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ボット先生   【第7話/全35話】

 次の塾の日、また入口脇の階段で遊んでいると、例の、顔の白いオバサンに呼ばれた。
 どうする? 
 ケンタを振り返ると、すっかりご機嫌で、ボクの顔を見ないうちに、カバンを背負って立ち上がっていた。
 明るい部屋に、禿げたオジサンがいた。
「今日の遊びはね、」オジサンは目尻を下げて言い、テーブルに置かれたパソコンの画面をボクらの方へ向けた。
「スマホかくれんぼだ。キミたちのスマホを、この事務所の中のどこかに隠す。それを、このパソコンを使って探すんだ」
 ふーん。
 それって、簡単じゃね?
 位置情報を公開しているボクらのスマホは、検索すればどこにいても見つかる。お母さんたちのスマホは、いつでもボクらのスマホを見つけることができる。スマホから電波が飛んで、宇宙まで行って、人工衛星がその位置情報をキャッチして、送り返して来るからだ。
 このパソコンにスマホの情報を入力すれば、簡単に見つかるんじゃなかろうか。
 ボクらはスマホをテーブルに置いた。するとマーさんは、さらに引き出しから一〇台くらいのスマホを出して、テーブルの上を滑らせて掻き混ぜた。
 ボクは驚いた。これ、全部隠すってこと?
 でも、ボクのスマホには裏にリングが付いているし、ケンタのスマホは画面にヒビが入っている。混ぜたところで、すぐに見分けられる。
マーさんは、全部で一二台のスマホに、番号の書いてあるシールを貼った。そしてそれを箱に詰め、白い顔のオバサンに渡した。オバサンは箱を抱えてドアの向こうに消えた。
「さあ、これが、この事務所の見取り図だ」
マーさんはパソコン画面をボクらの方へ向けた。縦長の長方形の図が、画面に浮かんでいた。下の左端に入口があって、衝立を隔てたすぐの部屋が、ボクらのいる場所だ。
 オバサンの進行方向に合わせて、次々とスマホ型の小さなアイコンが現れた。スマホを隠しているんだ。最初に入ったのは、左の扉の部屋。ここは、前に入ったことがあった。奥がベランダに出られる窓で、両側の壁に書棚があり、本屋みたいにたくさんの本が並べてあった。ここでボクらは、マーさんに景品をもらった。ここの書棚に、スマホが二つ。
 窓を開けてベランダに出ると、空調の室外機がある。この下に一つ。
 隣の窓から、別の部屋に入る。ここは知らない。この事務所で、一番広い部屋だ。ここに四つ。広い部屋の奥に浴室がある。ここにも一つ。オバサンは、事務所の中を隈なく回って隠すつもりらしかった。
 オバサンが帰ってきてから、マーさんを入れて、三人でジャンケン。
「最初に勝った者から先に探す。一番多くスマホを手に入れた者が勝ちだよ」
ケンタが勝った。早速、左扉の部屋に入ろうとした。「最後にここへ戻って来るから、カバンは置いて行きな」とマーさんに言われ、ケンタは椅子にカバンを置いた。ケンタが出て行くまで、ボクらは目を閉じて、静かに十数えた。
 次は、マーさんが勝った。ボクが目を閉じている間に、マーさんは、自分の後ろの扉から広い部屋に入った。目を閉じで十数える。よし、ボクも行くぞ。最後に残った、右のキッチンから進む。オバサンは、ニヤニヤしながら流しで洗い物を始めた。キッチンには隠していない。奥のすりガラスの扉を開けると、窓のない倉庫。ここに一台あるはずだ。
 ゲ。分からねー。
 パソコンの画面では、小さな四角い部屋だった。でも扉を開けてみると、ズラリと棚が並んでいて、びっしりモノが置かれている。棚の間に通路が三本あり、窓はないけども、天井近くの壁に大きな換気扇があって、そこから光が挿し込んで、数本の不気味な光線になっていた。鉄の柱を組み立てた棚には、壺とか茶碗とか、ガラスの瓶とか、見たこともない、たぶん、かなり値段の高い食器類がむき出しのまま並んでいて、うっかり壊したら怒られそうだ。それから、もう一つの棚には剥製。ぬいぐるみじゃない。鹿や熊の首とか、タヌキの丸ごととか、本物の動物の死んだものをそのまま保存したものがびっしりと並べられていた。口を開けた、見たこともない獣(たてがみのある犬だ)に真っ赤な目で睨まれて、ボクは思わず声を上げそうになった。
 他の棚にも、うちや学校ではめったに見られない珍しいものがたくさん積まれていた。気味が悪い。というより、こんなところに小さなスマホを隠されたら、とても見つけられない。
 どうしよう?
 ここは、探さない方がいい。ボクは思った。下手にここのものに触って、うっかり壊したら大変だ。乱雑に置かれているけども、たぶん、高価なものだ。弁償しろ、なんて言われたら困る。ボクの家は母親一人、子ども一人で、お金がないんだから。
 ボクは、奥の扉から次の部屋へ行こうとした。すると、ボクが手をかけるより先に、扉が開いた。ケンタだ。
「早いね」ボクは言った。「何台見つけた?」
ケンタは首を横に振った。まだ、一台も見つけてないらしい。
 どの部屋も、似たり寄ったり。椅子とテーブルだけのシンプルな部屋は入口そばのあそこだけで、ひどく複雑な柄の絨毯がカーテンのように吊るされた部屋とか、ものはないけども、四方の壁に南国の海岸を模写したらしい、写真みたいに精密な絵が描かれた部屋とかで、どこにスマホがあるのか見当がつかず、散々だったらしい。
 ベランダに出た。ここに来て、ようやくホッとした。見慣れた表通りが見下ろせる。と言っても、通りは駅裏の狭い路地で、正面はとなりのビルの壁。おまけにベランダなのにガラス張りで、さっぱり風が吹き込んでこない。二人で入ると狭いくらいのところで、空気が生温かった。
「帰ろうよ」
ケンタは言った。同感だ。事務所の半分くらいを見て回ったけど、なんだか気味が悪い。マーさんもオバサンも、悪い人ではなさそうだけど、やっぱり他人なのだから、簡単に信じちゃいけないだろう。
「オレらのスマホだけでも、見つけないと」
 そうだ。ボクは、足元の室外機の下を覗いてみた。あった。一つ見つけた。古い型のアイフォン。番号は五だ。ボクらのスマホじゃなかった。


ボット先生   【第8話/全35話】|nkd34 (note.com)

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