ボット先生 【第10話/全35話】
扉が開いた。音楽。眩い光。笑い声。花のようにきれいな女の人たちが踊り、ツバメみたいにきっちりとした男の人たちがお酒を片手に笑い合い、その間で子どもたちがはしゃいでいた。パーティー。体育館みたいな大きな会場で、天井にはシャンデリアがいくつも下がり、周囲を囲むテーブルには、見たこともない料理と、宝石みたいにグラスの中で輝く飲み物がズラリと並んでいた。なんだ、これは。ボクたちは一体、どこに来たんだろう。
「ウェルカム、ツー、アワ、シップ。来てくれて、うれしーデース」
キノコみたいな形のロボットが、頭をキコキコ鳴らしながらボクらの前に来た。キノコの笠が頭で、その中に目のような二つのレンズがあった。
「お腹が空いているでしょう。なんでも好きなものを召し上がれ。と言っても、急には選べないだろうから、ボクが取っておきましたデース」
キノコロボットは、後ろに引いていたカートを寄せた。カートの上には、三皿のドリアと、グラスに入ったウーロン茶が乗っていた。赤いエビと白いイカと、ブロッコリーの入った海鮮ドリアだ。
ボクらは顔を見合わせた。食べていいんだろうか。ケンタは目で、よしなよ、と言っていた。でも、ドリアに目のないウーちゃんは、真っ先に皿とフォークを取って食べ始めた。
「アチ、アチ。熱いー」
そりゃそうだ。焼き立てのドリアは、熱いに決まっている。
ウーちゃんをまねて、ボクらも食べた。熱い、うまい。他にもキノコロボットは、ピザやフライドポテト、フライドチキンやサンドイッチを持ってきた。こんなに食べていいの? 何しろボクは、お母さんとバーガーショップに行くと、セットを頼むのはお母さんだけで、ボクは単品バーガーを頼んで、ポテトはお母さんのトレーから摘まないといけない。こんなにたくさん、あれもこれも出て来るなんてはじめてだ。しかもここの料理は、これまで食べたことがないくらい美味しい。チーズの香りが良くて、ホワイトソースの舌触りはすっきりしているし、チキンライスは柔らかいんだけど、米の粒がしっかりしていて歯応えがいい。ところどころに鶏肉が入っているのもうれしい。ボクもケンタも夢中で食べた。
ウーちゃんは、ドリアを三分の一くらい食べた後、フライドチキンを摘まんでいた。彼女は食べ物より、ダンスの方が気になるようだった。
女の人も、男の人も踊っていた。その中で、ひときわ目立つ子がいた。中学生くらいの女の子だ。肩の出るキラキラしたピンク色のシャツに白いスパッツを穿いて、魚みたいに飛び跳ねている。後ろに展開したかと思えば、片手で逆立ち。彼女がポーズを決めるたび、会場から拍手が巻き起こった。ウーちゃんの瞳が光った。あれくらいで? ボクには、ウーちゃんの心の声が聞こえた。
「やめとけよ」
ボクは言ったが、その口に、ウーちゃんはフライドチキンを突っ込んだ。
おお、うめえ。
スニーカーを脱いで裸足になったウーちゃん、前方展開を一回、二回。それからブリッジ。上体を起こして立ったと思ったら、前方宙返り。着地してY字バランス。
「おおーッ」
ひと際大きな拍手が上がった。ウーちゃんは、パーティー会場のほぼ中央でポーズを決めた。
ピンクシャツの子が、ウーちゃんの前に進み出た。ほんの一瞬、ニコッと笑ったかと思うと、バク転、またバク転。それからまた片手倒立して、首を上げ、ニコッと笑った。
ダンス対決、勃発か? 二人は腰に両手を当てて睨み合った。
そのとき、『わーたしはァ知っていた。あーなたは、困ったお人』と歌いながら、キノコ型ロボットの群れが、会場の中央で、二列になってぞろぞろ行進してきた。
会場の子どもたちがはしゃいだ。こんなにたくさんのロボットを見るのは、ボクらもはじめてだ。ロボットは会場の中央で円を描き、盆踊りみたいに踊り出した。
『あーなたをはじめてみたとき、あーたしのハートはしびれた』
ボクらを案内したロボットも、輪の中に入って踊った。踊ると言っても、彼らには脚がない。頭が大きくて茶色なのでキノコに見えるが、白い体には節があって、それが歌に合わせてくねくねと揺れていた。立ち上がった芋虫みたいだ。その動きがなんだか楽しくて、ボクは輪の中に引き寄せられた。見ると、ケンタも嬉しそうに笑っていた。ボクは、ケンタの気に入るものは何でも気に入るから、多分、このキノコたちは、いい連中なんだろう、と思った。
「ヘイ! エヴィバディ、カマン!」
会場の子どもたち、一人に一台ずつ、キノコ型ロボットが行き渡った。すると同時に、キノコの頭がポンッと外れて、体がボクらの頭の方に傾いた。大きな、掃除機のホースみたいになって、ボクらに近づいた。え、ヤバくない? そう思う間もなく、スルッという感じで、ボクはキノコの体の中に吸い込まれた。
