「今のままでいい」と言ってほしい二代目社長へ
「社員との距離が縮まらないんです」
そう話し始めた二代目社長がいました。
先代である父親は、厳しいけれど決断の早い経営者でした。社員からの信頼も厚く、今でも社内では「先代ならこうした」「昔はもっと厳しかった」という言葉が聞こえてきます。
会社を継いで数年。
売上が大きく落ちたわけではありません。社員も真面目に働いてくれています。それでも、自分の経営が認められているという実感が持てない。
社員には強く言えない。
父親には弱音を吐けない。
家に帰る頃には、子どもたちは眠っている。
そして最後に、社長は小さな声でこう言いました。
「誰かに『今のままでいい』って言ってほしいだけなのかもしれません」
これは、甘えなのでしょうか。
私は、そうは思いません。
人は誰でも、自分の歩みを誰かに見ていてほしいと願うことがあります。特に経営者は、社員や家族の前で簡単に弱音を吐けません。
弱さを見せれば、不安にさせるのではないか。
迷いを話せば、社長として失望されるのではないか。
そう考え、気づかないうちに一人で抱え込んでしまいます。
二代目経営者の場合は、そこに先代との比較も加わります。
創業者は、何もないところから会社をつくった人です。その存在は大きく、簡単に超えられるものではありません。
けれど、本当に先代を超えなければならないのでしょうか。
私は、二代目には二代目の役割があると考えています。
会社を立ち上げる力と、受け継いだ会社を次の時代へつなぐ力は、同じではありません。
先代と同じ経営をすることが、会社を守ることになるとは限りません。時代が変われば、社員との関わり方も、働き方も、求められるリーダー像も変わっていきます。
それでも、比較され続ける本人にとっては、「自分らしくやればいい」という言葉さえ、簡単には受け入れられないものです。
なぜなら、「自分らしくやった結果、会社を悪くしたらどうしよう」という恐れがあるからです。
だからこそ、相談を受ける側が最初にすべきことは、経営改善の提案ではないのかもしれません。
社員アンケートを取る。
組織改革を進める。
先代との役割分担を見直す。
どれも大切なことです。
しかし、その前に必要なのは、
「先代と比べられながら、一人でよく背負ってこられましたね」
と受け止めることではないでしょうか。
相談者は、すぐに答えが欲しいとは限りません。
本当は、自分の頑張りを認めてほしい。
迷っている自分を否定しないでほしい。
社長ではなく、一人の人間として話を聞いてほしい。
そう願っていることがあります。
心の整理とは、弱さをなくすことではありません。
「私は先代に負けたくなかった」
「社員に認められたかった」
「父親に褒めてほしかった」
「本当はもう疲れている」
そんな、自分でも認めたくなかった感情に気づいていくことです。
言葉にできたからといって、すぐに問題が解決するわけではありません。
それでも、自分が何を怖れ、何を求めていたのかが分かると、次の選択は少しずつ変わっていきます。
先代と同じ社長になる必要はありません。
けれど、今のままで何も変えなくてよい、と簡単に言い切ることもできません。
大切なのは、誰かの評価だけで自分を決めるのではなく、自分はどのような経営者として歩みたいのかを、時間をかけて考えることだと思います。
人生は流れである。
会社も、人も、自分自身も、少しずつ変わり続けています。
先代から会社を受け継いだ日も、社員との関係に悩む今も、これから自分なりの経営を見つけていく時間も、すべては一つの流れの中にあります。
今はまだ、自分の道が見えないかもしれません。
それでも、迷いながら選び、悩みながら歩いた時間は、最後に振り返れば、その人だけの一本道になっているのだと思います。
この記事を書いた人

神谷 佳希
人生について考え続け、その歩みに寄り添う人
司法書士|行政書士|土地家屋調査士
プロフィール
大学生の頃、クーリングオフ制度を利用した経験から、「社会で生きていくためには、法律や制度を知ることが大切なのだ」と実感しました。
その経験をきっかけに法律を学び始め、現在は司法書士・行政書士・土地家屋調査士として、一人ひとりの人生に寄り添う仕事をしています。
私が本当にお手伝いしたいのは、法律手続そのものではありません。
一人ひとりが自分で考え、自分で判断し、自分らしい人生を選び、安心して歩み続けられるよう伴走することです。
そのために、法律や制度、必要に応じて生成AIも活用しながら、一緒に考え、一緒に歩んでいます。
このnoteでは、法律、生成AI、人生について、「自分で考えること」を大切にしながら発信しています。
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人生は流れです。
最後に振り返ったとき、「この人生でよかった。」と思えるように、一緒に考え、一緒に歩んでいきましょう。
