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ボット先生  【第16話/全35話】

 ケンタが戻った。学校に向かう途中で、「YTSの正体が分かった」と鼻息を吹いた。
「マジで?」
ケンタは頷いた。家で寝ている間、スマホで調べたそうだ。正式名称を、『横浜トラフィッキングサービス』というらしい。
「トラフィッキングってのは、直訳すると、人身取引だ」
「人身取引?」
「お金で人間を売り買いすることだよ」
何それ。そんなことって、あるかな? 
 ウーちゃんが話に入ってきた。「アタシ、知ってるよ」と彼女も鼻息を吹いた。
「海外では、赤ちゃんでも、小学生でも、平気で売ったり買ったりするんだよ。アンジーも、自分の子じゃない子どもを、たくさん育ててるんだって」
アンジーって、誰? 
「それは、里親のことだよ」ケンタが言った。「里親は、親のいない子を引き取って、育てる人だよ。そうじゃなくて、YTSは、子どもを欲しがる人のために、横浜で、子どもを捕まえる会社なんだよ」
「ってことは、ボクら、あのまま船に乗っていたら、外国に売られてたってわけか」
「おそらく」
ケンタは腕組みした。
 ヤバくね? 
『YTSについて、教えてくれませんか?』
ボクは学校についてから、さっそくジシューくんでボット先生に質問した。ボット先生のいいところは、他の先生みたいに、わざわざ職員室まで会いに行かなくても質問できることだ。
 ところが、なかなか返事が来ない。それどころか、朝のホームルームの時間になっても、ボット先生が来ない。教室は、またざわざわ騒がしくなった。
「ヤバいかも」
ケンタが振り返って言った。
「YTSに気づかれて、ボット先生を使えなくされちゃったかも」
ボット先生はロボットだ。電源が入らなければ使えない。だから、ボット先生をやめさせるのは簡単だ。誰かが電源を切ればいいんだ。
 ホームルームには、教頭のデー先生が来た。黒ぶちメガネをかけた、いつも何となく汗ばんでいるオジサン先生だ。何で『デー』なのかというと、五年生になったばかりの最初の全校集会で、「ビタミンDを増やしましょう」と言ったからだ。何でビタミンDだったのかは、覚えていない。
「ボット先生は?」カスヤンが尋ねた。「今日は、お休みだ」
「ロボットなのに、休むの?」
波多野君も言った。案外みんな、ボット先生を気に入っていたんだ。
「ロボットだから、時々休ませることも必要なんだよ。スマホだって、使い続けると熱くなって、動きが遅くなるだろ?」
 授業は、いろんな先生が入れ替わりで来た。ああ、つまらない。フツーの先生のフツーの授業って、こんなにつまらなかったっけ? ボット先生は、その日に勉強する内容を最初に教えてくれて、ボクたちがまだ知らないことと、もう知っていることを分けてくれて、覚えておくべきことを板書してくれた。フツーの先生は、何となく授業をはじめて、何となくノートを書かせて、何が大切だったのか分からないうちに、何となく終わる。だからボクは、何となく眠くなった。ヤバい。まぶたが落ちそうになって、慌てて窓側を振り返ると、マミちゃんが、こっくりこっくり揺れていた。外国の夢でも、見ているんだろうか。
 ケンタは、病院の予約があるとかで、お母さんが迎えにきた。ウーちゃんはまた委員会だ。近頃、挨拶をしない子が増えているので、どうすればみんながちゃんと挨拶ができるようになるか、話し合っているんだそうだ。する子としない子がいるなら、いっそ、挨拶なんかナシにすればいいんじゃないかな。
 ボクは一人で帰った。今日は塾もないし、家に帰っても一人だから、ケンタとのんびり遊んで帰るつもりだったんだけど、病院なら仕方がない。
 児童公園の地面はすっかり乾いていた。ボクはベンチに掛けて、しばらく空を眺めた。四角い空。公園の周りは、マンション。高いのや、低いのが、数えてみたら六つもある。今日は、お母さんの帰りも遅いらしかった。スマホにメッセージが着ていた。冷凍庫にカレーピラフがあるから、それを食べてね、だって。カレーピラフにみそ汁は合わない。コンソメか、コーンのスープかな? スープの素なら、冷蔵庫の脇に吊るしたポケットに入っていたはずだ。でもピラフって、電子レンジで何秒だったっけ? 
 げげ。何だ? ボクの掛けているベンチの周りに、いつの間にか、黒服の男の人が三人、いや、四人。ボクは、気づかないふりをして、スマホの画面を換えようとした。男の一人が、ボクの手からスマホを取り上げた。
 何すんだよ!
 そう思ったけど、黒い上着に黒いズボン、黒い帽子を被った男たちに見下ろされて、ボクはゾッとなって、何も言えなかった。
 五人、いや、六人? 
 後ろから回った手が、ボクの口を塞いだ。前の男たちが手を伸ばして、ボクの頭、肩、腕、膝、足首を掴んだ。エレベーターよりも簡単に、ボクは吊り上げられた。すぐに、目も耳も、鼻も塞がれた。
 や、ヤバい! 


ボット先生  【第17話/全35話】|nkd34 (note.com)

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