿り着く結論は、厳しい。
世界は再び、
勢力圏、取引、力の均衡が支配する
19世紀型の国際政治へ向かっている。
これは過去への逆戻りではない。
別の形での再来だ。
日本人への静かな問い
この本は、答えを押し付けない。
だが、読者をある地点まで連れていく。
この世界で、日本はどう生きるのか。
力の時代に、理念だけで生き残れるのか。
子や孫に、どんな世界を引き渡すのか。
子や孫を持つ人こそ、読むべき理由がここにある。
まあ、読んでほしい。話はそれからだ。
世界は、もう元には戻らない。
だからこそ、
理解しないまま進むのは、あまりにも危険なのだ。
“History never ended. We just forgot how it works.”
(歴史は終わっていない。ただ、その仕組みを忘れていただけだ)
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