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カナイと八色の宝石④

「あのテントよ」

 少女はあえてカナイの不機嫌な様子に触れることなく、村の入り口を指差した。そこには、三つのテントが張られていた。

「一番手前の黄色いテントが、私の。真ん中の大きな青いテントが、団長とチンさんとエレさん。一番奥の緑のテントは、カストル兄さんと身の回りのお世話をしてくれる人が、一緒に使っているのよ」

「カストル兄さんって、ジャグリングの人?」

 カナイが目を瞬かせると、少女は笑顔で頷いた。心なしか、少女の頬が赤い。

「そう。カストル兄さんは、とても器用な人なの。ナイフのジャグリングは、王様の前でも披露されたことがあるのよ。私とカストル兄さんは、団長が首都を訪れた時に採用していただいたのだけれど。カストル兄さんは、次の日から一人前と認められたの。私は、まだまだ半人前だけれどね」

 少女が舌を出すと、カナイはさっきまでの不機嫌さを忘れて笑った。少女の仕草の一つ一つは、シュリやテンデには見られないものだ。これが同世代の女の子との会話なのかと、カナイの心は弾んだ。

「そう言えば、まだ名前言ってないね。私、カナイ。後ろにいるのがシュリで、そっちの怪我してるのが」

「ててて、テンデだ、です。よ、よろしくおねがいし、ま」

 耳まで真っ赤に染まっているテンデに、カナイは目を瞬かせた。

「テンデ、どうしたの? 熱でもあるの?」

「うるさいぞ、カナイッ。何でもねーよっ」

 目をむいて怒るテンデに、カナイはまた目を瞬かせる。二人の横で、少女は笑い声を上げた。

「みんな、仲が良いのね。私は、シスカよ。滞在期間は短いけれど、お友達になっていただけると嬉しいわ」

「もちろんだよっ」

 カナイが飛び上がって喜ぶと、シスカはまた笑い声を上げた。

 村の人々は、大口を開いても隠すことをしない。手で口を隠して笑うシスカの姿は、珍しいものだ。頭の上で結われた髪は金色だし、肌の色も白いし、鮮やかな黄色の衣装を着ているし。話し方だって、丁寧な言葉遣いが混ざる。カナイには、シスカがお話の中のお嬢様のように見えた。

 黄色いテントの前まで来ると、少女は入り口を開けた。

「さあ、どうぞ。少し狭いけれど、みんな入れると思うわ」

 少女に促されて、カナイ達はテントの中に足を踏み入れた。土の部分は入り口付近のみで、あとは小花模様の織物が敷き詰められている。カナイ達はサンダルを土の上に置いて、裸足で織物の上に乗った。

「二人は、適当に座って。あなたは、こちらへどうぞ」

 テンデが少女の向かい側に座ると、さっそく傷の手当てが始まった。カナイとシュリは入り口の近くに座ると、テントの中を見回す。移動が多いからか、荷物は全て袋の中にまとめられていた。袋は全部で三つあって、どれもカナイが両手を回しても指が届かないほどの大きさだ。

「これ、持ち運ぶの大変じゃない? テントも運ぶんだよね?」

 カナイが疑問を素直に口に出すと、少女は少しだけ顔を上げた。それでも手当ては続いていて、テンデは消毒液を掛けられるたび、しかめ面をしている。

「私の衣装と生活用品。寝具とかね。あと、ルルの衣装が入っているの。これでも軽い方なのよ。ああ見えて、団長は玉乗りをなさるから、道具一つだけでも大きいの。だから、荷物持ちの人が四人いるのよ。滞在中は、ご飯の用意もしてくださるの」

 確かに、入り口の隙間から煮炊きする香りが入ってくる。時折、人の話し声や牛の鳴き声もする。

「ちょっとでも荷物を減らすために、食材はなるべく現地調達をするようにしているの。何かおすすめの食材を教えていただければ、嬉しいわ」

 カナイは頷いて、シュリの顔を見る。シュリは瞬いて、斜め上を見ながら口を開いた。

「今の時期なら、海に出れば、いろいろな物が獲れるんじゃないかな。エビも大きくなってるだろうし。運が良ければ、浜辺にワタリガニがいるかも」

 カナイは頷いて、少女を見た。

「今は、海の方が良いよ。木の実は、まだちょっと早い、か……も」

 ぬくもりを感じて、カナイは足を見た。膝の上に、ルルが座っている。カナイが指でルルの頭を撫でると、ルルは嬉しそうに目を細めた。カナイの機嫌が直って、ルルはすっかり安心したらしい。

「カナイは、すごいのね。普段のルルは人見知りが激しくて、人を引っ掻くことも珍しくないの。団長なんて、いまだに引っ掻かれるのよ」

 シスカがテンデの傷口に薬を塗ると、テンデは飛び上がった。シスカは手当てに慣れているのか、気にすることなくテンデの手に白い布を巻いていく。

「シスカは苦労しなかったの?」

「私には、腕輪があるから」

 布を巻き終えたシスカは、カナイによく見えるように腕を上げた。細い手首には、金色の腕輪がはめられている。少し見づらいが、小さな黄色い石が埋め込まれているようだ。

「昔、旅の人が寝るところに困って、うちにいらしたんですって。泊めてもらったお礼にって、この腕輪を置いていったのだそうよ。これが不思議な腕輪でね」

 シスカはカナイの前まで来ると、彼女の顔を覗き込んだ。カナイは、ごくりと唾を飲み込む。

「これを付けていると、動物と話ができるのよ」

 カナイは、ぽかんと口を開けた。すぐに我に返ってシュリを見ると、彼も呆けたように口を半開きにしている。シスカは、カナイとシュリを交互に見て、頬を膨らませた。

「その顔は、信じていない顔ね? でも、私はこの腕輪のおかげで、ルルに引っ掻かれたことなんて一度も無いのよ。だから、腕輪も無いのにルルと仲良くなれたカナイが、すごいなって思ったの」

「自分では、すごいと思っていないみたいだけどね」

 目を輝かせているシスカに、シュリは苦笑して肩をすくめた。

「カナイが動物と仲良くなれるのは、昔からなんだ」

 シュリの言葉に頷いたカナイは、シスカに笑いかける。

「森にも、川にも、海にも、友達がいるよ。河イルカとか、海ガメとか。直接、言葉は交わせないけど」

「だったら、ちょうど良いわ」

 シスカは両手を打つと、左手首に付けていた腕輪をはずし始めた。


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