特許法 アイデア検討方法の例
色々と経緯・理由はあるかと思いますが、何とかして出願したいと言われるケースもあると思います。その際に、①検討しておられる製品・サービスが、従来と比較して圧倒的に凄い場合や、②従来とは異なる部分に特許性がありそうであれば問題ないのですが、そうではない場合もあると思います。
そこで、アイデア検討方法の例を纏めました。
1.失敗事例からアイデアを抽出する
スポーツ医科学論壇の 第10回『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負け無し』に「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし。」という言葉が記載されていました。
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし。」 心形刀流・松浦静山の『常静子剣談』にあるこの一文は、剣道では試合後の反省によく用いられる教えである。負けた時には必ず理に適わない原因がある。敗因 を十分に分析・検討することの必要性を説いている。しかし現実をみると、強化活動やサポート活動の成功情報に比べて、失敗情報は極端に少ない。これはス ポーツに限った話ではない。一般に失敗情報は隠れたがる。
これらの記載のうち、私は、負けた時には必ず理に適わない原因がある。というところに注目しました。
特許的な観点では、負ける(失敗する)ことには高い再現性があると思われます。このため、失敗した技術面での原因の分析をして、その対策を確立して失敗しないようにできれば、技術が新たな段階に進むことになります。この観点から、失敗の真因追及・真因解析は大切と思われます。
この「真因追及」「真因分析」で見つかった「真因」が「真の課題」になるので、そこから課題解決手段を検討するとよいと思います。仮に、その課題解決手段が主観的に理想的なものであったとしても、多くの場合は、その解決手段が採用されていない理由があります。もし、その解決手段が採用されていない理由がない場合、本当に素晴らしく・革新的なアイデアを考え付いたといえると思います。一方、その解決手段が採用されていない理由がある場合、分析で得た真因は、実は真因ではないはずです。もう一段階検討すべきと思います。
2.出願したいアイデアを製品化する際に生じる問題とその問題解決手法を明確化する
発明は課題と課題解決手段の組み合わせです。課題又は課題解決手段のどちらかがが新しければ特許される可能性が高いです。両方とも新しい場合には、技術的価値はかなり高いといえます(商業的価値とは別です)。課題解決手段がありふれた感じの場合には、課題を緻密に検討します。課題解決手段が新しい場合は、他の分野に適用できないかを検討すべきです。
3.そのアイデアの技術分野・製品における特有の問題を明確化する
例えば、電話機であっても、据置型の電話機とスマートフォンでは、技術的な前提が異なります。また、技術の流れも異なるはずです。
このため、まず、そのアイデア等が属する技術分野等に共通する特有の問題が何かを明確にします。例えば、スマートフォンでは、バッテリー切れになりやすいという問題があります。一方、据置型の電話機では、バッテリー切れになりやすいという問題はないはずです。
なお、この検討において、知財担当者が、研究開発担当者や営業担当者から情報を貰わずに分析を行うことがあるようです。
しかし、時間をかけて分析してもその結果に意味が無いことが多いように思います。例えば、特許マップなどを作っても、その特許マップの軸(解析結果に示した軸)や、特許マップの傾向に全く意味がなかったりするわけです。これは、自社での開発の流れ、業界の開発潮流、関連業界の開発動向などを前提として情報収集・情報分析をしない場合、それらに合った分析結果にはならないことが多いからです。つまり、知財分析を行うときは、最初の分析ポイントの設定がとても大切です。他の業界でも良く言われているとは思いますが、一番大切なのは最初の段取りです。
4.データ処理方法を明確化する
これは、他の既存ソフトウェアとは異なる処理をしていないかということです。
ソフトウェアの入出力の関係がほぼ同じ(違いはある)であっても、異なる処理をしている場合には、特許権を取得できる可能性があります。
5.検出と制御に分けて検討する
主に電気・機械分野の話ですが、世の中に出回っている製品の機能・動作は、データ検出と、検出したデータに基づく制御と、で説明できることが多いです。
例えば、私が使っている電気ポットの場合、
①中にある水を沸騰させる、
②水を沸騰させた後、90℃で保温する、
という動作をします。
この①②のうち、「①中にある水を沸騰させる」では、水が沸騰するまで水を加熱するという動作がなされます。
この動作は、
①-1 水の温度を検出し、
①-2 水の温度が沸騰温度に達しているか否かを判断し、
①-3 水の温度が沸騰温度に達していない場合、水を加熱する、
というように分解することができます。
これらは、
①-1:検出
①-2:制御
①-3:制御
という区分になると思われます。ただし、沸騰温度の気圧による変化を考慮するのであれば、①-2は検出・制御、になります。
このように、製品の技術的ポイントを、(i)検出、(ii)制御、(iii)検出と制御の組み合わせ、に区分して明確にします。そして、それらの具体的内容について改善点が無いかを検討します。
なお、アイデア検討の際には、
単なる検出ではなく、制御に適した検出方法や、
検出結果に基づいた最適な制御方法、
なども検討すると良いと思います。
アイデアは簡素である方が展開・応用しやすいからです。
6.単機能製品を検討する
新規製品開発の際にも指摘されることが多いと思いますが、特許取得のための一つの方向性として、「単機能製品」を考えてみることも有効です。
例えば、フライパンを例にすると、「牛肉は美味しく焼けるが、その他のモノはあまり美味しく焼けないフライパン」等です。その検討の際には、「牛肉を美味しく焼く」以外の要素は全て削り落とします。
新製品検討の際には、「できることを増やしてゆく」という機能追加を前提とすることが多いと思います。これは、従来品があるので、その改良品を作りたいという考えがあるからだと予想します。ただし、その方向だけで考えると、行き詰まることもあります。行き詰った場合には、考え方・見方を変えて検討すると良いかもしれません。
7.ユーザの利便性を最大限高める
最近だと、zoom(オンライン会議ソフト)の方針もユーザの利便性に全振りですね。
言い換えると、セキュリティとか、コンプライアンスとかは捨てて、UXに全力を投入しているように見えます。これが、シェア拡大の要因かと思います。
Amazonの特許に関しても同じ部分があります。ワンクリック特許が一番有名と思いますが、ユーザの都合が良いように設計しています。
ここで、ユーザの都合が良いということは、買ってもらいやすいということなので、自社の利益に繋がります。このため、ユーザに都合が良いことのうち、自社の利益になることから順に実装してゆく、という流れがあると思います。
また、ユーザの利便性に全振りするようになったのは、市場の変化も影響しているかもしれません。現状では、下記(1)、(2)を経て、(3)に至っていますね。
(1)いい物を作れば売れる
(2)需要のある人にアピールすれば売れる
(3)ユーザにとって「価値」を提供すれば売れる
8.既存製品の機能を別の方法で実現できないかを検討する
基本的には、特許出願のクレーム拡張方法と同じです。
構成Xの動作原理がA、解決すべき課題をBとします。
この場合、動作原理Aで課題Bを解決できる構成(構成X以外)が無いかを検討します。
●関連記事
・特許法 失敗事例からアイデアを抽出する
・特許法 アイデア検討の一手法
・特許法 何とかして出願ポイントを見つける場合の例
・特許法 知財分析ポイント等の選定
・特許法 単機能製品の検討
・特許法 ユーザの利便性に全振り
●参考文献
志賀国際特許事務所知財実務シリーズ出版委員会(編)『電気系特許明細書の書き方 改訂版』(発明推進協会, 2020)
