優しいハギワラシンジとラーメンのための嬉遊曲【掌編小説】
※本編1,886字数。
※本作はハギワラシンジ公認作品です。
こんな混沌とした世の中にはヒーローが必要だ。我らがヒーロー、ハギワラシンジは遂にラーメンを絶って地球の為に立ち上がった。西暦3000年という記念すべきミレニアムイヤーを見事100歳で迎えたシンジはたった一言「パスタはマ・マー!」と叫び、ほとばしる大汗を拭うことを知らなかった(なぜラーメンじゃなくて、パスタなんだ!)。
「川越にはな、川越にはな、魔物が住んでいるねん」
「はー?」
その、はー?は世の中全員からの激しいバッシングのようだった。
「文春砲にでも、何にでも、俺のことをリークすればいい。あれだけラーメンが好きだったこの俺が、好きになった1人の女性の為にラーメン界を引退すると言っているんだ!」
「えっ?1人の女性?地球の平和の為にラーメンを絶ったとYahoo!ニュースで見ましたが...」
赤い帽子なのか、赤毛なのか分からない不気味なブツを被ったオカマはシンジを見上げた。彼いや、彼女はこうも言う。
「世紀末なのか、聖飢魔IIなのかという議論はどうなりましたか?」
「もう、記憶にはない」
シンジは素知らぬ顔をする。
「えっ?」
赤いオカマは自らの髪の毛を引きちぎった。
「お前こらぁ。オカマを舐めるなよ!」
「誰も舐めてはいない」
シンジはこれでもかと言わんばかりに、落ち着き払ったお釈迦様のような雰囲気を纏った。
「舐めるなよ、とは何だ。記憶にございませんと言った政治家だって、辞職しない時代があったんだぞ!その、お前の赤い髪をいつかラーメンにぶち込んでやる!」
赤いオカマ、いや、カープおじさんは不意をつかれたように急に黙りこくった。
「おい、何か言ってみろ!」
「...」
「沈黙は金じゃないんじゃ」
「ダジャレか!いや、欧米か!」
「私、日本語分かりませーん」
「戦争反対!」
無数の声なき声が聴こえる。
あれは、日本が敗戦した8月15日。
木製ラジオの前で皆が跪いた最初の日。この日を忘れじの夏と呼ぶ。
オカマもジェンダーも多様性も無かった。勿論、つけ麺も存在しなかった。
赤いリンゴに唇寄せて♪
ギブミーチョコレート。
三種の神器。
東京オリンピック。
高度経済成長。
もはや戦後ではない。
日本は神がかり的な速度で急成長を遂げたあの時。様々な人々の記憶、私達はやれば出来る。
赤いオカマはハギワラシンジを尊敬の眼差しで見つめる。
「あたい、前世でハギワラさんのことを好きだったばい」
「分かって頂けましたか。でも、そんなコテコテ豚骨ラーメンみたいな博多弁で言われたら、川越のラーメン一緒に行けないやないですか」
シンジは穏やかな表情で赤いオカマを見た。
「赤いリンゴに唇寄せて!」
「シンジさん。赤い、赤い、言わんといて下さい」
「なんでですの?」
シンジは急に関西弁になって開き直る。
「赤い、って言われると魔法がとけてしまいます」
「えっ?」
シンジは顔面蒼白になった。顔にはあざのようなラーメンの芯がくっついている。
「そんなにラーメンの芯が付くぐらい私を好きになってくれましたの?」
「あ、ああー」
照れたシンジは頬っぺたにナルトを付けた。ナルトを付けるというのは、ラーメンの世界ではゾッコンを意味する。
「赤い、いやオカマさん。俺のほうが貴女に惚れてしまったかもしらん」
「まあ。嬉しい」
「今度、札幌に美味しい味噌ラーメンがあるから一緒にどうですか?」
やけに改まったようなシンジはまだあまり親しくもないオカマにラーメン旅行を懇願した。
赤いオカマは思わず赤面して、自らが、実は女のふりをした男だということを忘れていた。
「ジェンダー(性差)はない。どんな世の中にも。ジェンダーをジェンダーだと思うことが悪だ!」シンジはこれでもかと言わんばかりに強く言い切る。
赤いオカマは分かったような、分からないような不思議な顔をした。
「じゃあ、シンジさん。訊いてもいいですか?」
赤いオカマは意を決したように眼光が鋭くなった。
「あたいとラーメンどっちを選ぶの?」
不意を突かれたシンジは思わずうつむいた。
しばしの沈黙が流れた。
「うん。やっぱり、俺ラーメン好きや。神座(かむくら)のラーメンめっちゃ好っきゃねん!」
「えー?!」
赤いオカマは地を揺らすほどの驚愕した声を出した。もう戦前には戻れないほどに。
赤いオカマはやがて魔法がとけて、スッと消えた。まるで、砂が滴り落ちるかの如く美しく。
シンジは、また歩き出す。地球の為に。
ありがとう。ハギワラシンジ。
我らのヒーロー、ハギワラシンジ。
今日もシンジは地球の平和を守る。
それ!ゆけ!シンジンマン!
愛と平和と、そして、麺を護る為に。
了
本作は以下リンク「古賀コン10」への参加作品です。⇩
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