説明したのに、使えない。文法は「気づいた形」だけが身につく
こんにちは、ももいろ先生です🍑
いきなりですが、ある心理学の実験の話をします!
白いシャツのチームがバスケットボールをパスする映像を見て、「パスの回数を数えてください」と言われます。
真剣に数えていると……映像の途中で、ゴリラの着ぐるみが画面の真ん中を横切るんです。胸まで叩いて🦍
それなのに、見た人の約半分は、ゴリラにまったく気づきません(Simons & Chabris 1999「見えないゴリラ」実験)。
パスに注意を向けていると、目の前のゴリラさえ見えなくなる。人間の注意って、それぐらい狭いんだそうです👀
なぜこの話をしたかというと、わたしたちの学生の頭の中でも、毎日同じことが起きているからです。
「あんなに説明したのに、作文に出てこない」
みなさんも、こんな経験ありませんか?
授業のときは、学生も「わかりました!」とうなずいていた。なのに、次の週の作文には、その文法がひとつも出てきません😥
わたしも長いあいだ「わたしの説明がわかりにくいのかな」と悩んでいました。
でも、ゴリラの実験を思い出してください🦍
学生は授業中、「意味を理解すること」に必死でパスを数えています。そのとき、文法の形はゴリラです。目の前を堂々と横切っているのに、見えていないんです。
この「見えていない」問題を、第二言語習得の研究で正面から扱ったのが、今日の主役です👇🏻
教師の引き出し:気づき仮説(Noticing Hypothesis)
提唱者のSchmidtには、ちょっと面白いエピソードがあります。
Schmidtは研究のため、ブラジルで5か月間ポルトガル語を学びながら、自分の学習日記を細かくつけていました。あとで日記と会話の録音を突き合わせて、あることに気づきます。
授業で「教わった」文法は、それだけでは自分の会話に出てこなかったこと。
そして、街の会話の中でその形に自分で「あっ」と気づいたあとに、初めて使えるようになっていたことです(Schmidt & Frota 1986)。
研究者本人が被験者になって見つけた、この発見。ここから生まれたのが気づき仮説です(Schmidt 1990)。
学習者は、インプットの中で「気づいた(notice)」形だけを取り込む。
つまり、「説明を聞いてわかる」ことと「気づく」ことは、別の出来事なんです。説明を100回しても、学生本人の中で「あっ」が起きなければ、その形は素通りしていきます。
では、教室で「あっ」を起こすには、どうすればいいのでしょうか🤔
もうひとつの引き出し:インプット強化(Input Enhancement)
答えのひとつが、拍子抜けするほど地味です(笑)
読解文のなかで教えたい形に、色をつけます。これだけ!
読解本文の中で、目標の文法だけを太字や色や下線で目立たせて、学習者の注意をそこに引き寄せる。これをインプット強化と呼びます(Sharwood Smith 1993)。ゴリラの実験でいえば、ゴリラにスポットライトを当てるようなものです🦍💡
文字で目立たせる方法(textual enhancement)は、気づきを助ける効果があると複数の研究で報告されています(Lee & Huang 2008 のメタ分析など)。※ただし「意味の理解」まで深まるかは別問題で、そこは活動でおぎなう必要があります。
授業の流れとしては、こうなります。
1. まず、ふつうに読む
意味をつかむ。色はつけない
2. 同じ本文を、色つき版で読む
目標の形に色。「あれ、これ何度も出てくる」と気づかせる
3. 気づいたことから、ルールを発見する
教師が先に説明しない!
いちばん大事なのは3番です。
Schmidtの日記が教えてくれたとおり、「あっ」は本人の中でしか起きません。気づく前に教師が答えを言ってしまったら、その瞬間をこちらが奪ってしまいますよね😨
教室でやってみた:「読む→気づく→きまり」
今回は、中級クラスの「〜ように/〜ような」でやってみました。
この文法、初中級で一度は習っているのに、用法がごちゃごちゃになりやすいんですよね💦
「たとえ(お酒を飲んだような状態)」「目的(忘れないように)」「変化(話せるようになる)」「伝達(暗くするように言う)」。形は同じなのに、意味が4つもあります。気づかせる題材として、うってつけです❣️
用意したのは、睡眠をテーマにした短い読み物。その中に「ように/ような」を6回ちりばめました。
まず色なしで読ませて、内容を確認します。この時点では、誰も「ように」の話をしません。
次に、同じ本文の色つきバージョンを画面に出します。教室が少しざわつきます。
「何が何回も出てる?」「意味は、全部同じ?」
学生に問いかけてみんなで考えます。
「先生。これ、形は同じですけど……意味、全部違います!」
学生が気づけたら、あとは4つの使い方を一緒に整理します。同じ整理でも、「先生に教わったルール」ではなく「自分たちが見つけたルール」になります。
授業用スライドのサンプルはこちら👇🏻
(「読む」と「気づく」で同じ本文を出し、気づくのほうだけハイライトしてあります)
目標スライドも入れましたが、気づくを目標にしているのであえて書かない方がいいかも?です。
ワークシートにも、色なし本文と色つき本文の両方、そして「気づいたことを書く欄」「4用法の整理表」「産出タスク」まで入れてあります👇🏻
つまずきポイントと対処
最初は「気づいて」と言っても、ぽかんとする学生もいます😅
そんなときは、「同じ形はどれ? 何回ある? 数えてみて」と声をかけると、入りやすくなります。
ゴリラも「動物が出てきますよ」と言われれば見えるのと同じで、探す目的があると注意が動きます。🦍
AIにお願いすると、この本文づくりが数分に
気づかせる読み物を、目標文法が何回も・複数の用法で出るように書く。手作業だと、これがなかなか手間のかかる作業です。
そこがAIの出番です。調べ物ができる方なら、こう打つだけでたたき台が出ます👇🏻
あなたは日本語学校の教師です。
N2クラスの「気づき」読解の本文を書いてください。
目標文法:「〜ように / 〜ような」
条件:
- テーマは「睡眠のコツ」。200〜250字。N2の語彙で、1回目でも意味が取れる易しさに。
- 「ように/ような」を6回、しかも「たとえ・目的・変化・伝達」の4用法が入るようにちりばめる。
- 各文法がどの用法かを、本文とは別にリストで示す。コツは「用法を散らして」「何回」と数まで指定することです。ここを指定しないと、同じ用法ばかりの本文になりがちです。出てきた本文が難しければ「もっとやさしく」と返せばOK。教師の仕事は、ゼロから書くことから「気づきが起きる本文になっているか確かめること」に変わります✊🏻
プレゼント:教材一式を作る「気づき授業スキル」
そして今回も、ここまでの流れをまるごと自動化したClaude用スキルを作りました✨️
このスキルにできること:
① 「気づきの授業を作りたい」と話しかけると、レベル・目標文法・テーマをまず確認してくれます
② 目標文法が複数回・複数用法で出る読み物を作り、色なし版と色つき版の両方を用意します
③ 承認すると、教材一式を生成します
•授業用スライド(表紙+8枚:導入→目標→読む→気づく→きまり→たしかめ→つかう→振り返り。多言語Can-do目標と5段階ルーブリック入り)
•学生用ワークシート(Word)
•教師用ガイド(Word:45分の流れ、解答、気づき仮説の解説つき)
解答や指導のヒントはスライドの発表者ノートと教師用ガイドの中に入っていて、スライド面には出ません。デザインは編集できるふつうのPowerPointなので、学校のロゴを足すのも色を変えるのも自由にできます🙆♀️
こちらのZIPをダウンロードして、カスタマイズからスキルをアップロードしてお使いください👇🏻
ゴリラは今日も、学生の頭の中を堂々と横切っています。🦍🦍🦍
それを捕まえられるのは、教師の説明ではなくて、学生自身の「あっ」です。
いつもとちょっと違う文法の授業も、たまにはいいかも❣️
みなさんもぜひ、お試しください❣️
それでは、また次回👋🏻✨️
