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​【本選編・第8話】猛暑、孤独、そして号泣。 —— 12歳がぶつかった「本選2週間前」の壁

​いよいよ夏休みが始まりました。

世間がレジャーだ旅行だと浮き足立つ中、我が家のリビングは、外の猛暑とは正反対の「重苦しい空気」に包まれています。

​本選まで、あと2週間。

​共働き家庭の我が家。日中、娘は朝から晩までたった一人、家から一歩も出ずにピアノと向き合っています。

仕事中、ふと時計を見るたびに私の胸はザワつきます。「今、あの子は一人でどんな音を鳴らしているんだろう」と。



​■ 練習するほど、下手になる?

​帰宅して娘の音を聴いた瞬間、血の気が引きました。

演奏が、明らかに「崩れて」いたのです。

​焦りからか、音の一つひとつに「力み」が入り、一定だったはずのテンポはガタガタ。

羽のようだったブルグミュラーはどこへやら、そこにあるのは、もがき苦しむ音の塊。

ピアノ歴、やっと3年。

12歳が背負う、2回目の本選という舞台はあまりに高く、険しい壁だったのかもしれません。


「『あ、崩れてる』 その瞬間、見ているこちらの呼吸も止まる。」

​■ 蘇る「去年の悪夢」と、消えない羞恥心

​「弾けば弾くほど、わからなくなる……」

​鍵盤の上で指が迷子になっている娘を見て、私は確信しました。

今、彼女の脳裏には「去年の悪夢」が、これ以上ない鮮明さで蘇っているのだと。

​去年、ステージの真ん中で真っ白になった頭。

突然、指が止まり、暗譜を飛ばしてしまったあの瞬間。

沈黙が流れるホールで、ただ立ち尽くしたあの孤独。

​そして何より、自分より遥かに高度なスキルを軽々と披露する周りの子たちを前に、「自分だけが場違いな場所にいる」と感じてしまった、あの耐え難いほどの恥ずかしさ。

「今年もまた、あんな無様な思いをするんじゃないか」という恐怖が、呪いのように彼女の自由を奪っていました。


「もう終わったはずなのに、 心だけがまだ、あの舞台に取り残されている。」


暗譜を飛ばした去年の様子はこちら




■ 「本選が怖い」 —— 12歳の慟哭

​ついに、糸が切れました。

「練習すればするほど、下手になっていく! もう弾けない! 弾きたくない!」

​ピアノの前で、娘が泣き崩れました。

「本選が怖い。もう行きたくない」

大粒の涙が、必死に格闘してきた鍵盤の上にこぼれます。

​経験も、スキルも、周りに比べれば圧倒的に足りない。

その残酷な事実が、夏休みの静かな家の中で、彼女を容赦なく追い詰めていきました。

​■ 暗闇の中で、母ができること

​泣きじゃくる娘の背中をさすりながら、私も泣きたい気持ちでした。

「下手になった」と感じるのは、彼女が今、自分の限界を必死に超えようとしている証拠。

でも、今の彼女にとってピアノは「表現」ではなく「恐怖」そのものでした。

​母のスイーツ断ちは継続中ですが、願掛けだけではどうにもならない深淵に、私たちは今、立っています。

暗譜の恐怖を、スキルへの劣等感を、彼女はどう乗り越えるのか。

あるいは、乗り越えられなくてもいいから、せめて笑顔で終わらせてあげたい。

​夏休み。孤独な格闘は、まだ出口を見せません。

「頑張れ、なんて言えない。 もう十分、頑張ってるのを知っているから。」

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