100円のペンより不便で汚れる「万年筆」に、私たちが惹かれる理由
こんにちは。自作のデジタル手帳を活用した、日々の記録や思考の整理について発信しています。
普段はiPadやデジタルツールによる徹底的な効率化や、ノイズを排したデジタル手帳について語っている私ですが、今回は少し趣向を変えて、極めてアナログで非効率な道具についてお話しさせてください。
「万年筆」です。
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■ 圧倒的な機動力を誇る「安いペン」
正直なところ、実用性や効率だけで言えば、コンビニで買える数百円のボールペンの圧勝です。
ノックするだけで一瞬で書き始められ、どんな紙にも安定してインクが乗り、多少雑に扱っても壊れません。仕事の現場でサッとメモを取る「機動性」において、これほど優れたデバイスはないでしょう。
一方で、万年筆はどうでしょうか。
いざ書こうと思っても、ネジ式のキャップを「くるくる」と回して外すというワンテンポが必要です。機動性で言えば最悪です。 うっかりペン先を触れば指がインクで汚れますし、気圧の変化でインクが漏れることもあります。定期的な洗浄というメンテナンスのコストもかかります。
「手も汚れるし、不便なのになんでわざわざそんなものを使ってるの?」
周囲からそう聞かれるたび、私はいつも言葉に詰まってしまいます。効率や合理性という土俵で戦えば負け戦になることは分かっているので、明確な回答を返せたためしがありません。
■ 意味もなく書きたくなる魅力
では、なぜ使うのか。 論理的な説明は放棄して、感覚的な話をさせてください。
まず、万年筆を手に入れると「ただ文字を書く」という行為自体が娯楽になります。ペン先から紙へとインクが滑り落ちていくあのヌルッとした感触を味わいたくて、意味もなくノートの端に文字を書いてしまうのです。 その結果として、書く機会が圧倒的に増え、「気がつけば以前より少しだけ字がうまくなっていた」という副産物までついてきました。
そして、デジタルの画面では絶対に味わえないのが「インクの匂い」と「にじみ」です。 キャップを開けた瞬間にふわりと漂うインクの独特な匂い。紙の繊維にインクがじわっと染み込み、濃淡やにじみを生み出すあの瞬間。デジタル手帳で完璧な直線を引く心地よさとは真逆の、物理的でアナログな「ノイズ」がたまらなく愛おしいのです。
■ 美しさとロマンという絶対的な価値
さらに言えば、万年筆には「ロマン」があります。
薄暗い部屋で原稿用紙に向かう文豪が握っている万年筆の姿は、どうしようもなくかっこいい。プロの漫画家が、インクをつけながらペン先を走らせるあの所作も最高にかっこいい。 クリエイターたちの魂の出力装置として、万年筆という道具そのものが強烈なオーラを放っているのです。
デスクの上に置かれているだけで見とれてしまう工芸品のような美しさ。そして、所有欲を満たしてくれるもう一つの側面として、デジタルデータとは異なり「リセールバリュー(再販価値)が高い」という事実も挙げられます。 もちろん、自分の手に馴染んだ相棒を手放して売るつもりなど毛頭ありませんが、「いざとなれば価値が落ちない資産である」という安心感は、高級な万年筆を所有する上での密かな満足感に繋がっています。
■ 伝わらない人には、伝わらなくていい
面倒くさくて、手が汚れて、機動性が悪い。 それでも、インクの匂いに惹かれ、美しい軸を撫で、キャップをくるくると回して思考の世界へ潜っていく。
うん。 これはもう、万年筆を持っていない人、使ったことがない人には絶対に伝わらない感覚だと思います。
iPadでシステム手帳を構築し、デジタルで思考を最速で整理する一方で、あえて非効率の極みである万年筆で紙にインクをにじませる。 この「究極の合理」と「究極のロマン」を行き来することこそが、情報に溢れた現代において、自分の精神のバランスを美しく保つための秘訣なのかもしれません。
もしあなたが、効率ばかりの世界に少しだけ息苦しさを感じているのなら。 伝わらない人には伝わらない、この魅惑の沼の入り口で、インクの瓶を開けてお待ちしています。
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