【ショートショート】金色の風に乗って 虹色創作部
灯りのない夜道を、ひとり歩いていた。
地元にいた時には、街灯がないなんて当たり前だったのに、都会だとつい後ろを振り返って安全を確認してしまう。
それでも、雨上がりの涼しい風はあの頃と同じだ。
あの頃は毎日、穴だらけの小径を走っていた。都会では珍しいススキはそこら辺に生えていた。
穂が月明かりに光り、誰も知らない丘の上で、男の子が笑っていた。
「風が金色になったら、またここで」
約束の言葉だけが、ずっと胸の奥に残っている。
数日前、SNSを何気なく見ていて、目が止まった。
地元の観光アカウントが投稿した金色に輝く「すすき丘」。
私にとっては当たり前の風景だったけれど、妙にバズっていた。
その写真の中に、見覚えのある横顔があった。
少し日に焼けた頬。笑ったときの目の細め方。
あれから十数年経っても、たぶん、間違いない。彼だ。
夕陽の向こう、金色の穂が風に揺れ、その中で彼がカメラを構えていた。
私に気づくと、驚いたように笑う。
彼の声は、風に溶けて少し震えていた。
ふたりの間に流れる空気が、時間をゆっくりほどいていく。
「この瞬間が、どうかずっと続きますように」
胸の奥で、誰にも聞こえないように祈った。
月は雲に隠れ、夜が丘を包み込む。
すすきが揺れて、秋の匂いが二人の間を満たしていった。
帰り際、彼が小さく「またね」と言った。
その言葉が胸の奥に落ちて、波紋のように広がる。
風が金色に光った気がして、私は笑った。
あの日の内緒話を、今夜もそっと抱いて眠ろう。
naruさんの詩に寄せたお話でした。内緒話の内容、私も気になります
