授業準備、最後の一歩。──自己対話で、授業はもっと良くなる。【第6回】
はじめに
プリントができたら、授業の準備は終わり。
そう思っていた時期が、私にもありました。
でも今は、「プリントが完成してから」が本当のスタートだと思っています。
そのあとのリハーサル──そしてトーク力こそが、授業の印象を大きく左右するからです。
今回は、「ひとりでできる授業リハーサル」と「語りで生徒を引きつけるトーク力」について、2つのヒントを紹介します。
ヒント15:「導入」を設計しよう。
授業の「最初の3分」で、生徒の集中度は決まる。
これは、授業を重ねる中で私が実感してきたことです。
授業プリントが完成したら、まず「導入」の設計から始めましょう。
生徒がぐっと引き込まれるような“入り口”を考えるのです。
私にとっての導入の定番4パターンを、実況中継風に紹介します。
これは、僕が実際に授業リハーサルとして、ひとりで教室でしゃべった内容を文字に起こしたものです。
授業の導入って、言葉にしてみると「どんなリズムで話すか」「どんな言葉で生徒をひきつけるか」が見えてきます。
文字だと少し不自然なところがあるかもしれませんが、それも含めて「リアル」な教材研究の過程として楽しんでもらえたら嬉しいです。
(1) big questionを提示する
その授業のテーマを貫く、大きな問いを投げかけます。
たとえば、幕末の授業の導入。
じゃあ今日から幕末ね。
結論を言うとさ、「ペリーがやってきて15年で江戸幕府が潰れる」って話。
君たちは中学入試でね、大政奉還で江戸幕府が滅びて薩摩・長州を中心に明治政府ができた──これが明治維新だって勉強してるはず。
じゃあ聞くね。江戸幕府と明治政府って、結局何が違うの? 本質的な、根本的な違いって何?
江戸幕府を潰して、明治政府ができました。 で、明治政府は力をつけて、日清戦争と日露戦争に勝利して、世界に認められていったわけやん。
言ってみれば、欧米化っていうのをうまく進めることができたわけよ。
でもさ、それって本当に江戸幕府じゃダメだったの?
江戸幕府だと、植民地化を避けながら欧米化を進めることはできなかったの?
もし「江戸幕府じゃダメだった」って言うなら、 明治政府は、江戸時代のダメなとこをアップデートして新しい国を作ったはず。 だったら、どこが本質的に変わったの?
そういうふうな、ただの名前の違いじゃなくて、本質的な違いも含めて、これから勉強していこう。 じゃあ今日は、幕末に入っていきましょう。
「今から学ぶことには意味がある」と感じさせる導入になります。
(2) 既習内容と比較する
生徒にとっての“前提”を思い出させ、今から学ぶことの意味を明確にします。
はい、じゃあ今日は幕末をやっていきます。
復習なんだけど──江戸時代の外交体制といえば? 鎖国だね。 3代将軍・徳川家光の時にできたよね。
じゃあ、鎖国の目的って何だった?覚えてる? そうそう、キリスト教の禁止と、貿易のコントロールだね。 貿易とキリスト教の制限、これを目的に鎖国したって言われています。
今日はですね、ペリーがやってきて日本が開国していきます。
じゃあ聞いてみよう。なんで200年以上も続いた鎖国を、幕府は結構あっさりと捨ててしまったの? 欧米諸国は200年の歴史を一瞬で変えてしまったわけだけど、一体どんな力を持ってたの?
その辺りを考えながら、今日は勉強していきたいと思います。
では、いきましょう。
「江戸時代と幕末の違いを知る=学ぶ意味」になります。
歴史とは、「違いを見つける」学問です。
導入からその視点を持たせましょう。
(3) 時代の大きな流れを概観する
細かい事象に入る前に、時代全体の地図を示します。
今日は幕末をやっていきます。 ここでね、大きな流れを確認しようと思う。
幕末って、江戸時代だね。 江戸時代って大きく分けると、4つに分かれます。
最初の50年が「幕府政治の安定期」。 初代将軍・家康から3代将軍・家光まで。 参勤交代とか鎖国体制とか、基本的な仕組みを整えていった時期です。
次が「幕府政治の安定期」。 ある程度システムが整ったので、儒教とか法律とか、武力以外の手段で世の中を安定させようとした時期です。5代将軍綱吉は生類憐れみの令で犬公方なんて言われた。
3番目が「三大改革の時代」。 江戸幕府が開かれて100年くらい経って、だんだん幕府の財政が厳しくなってきたよね。 で、その幕府の財政難をどう解決するか、 衰えてきた幕府の権威をどう取り戻すか──ってことで、享保・寛政・天保の三大改革が行われた。 結論を言うと、享保の改革はまあまあうまくいったけど、寛政・天保はイマイチだったんよね。
で、改革がうまくいかない中で幕府の権威が下がってきて、そこにペリーがやってきた。 どうなる江戸幕府?どうなる日本? っていうことで、江戸時代の最終章、幕末に入っていきましょう。
生徒がこれから学ぶ時代がぐっと立体的になります。
(4) 興味を引くエピソードを語る
導入で使える雑学ネタは強力です。
今日は幕末について見ていきます。
みんな、薩長同盟で薩摩と長州が協力して、最後に江戸幕府──徳川将軍を倒すって話は知ってるよね? じゃあね、薩摩とか長州って、一体どんな藩なの?
実はね、幕末・明治維新っていうのは、関ヶ原の戦いから始まってたんですよ。知ってましたか? 関ヶ原の戦いで徳川将軍に負けた西軍の大名の中にいたのが、薩摩藩の島津氏と長州藩の毛利氏。 徳川家康の率いる東軍に敗れたこの2つの藩が、実は明治維新の主役になるんです。
幕末ごろの薩摩と長州ってそんなに仲良くない。 むしろライバル関係だった。 そんな2つの藩が、幕府を倒して新しい世を作るために、手を結ぶ。これが「薩長同盟」。 この薩長同盟によって、江戸幕府が倒れました。
2つの藩が「徳川家こそが敵だ」と強く意識したのはいつか? ──それが、関ヶ原の戦いなんですよ。 つまり、江戸幕府を作った「関ヶ原の戦い」から、薩長が徳川家を倒す「明治維新」は始まっていたんです。
今日は、そんな歴史の流れに思いを馳せながら、幕末について勉強していきましょう。
印象深いエピソードが、ふっと生徒の目線を前に向かせてくれます。
導入で空気は変わります。どれも特別なテクニックではありません。
でも、「どんな導入で始めるか」を意識して授業にのぞむだけで、空気は確実に変わります。
あなたは、今日の授業をどう始めますか?
ヒント16:「トーク力」は磨ける。
「トーク力」とは、語りで生徒をひきつける力です。
講義型の授業でも、アクティブラーニング型でも、教師の語りは授業の“柱”になります。
では、この「語りの力」はどうすれば育てられるのか。
私が実践しているのは、次の3つです。
(1) 他人のしゃべりから学ぶ
まずは、“うまい人の話を観察する”こと。
私が特によく見ているのは、YouTuberの岡田斗司夫さんです。
次のリンクは、岡田さんが教育に関して行なった講演会についての動画です。
笑いを交えながらも、難しい話をスッと聞かせる。
どんな順番で話してる?声のトーンは?話題の広げ方は?
──ただ聞き流すのではなく、「なぜこの人の話に惹かれるのか?」と考えながら観ると、トークのヒントがどんどん見えてきます。
(2) 自分でしゃべる練習をする
次に大事なのは、とにかく声を出してみること。
私は、毎朝始業前に空き教室に立ち寄って、20分ほどの発声練習をしています。
その中で欠かせないのが、「外郎売(ういろううり)」の音読。
息が続かないところ、舌が回らないところ。
そこを何度も繰り返すことで、少しずつ“話す筋肉”が鍛えられていくのを感じます。
滑舌だけでなく、言葉のリズム感やテンポも磨かれていくのが、この練習のいいところです。
(3) 発信の場を持つ
最後は、**「人に向かって話す場を持つこと」**です。
私はポッドキャスト番組「れきしのじかん」を配信しています。
収録のたびに思うのは、自分の言葉に“耳”を向ける感覚の大切さ。
「ちゃんと伝わってる?」「今の言い回し、わかりやすかった?」
そうやって、自分の語り方を客観的に見直すようになりました。
発信は、ちょっと恥ずかしさもあります。
でも、挑戦してみると、トーク力は“実感をともなって”成長していきます。
声は、授業を支える“もうひとつの教材”です。
プリントやスライドと同じくらい、あなたの語りは生徒の学びに影響を与えます。
少しでも「自分の話し方、鍛えてみようかな」と思ったなら、
まずは、1日10分。声を出すことから始めてみませんか?
おわりに
授業をうまく進めたいなら、「プリントができた」で終わってはもったいない。
導入でつかみ、語りで惹きつける。
そのためにできる準備は、意外と身近なところにあります。
あなたの授業前ルーティンには、どんな“ひとり準備”がありますか?
よかったら、今日から少しだけ取り入れてみてください。
