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ボット先生  【第12話/全35話】

 前歯のオジサンは、「さあ、帰りましょう。帰る時間でアリマス」と言ってボクの腕を引いた。ボクは、そうだよな、と思って素直にオジサンに引かれて外に出た。
 エリのない黒の上着とズボンを穿いたオジサンは、背の高い、痩せた、針金みたいな人だった。うわ、何だ、これ。ボクは会場を見回してギョッとなった。さっきまで、たくさん人がいたはずなのに、今ではキノコだらけ。
『アータシはァ知っていた。アーナターは、困ったお人』
相変わらず、変な歌を歌っている。オジサンは、「アチョー!」と叫び、足を振り上げてとなりのキノコの頭を蹴った。中からケンタが出てきた。さらにとなりのキノコも蹴って、ウーちゃんを出した。
「何をしとるかー!」
大きな声で叫びながら、大きな男が現れた。おや、マーさんか? 禿げ頭に長い口髭。でもこの人は、筋肉もりもりの体むき出しで、プロレスラーみたいに赤いパンツ一丁だ。
 前歯のオジサンと、パンツオジサンは、向き合って睨み合った。
「アチョー!」
「ウガー!」
前歯さんが得意の蹴りを繰り出して、パンツさんの頭を蹴ろうとした。パンツさんはそれを両手で受け止め、足を出して前歯さんのもう一本の足を引っかけた。前歯さんはうつ伏せに倒れたが、すぐに仰向けになり、肩の上に両腕を突いて、跳ね飛んで立ち上がった。
「アチョー!」
「ウガー!」
パンツさんは、頭を低くして前歯さんに向かった。前歯さんは両足を広げて跳び上がり、跳び箱みたいにパンツさんの背中に手を突いて後ろに立った。
 あ、やった!
 パンツさんは、音を立ててうつ伏せに倒れた。跳び箱ジャンプの瞬間、前歯さんは、パンツさんの背中を強烈にパンチしたんだ。
「スッゲー」ウーちゃんが驚き顔で言った。「ツボに入ったんだよ」ケンタは訳知り顔で顎を捻った。前歯さん、意外に強いな。
 そのとき、ボクはボット先生の声を聞いた。
『こっちでアリマス』
考えている暇はなかった。あちこちから、パンツさんみたいに強そうな人が現れて、前歯さんに向かっていた。前歯さんは、ズボンのポケットからナイフを取り出して、両手の指に三本ずつ挟んでいた。これは、ヤバい。ボクは二人の背中を押し、「こっちだ」と言って駆け出した。
 こっちって、どっち? 
 うじゃうじゃいるキノコを掻き分けて会場の隅に避け、隙間を走って洗面所に入った。男子トイレに駆け込もうとしたけど、「ちょっと待って」とウーちゃんが抗議した。
「そっちには、行かれないんだけど」
「でも、こんな場合だから。一緒に行こうよ」
「無理。絶対」
ボクはケンタを見た。ケンタはトイレに駆け込んだ。そして「ダメだ」と言ってすぐに出てきた。
「窓がない。出られないよ」
 仕方ない。
 三人で女子トイレに駆け込んだ。
 窓があった。子どもが通れるくらいの窓だ。ここから出られそうだ。でも天井近くで、とても跳びつける高さじゃない。
「どこだ」「こっちだ」
外から声がする。ボクらが逃げたことに気づいて、追っかけて来たんだ。どうしよう? 捕まったら、またあのキノコの中に入れられる。困って窓を眺めていると、『ダイジョーブでアリマス』とまた声がした。
 ボクらの上に、映像が浮かんだ。暗い画面に、山なりの二つの曲線と、下に凸の大きな曲線。ボット先生だ! 
 ボット先生は、出方を教えてくれた。
 ボクが下になって、ケンタを肩車する。ボクらの肩を掴んで、ウーちゃんがまず窓の外に出る。窓の外からウーちゃんが手を伸ばし、ケンタを引き上げる。
 あれ、ボクは? 
「いたぞ!」
男子トイレに入っていた人たちが、こちらにやってきた。三人ばかりの、やっぱり丸坊主で口髭の、筋肉もりもりだ。
 一人じゃ、窓に跳びつけないよ。
 そのとき、こんにゃくみたいなものがボクの首筋に触った。ギョッとして振り返ると、ウチのネコのハンナみたいな目が、緑色に光っていた。
 ギョエ! 蛇だ。
『それに、掴まるんでアリマス』
ボット先生の声がした。
「テッチャン、早く!」
「オレらが引っ張るから、掴まれ!」
ウーちゃんとケンタも叫んだ。蛇は、苦手なんだけどなあ。前を見ると、坊主頭三人が、どやどやと近づいてくる。仕方ない。ボクは両手で蛇を掴んだ。
 ピョーン、という具合に、ボクは窓の外に出た。


ボット先生  【第13話/全35話】|nkd34 (note.com)

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