【エッセイ】学研の呪いと、凱旋帰国した松ぼっくり
妙に記憶にこびりついて離れない考えとか概念とかないですか?
そんな大それたことではないけれど、自分の行動や思考に深く根付いた「呪い」みたいな。
ある日、当時まだ幼かった次男が、宇宙の図鑑を広げて号泣した。
太陽なくなるのヤダ。って。
曰く、50億年後に太陽がなくなる事に耐え切れないと。
落ち着け、その前に人間が存続しているかのほうが怪しいとか、それまでにはパパも君もとっくに死んでいるとか、確実に不正解となる様々な回答案が思い浮かんだ。
そして、それからしばらく毎晩、寝る間際になると問答と号泣は続くようになった。
私は地球の歴史から説明した。年表にした。
地球誕生後46億年、人類が歴史として記録を残しているのはこの豆粒みたいなものだと。それに比べれば、今後50億年なんて途方もない時間を考えてもしょうがないと。君が一年、年を取ったら、太陽消滅まで49億9千9百9十9年になるだけだと。50億という数字がいかに巨大かを説いた。
それも泣いた。
最終的には、未来の科学技術で核融合やらなにやらで、きっと人類は人工太陽のようなもので何とかするから心配するなって話でうやむやにした。
そして数年たった今でも、怖くて、宇宙図鑑は我が家では禁書扱いとなり、封印されている。
幼少期、私はアメリカに住んでいた。
異国の地で、両親は私のために学研の『科学』と『学習』を購読してくれていた。
分かりますかね?付録があったりして。
最近は「大人の科学」として復刊されて、琴線をくすぐってくるやつ。
それは月に一度届く、日本との数少ない懸け橋だった。そのような環境下にあり、私はそれを、世界の誰よりも楽しみにしていた自負がある。
一か月間かけて、隅から隅まで記事をじっくり読みこんだ。
付録も誰よりも使い込んだと思う。
ある時、次号予告を見て絶望した。
付録が「アメリカの巨大松ぼっくり」だったのだ。
一か月後に届いたのは、当然松ぼっくりだ。
だが、庭にはそれ以上に巨大な松ぼっくりはいくらでも転がっている。
おそらく、付録としてパッキングする制約上、大きさに制限はあったのだと思う。
この松ぼっくりは、アメリカで生まれ、海を渡って日本へ行き、また長い時間をかけてはるばるアメリカに凱旋帰国を果たして、そのまま捨てられるのか。
腹が立った。
あぁ、この松ぼっくりの話は本筋とは関係なく、この科学と学習とその細部まで読み込む環境が、私にいくつもの「呪い」を残していく。
広がるオゾンホール、枯渇する石油資源。
降り注ぐ酸性雨、失われる熱帯雨林。
そんな中、自分に根付いていると気づいた呪いが二点。
微小貝
インターネット黎明期。インターネットとは何か?という切り口の記事だった。
そこでいきなりぶっこんできた。
「微小貝って知ってる?」って。
知る訳がない。当然誰も知らないだろう。
しかし、インターネッツを使えば、こんな事も、こんな詳細に調べられる、凄いだろう!って話だった。
すげぇ!と未来へのワクワクが止まらなかったが、知りもしない微小貝を調べるシチュエーションってなんだよ。
今まで人生で一回も調べたことがないよ。
なので今、調べてみた。
面白かった。
インターネット最高。
インターネットを使うとき常に、「微小貝」調べられるんだよなぁ、という小さなトゲが抜けた気がする。
解呪は成功した。
忍者呼吸
あなたの九字護身法(臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前)はどこから?
私は学研から。
忍者特集で、喜んでそれぞれの印を習得した。

NARUTOに先駆ける事、十年以上前の話だろう。
そこまではきっと、誰しもが通る道なので良しとしよう。
忍者が長距離を走るときには特別な呼吸法をしていたという。
「吸う、吐く、吐く、吸う、吐く、吸う、吸う、吐く」
とすると、疲れないと。
ラマーズさんもビックリである。
男女女男女男男女
私は、めちゃくちゃ長距離走得意なんですよ。
かねてより、所属したどのチームでも、長距離走となればぶっちぎりで速かったんです。地元じゃ負け知らず。
そして、長距離走で辛いとき、この忍者呼吸をするのです。
今になり、「絶対、嘘じゃん!」と思い当たり調べてみた。
でも、偉大なるインターネッツには、忍者呼吸が書いてあった。
やはり本当なのか……?
これはきっと呪いとしてまだ、根付いている。
辛くなると、自然とスーハーハースーハースースーハーする。
過去改変について(映画「アバウト・タイム」のネタバレを若干含みます)
学研関連の呪いは一旦、以上とします。
アバウト・タイムという映画が好きです。
主人公は基本的に過去のどの時点にも戻り、やり直す事ができる。
けれど、子供たちが生まれる前まで遡ると、因果が変わり、同じ子供は生まれてこなくなる。
この設定を知ってから、私の「あの時ああしていれば」という空想は、はかどらなくなった。
違う子供たちが生まれてきたら、耐えられない。太陽の寿命は憂いてくれ。
なので私の黒歴史は救われない。
呪いは果たして「過去改変できない設定」か、はたまた「あの時ああしていれば」の方なのか。
多分、他にも様々な場面で自分に根差した呪いに気づく場面が出てくると思うが、微小貝のように、一つずつ枷を外していきたい。
そして、私は学研の株主となり、優待で図鑑を毎年増やしていく。
