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ボット先生  【第14話/全35話】

 ウーちゃんは風紀委員会の活動で居残りだった。ボクは一人で先に帰った。『たこのにもの』の『こ』は、子ども一人で行動するな、だけど、一緒に帰る人が見当たらないから仕方がない。まあ、いつもの通学路だから。
 傘を差すのが意味ないくらい、雨が降っていた。何で、雨の日には傘を差すんだろう? 濡れたって、人間は味噌や塩じゃないんだから溶けない。第一、傘を差したってズボンもシャツも濡れるんだから、同じじゃないか。プールで泳げば、体中びしょ濡れだ。でも、プールは楽しい。ボクは傘を畳んだ。
 風はなく、柔らかい水が次々としみてくるような雨だった。ボクは帽子を取って頭に浴びた。髪を撫でて後ろに流した。ああ、さっぱりする。雨って、気持ちいいジャン。
「ムラタ君」
後ろから声を掛けられた。マミちゃんだ。
「何で、傘、差さないの?」
うるさいな。ボクの勝手だろ?
「どうせ濡れるジャン」
ボクはツンとした調子で言ってやった。マジメで、おとなしいマミちゃん。話し掛けられたのは、はじめてじゃないだろうか。
 マミちゃんは、ボクについて来た。なぜか彼女も傘を畳んだ。ボクをまねて、長い黒髪をかき上げた。鼻が高くて、アビシニアンみたいに尖った顔だけど、目が優しい。
「気持ちいいね」
「そうだよね?」
ボクはランドセルの紐に傘を引っ掛け、両手で髪を撫でた。
 団地へ帰る途中に、いつも遊んでいる児童公園があった。雨になると、公園全体が水たまりになる。
 マミちゃんは、ボクをチラッと見て、公園に入った。ボクは彼女について行った。彼女は楽しそうだった。ボクも楽しくなってきた。彼女は、水たまりの中で転んだ。飛沫が上がった。何やってんだ? 
 ああ、そうか!
 ボクも、彼女のとなりに転んだ。全身びしょ濡れだ。二人で起き上がって、大笑い。
「ねえ、テッチャン」
マミちゃんと二人で、公園の真ん中で胡坐を掻いて座った。
「ウチね、転校するかもしれないの」
ボクはハッとなった。
 転校か。イヤだよね。今のクラスに慣れるのだって大変だったのに、また、ちがう学校の、ちがうクラスに慣れなきゃいけない。ボクは少し目を伏せた。そういえば、マミちゃんは、今のクラスにも、まだ慣れてないんだ。
「でもね、転校したら、たぶん、ラッキーなんだ」
マミちゃんは笑った。転校で、ラッキー? そんなことってあるかな。
「お別れ会をやろうよ」
ボクは提案した。
 五年生になる前、転校が決まった子のお別れ会をやった。正しくは、『いってらっしゃい会』だ。学校では会えなくなるけど、メールやチャットでつながることはできる。そういう思いを作文に書いて、文集にして、会の時にみんなで発表した。転校する子は、びしょびしょに泣いて喜んでいた。
「ヤダァ」マミちゃんは言った。「ウチなんか、いなくなっても、誰も何とも思わないでしょ? 会なんて、いらない」
「なんで? みんな、寂しいよ。オレも寂しいよ」
マミちゃんは瞼を開いて、黒い瞳を突き出してボクを見つめた。
 おや、どうしたんだ?
 今まで一緒にいた人が、ある日突然いなくなる。それって、寂しいジャン。マミちゃんは、今まであんまりしゃべったことはなかったけど、でも、考えてみれば、幼稚園の頃から一緒だったわけで、やっぱり寂しい。あんまりしつこく見つめるので、「どこに行くの?」とボクは話題を換えた。
「外国」
「マジで? どこ?」
「分かんない。でも、日本じゃないの」
へへえ。
 びしょ濡れで帰ったボクは、お母さんにひどく怒られた。


ボット先生  【第15話/全35話】|nkd34 (note.com)

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

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