【短編】『コンピュータが見る悪夢』(転編「計画」⑤)
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コンピュータが見る悪夢 (転編「計画」⑤)
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〈人物プロフィール〉
氏名:フィリップ・ウォーカー
生年月日:二〇五〇年四月十五日
年齢:二十一歳
住所:サンフラシスコ テンダーロイン地区 オファレル通り 六七五番
電話番号: (415)555 3029
メールアドレス:breeder288@gmail.com
SSN(ソーシャルセキュリティ番号):415-37-1149
TIN(納税者番号):231-558-273-46219
職業:サンフランシスコ警察所属 警察官
現在地:不明(通信エラー)
プラズモグラフィアの接続が切られた場所は、グレン・モリスが殺された場所と一致している。しかし死亡前ではなく死亡後に切られている。以前の配達員のケースでは、殺人を犯すとき、犯人はすでにホモシミュレーターから身を隠していた。
どういうことだ……。
しかし、この人物の他に行方不明となっている者はいない。犯人である可能性は高い。それに、サンフランシスコ警察所属か。ますますおかしな事件だ。接続が切れる前の、波形が目立つところにカーソルを合わせて再生する。
23:10:22:15「こちら、フィル・ウォーカー。テンダーロインエリアにいる。場所と状況を教えてくれ」
23:10:42:38「ザック、了解した。すぐに向かう。よし、今度こそ自分の手で犯人を捕らえる」
犯人を捕らえる……。この警察官は殺していないということか?
カーソルを先に移動させる。
23:16:33:43「どこにいるんだ。この辺りのはずだが、見つからない。もう時間がない」
再びカーソルをずらす。
23:21:15:21「こちらフィル。無理だったっていうのは?」
23:21:19:56「なんだって? 遺体はないぞ?」
23:21:25:23「そんなはずがない。そばってどこだ?」
23:21:31:47「どういうことだ? 誰もいないぞ?」
23:21:37:05「叫び声? まさか! この上か」
23:21:44:43「いた」
さらに先にカーソルを移動させる。しかし途中でインナーボイスにノイズが入り始める。
23:24:35:43 「男を殺した銃は、父が昔作ったもの……あの銃は誰かの役に立った……自分も父の役に立てた……この男を殺したのは……我々親子だ……」
その後、同じノイズが数秒間続くとタイムコードがゼロに戻った。
父の役に立てた。殺したのは我々親子……か。
このフィルという人物が犯人と見て間違いなさそうだった。フィル・ウォーカーの父親は誰だろうか。プロフィールの親族欄を見ると、そこに父親、叔父の名前が連ねてある。父親の名は、トーマス・ウォーカー。叔父はビル・ウォーカー。トーマス・ウォーカーは、現在サン・クエンティン州立刑務所に収容されている。違法な銃器製造・密売の容疑で七年前に捕まっている。そして驚くべきことに、叔父はサンフランシスコ警察の署長だ。警察署長の実の弟が刑務所にいるなんて、ホモシミュレーターで調べない限り知る由もなかった。サムの脳裏では、徐々にこれらの情報と今回の事件との繋がりが連想されつつあった。
ようやく見えてきたぞ。
このフィルという若い警察官は、刑務所にいる父親が関わるなんらかの事象に対する復讐のために、グレン・モリスを殺したという見解だ。「男を殺したのが我々親子」というインナーボイスがその証拠になる。
しかし待て。
彼は自分と父親のために殺したと言っている一方で、現場に再び駆けつけた動機が、その犯人を捕らえるためだと言っている。これではどうも話の筋が取らない……。目の前に並べられた複雑な材料は、この事件のただならぬ様相を物語っていた。
あと何か一つヒントになるものがあればこの事件が解けそうなんだが――。サムは、真っ暗な天井を見上げて、情報の海の中で思考を巡らせた。ふと、今自分がいる部屋が元々白く空虚だったことを思い出した。光が当たらないと白は黒に見える……。皮肉的な言葉が出てきそうだったが、何も思い浮かばなかった。しかし、その些細な発見は、重要なものを見えなくしている靄を少しずつ取り除く役割を果たしていた。
そうか。そういう考えがあったか。
もし仮に、このフィルという警察官が実際にグレン・モリスを殺していて、しかし警察官として、その犯人=自分を捕えなければいけないという使命の間で葛藤していたのだとすれば――。少し無理やりではあるが辻褄は合う。となると……上官の言っていた「二重人格」が殺人衝動の原因である線は、本当なのかもしれない。サムは、自分の推理が今まで解決してきた時のものより説得力が劣っていることに若干の不安を抱いた。しかし直感はこの若い警察官が犯人であることを告げていた。一刻も早く、このフィルという男を捕らえて話を聞き出さなければならない。そうすれば殺人衝動の真相に一歩近づけるような気がする。サムは決意とともに、ホモシミュレーターをシャットダウンした。
部屋の電気が数回点滅を繰り返して真っ白に変わると同時に、胸の辺りが小刻みに震えるのを感じた。ポケットに入れた携帯電話が鳴っていた。発信者名には「上官」と表示されている。
「なんだ?」
「犯人が見つかった」
「博士を殺したか!」
「いいや、お前が担当している方のだ」
「テンダーロイン」
「ああ。残念だが警察の方が一足早かったみたいだな」
「クソッ。身柄は?」
「警察本部だ」
「わかった。今から向かう」
「おいおい、もう手柄はあっちのもんだぞ?」
「わかってる。気になることがあるんだ」
「そうか。まあ任せる。くれぐれも無礼のないように。昔みたいにFBIの方が偉いと思い上がってるやつがまだ少なくないからな。じゃあ」
サムの返事を待たずして電話は切れた。位置情報が特定できないのに、よく警察は見つけたもんだ。しかし本当にこれは殺人衝動の事件なのか。あるいはただの意志を持った殺しなのか。プラズモグラフィアの接続が切られるタイミングが若干ずれていることだけが不自然だが――。まあ、このフィル・ウォーカー本人に聞いてみれば済む話だ。
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