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ボット先生  【第13話/全35話】

 次の日の授業中、ボクは教室の窓の外ばかり見ていた。雨降りだった。空から真っ直ぐに落ちてきた雨が、校庭や、学校の裏山を濡らしていた。
 雨は、何で降るんだろう。
 いや、雨の降る仕組みは分かる。空気中の水分が集まって雲になり、雲が水分の重みに耐えられなくなって、雨になって地上に落ちて来る。
 でも、つまり、何でそんな仕組みがあるかは、分からない。誰がそれを作ったのかも、分からない。
 窓の傍の席の谷藤さんが、ニコッと笑った。ボクはちょっと驚いてから、笑顔を返した。谷藤マミちゃん。彼女は、いつもポツンとして、一人で本を読んでいるおとなしい子だ。へへえ。ボクは感心した。むっつりと俯いているマミちゃんしか見たことがなかった。笑うと、意外にかわいいジャン。
 耳元で、パチン、と音がして、ボクはハッとなった。ボット先生が、指を鳴らしたんだ。
 昨日、ボクらは、ボット先生に助けられて、同じドローンに乗って戻った。ボット先生が、ボクのジシューくんを通して、ドローンを遠隔操作した。ボット先生は人工知能だから、インターネットの環境さえあれば、どこにでも登場できるんだそうだ。ジシューくんがあったおかげで、ボット先生は、あの船の中で映像になって現れることができた、というわけだ。空中の映像は、あの船に装備された、最新鋭の画像表示機能だそうだ。
 ボクらは、塾のあるビルの屋上で下ろされて、そのままいつもの時間に帰った。お母さんには何も言わなかった。ケンタやウーちゃんも、黙っていたらしい。だって、余計なことを言ったら、塾をサボっていたことがバレちゃうジャン。
 途中、例の『YTS』の部屋に寄って、ボクらは驚いた。部屋は空っぽで、床にボクらのスマホが置いてあるだけだった。マーさんも、オバサンもいない。部屋の明かりは非常口を示す緑の光だけで、壁の地図や、不気味な置物なんかもすっかりなくなっていた。
 ボクとウーちゃんは、給食の後で、校長のプン子先生に呼び出された。ケンタはぜんそくの発作が出て休んでいた。怒った青虫みたいな匂いのする校長室に入ると、塾のタクト先生が来ていた。
「アナタたち、昨日はどこに行っていたのか、言えますか?」
ウへ。ボクらは揃って首を縮めた。ボクらがサボっていたことを、タクト先生が告げ口したってわけだ。イヤな奴だなあ。
 後で聞いたことだけど、タクト先生はプン子先生の教え子で、彼がこの街で塾を始められたのは、プン子先生のおかげだったそうだ。
「ムラタ君」
プン子先生は、二つの目を逆三角形にしてボクを睨んだ。ボクは、口をパクパクさせた。
 何から説明しよう? 
 何を、どこからはじめて、どこまで説明すればいいのか。プン子先生は、マーさんなんて言っても分からないだろうし、ベランダドローンや、埠頭に停泊している豪華客船や、その中で開かれていたパーティーなんて、信じるだろうか? 変なことを言って、ごまかそうとしている、と怒り出すんじゃないだろうか? 
 ボクが下を向いてもじもじしていると、「二階のお店に行ってました」とウーちゃんが正直に答えた。
「二階には、何もありませんよ」
タクト先生が告げ口した。ウーちゃんはタクト先生を睨んだ。先生は、フフン、と鼻で笑って目を逸らした。
 あったんだ。今はないけど、昨日まで、昨日の夕方、ボクらがドローンに乗せられるまでは、『YTS』という会社が、しっかり看板を出していた。
「ウソはいけませんよ」プン子先生の額に、ミミズみたいな筋が立った。これだ。この先生は怒り出すと、真っ赤な顔の中の、茶色い縁の眼鏡の上に、稲妻みたいな青い筋が走る。これが怖い。
「おっと、遅れました」
副校長のフジモト君が入ってきた。ボット先生も一緒だ。
 ボット先生だ。ボクは少しホッとした。
 フジモト君は、本当の先生じゃない。ボット先生を開発した『東セラ』というIT関係の会社の人で、ボット先生をこの学校で採用したときに、一緒に来て副校長になった。まだ若い、細身のスーツを来た足の長い先生で、普段はほとんど学校で見掛けなかった。なぜ『君』なのかというと、最初の全校集会であいさつしたとき、自分でそう呼んで欲しいと言ったからだ。
「『YTS』という会社は、実在します」フジモト君は言った。「実在どころか、ボクの調べたところでは、世界的に活動している巨大組織のフランチャイジーです。ついにこの街にも来たか、という印象ですね」
「そんなの、関係ありません!」
プン子先生は、机を叩いて怒った。
「こちらは、この子たちが、親御さんに黙って塾をサボったことを問題にしているんです。YTSだかなんだか知りませんけど、横文字を並べれば教育を改革できるというものではありませんよ!」
プン子先生の受け持ちは国語だ。
 ボット先生が、笑顔で進み出た。
「まあ、落ち着きましょう」
体の関節がピカピカ光った。
「子どもたちが、危険に晒されているのでアリマス。この事実に、学校は、早急に対処しなければならないのでアリマス」
「それは、分かってます」
また机を叩いて、プン子先生は立ち上がった。
「でも、子どもたちを組織的に誘拐する団体が存在するなんて、教育委員会からも、警察からも連絡がきていません。そんなものがあると言われても困ります」
「子どものウソを真に受けちゃうのが、人工知能の弱点ですよ」
タクト先生が、両手をズボンのポケットに突っ込みながら言った。
「面倒なことは何でも『子どものウソ』で片付けようとするのが、塾講師の弱点だよ」
フジモト君に言い返されて、タクト先生は顔を赤くした。
 すげえ。大人がケンカしてる。
 チャイムが鳴って、ボクらは教室に戻された。


ボット先生  【第14話/全35話】|nkd34 (note.com)

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