作る前にAIへ「やめたほうがいい理由」を聞くようにした話
「これ、自分で作れそうだな」と思った瞬間に、もう作り始めていませんか。
私はそうでした。会議の議事録を自動で作る仕組みを土日2日、実働20時間弱かけて作り、完成する前に自分で止めました。技術的に無理だったからではありません。作ったあとに使えないと分かったからです。
その経験から、作りたいものを思いついたときに、まずAIへ「やめたほうがいい理由を挙げてほしい」と聞くようにしました。今日はその話です。
結論: 着手前に「作らない理由」をAIに挙げてもらうようにした
変えたのは、手を動かす前に1つ工程を挟むことだけです。
何をするか: 作りたいものを思いついたら、先にAIへ「これは本当に自動化すべきか」「やめたほうがいい理由を挙げてほしい」と聞く
なぜ始めたか: 20時間かけた仕組みを完成前に止めたとき、止める判断に必要だった情報は着手前にも手に入るものだったため
何を期待しているか: 作る前に、止める理由を先に出しておくこと
決まった聞き方があるか: ありません。その都度、そのとき作りたいものに合わせて聞いています
かかる時間: 数分から十数分。手を動かす前なので、やめる決断をしても失うものがありません
ここで大事なのは、賛成してもらうために聞くのではないという点です。反対する材料を出してもらうために聞いています。
ビフォーアフター: 壁打ちを挟む前と後

挟む前に起きていたこと
作れそうだと思った時点で着手する
作りながら仕様を決める。決めるのは、その部分を作る直前
費用や情報の扱いといった条件は、その部分に着手するまで言葉にならない
結果、20時間目に「これは使えない」と分かる
挟むようになってから起きていること
着手前に、条件が言葉になる
「作れるが、作らない」という結論が、理由付きで出るようになった
作ると決めたときは、何を確認済みで始めたかが自分で分かっている
回数を記録していないので、体感の話として書きます。思いついたものを全部作らなくなりました。 止まった分だけ手を動かす時間は減りましたが、止まったものは元々完成させても使えないものでした。
「作れるか」と「作るべきか」は別の問い
止めた経験を振り返って一番はっきりしたのが、この2つを同じ問いだと思っていたことでした。
「作れるか」は自分で答えられます。 使う部品の見当がつくか、似たものを作った経験があるか、週末2日で届きそうか。全部、自分の中にある情報で判断できます。そして楽しい問いです。
「作るべきか」は自分だけでは答えられません。 使い続けるときにいくらかかるか。扱うデータを外に出してよいか。組織にルールがあるか。完成したあと誰が運用するか。答えは自分の外側にあります。そして、確認しても動くものは1つも増えません。
私が20時間を使ったのは、前者に答えが出た時点で走り出したからでした。作れそうだったので作り始め、作れることは実際に証明できました。ボタンは出るようになり、文字起こしも取れるようになっています。証明できなかったのは、それを使ってよいかどうかのほうです。
1人で作っていると、後者を聞いてくれる人がいません。その役割を1つ置くというのが、AIとの壁打ちを挟むようになった理由です。
AIに何を聞いているか

決まったプロンプトは持っていません。ただ、毎回だいたい同じ4つを聞いています。
1. これをやめたほうがいい理由を挙げてほしい
最初にこれを聞きます。「作りたいのですがどう思いますか」と聞くと、たいてい前向きな答えが返ってきます。相談する側も、賛成されると気持ちがいいので納得してしまいます。最初から反対の材料を求める形にすると、論点が先に出ます。
2. このデータを外部のサービスに渡して問題が起きるとしたら、どこか
扱うデータの中身を説明して聞きます。会議、メール、チャット、問い合わせのように他人の発言が混ざるものは、自分では気づかない論点が出てきます。
3. 使い続けるときに増える費用はどこか
作るときの費用ではなく、使い続ける費用を聞きます。回数で増えるもの、人数で増えるもの、置いておくだけでかかるものを分けて出してもらいます。
4. 完成したあと、これは誰が運用するのか
動かなくなったとき誰が直すか、出力が溜まったら誰が片付けるか。完成が終わりではなく始まりなので、始まったあとの姿を先に見ます。
聞き方を1つの文章にまとめると、だいたいこういう形になります。毎回これを貼っているわけではありませんが、私が頭の中でやっていることを書き起こすとこうなります。
これから作ろうとしている仕組みについて相談します。
【作りたいもの】
(何を自動化したいか。使う人と、使う頻度も書く)
【扱うデータ】
(どんな情報が入るか。他人の発言や社外の名前が混ざるかを書く)
次の4つに、賛成側ではなく反対側の立場で答えてください。
1. この自動化をやめたほうがいい理由を、思いつく限り挙げてください
2. このデータを外部のサービスに渡した場合、どこで問題が起きますか
3. 作るときではなく、使い続けるときに増える費用はどこですか
4. 完成したあと、誰がこれを運用することになりますか
最後に、これを作らずに済ませる代替案があれば教えてください。最後の1行を入れているのは、作らない方法が見つかることがあるからです。設定を1つ変えるだけで済む話や、そもそも回数が少なくて手作業のままでよい話が、ここで出てきます。
自動化しないほうがいいものの見分け方

壁打ちを通して、私が「これは作らない」と判断する条件が5つに固まってきました。
1. 扱う情報を外に出してよいか決まっていない
自分1人では決められない話なので、作っても配れません。決まっていないことは、禁止されているより厄介です。判断の材料がないからです。
2. 選ぶ判断を、人が一瞬でできてしまう
人がその場で判断できることを機械に肩代わりさせると、判定の仕組みを作る手間と、間違えたときの後始末が増えます。人の判断を残して、その後ろだけ自動にするほうが軽く済みます。
3. 使う回数が少ない
月に数回しか発生しない作業なら、手作業のほうが早いことがあります。自動化には、作る時間と、動かなくなったときに直す時間がついてきます。
4. 動かなくなったとき、直せるのが自分しかいない
これは費用として請求されないだけで、続く負担です。自分だけが使うものなら問題ありませんが、誰かに配るなら、直す人が自分1人しかいない仕組みは配れません。
5. 失敗したときの影響が大きい
自動で送信する、自動で削除する、自動で登録する。この手のものは、間違えたときに取り返しがつきません。人が最後に1回押す形にできないかを先に考えます。
止めた仕組みは、1と4に当たっていました。作る前に5つを当てていれば、着手しなかったはずです。
AIとの壁打ちで、期待しすぎないほうがいいこと
正確に書いておきたいことが2つあります。
1つ目は、聞き方によって答えが変わることです。 「作りたいのですが」と聞けば、たいてい後押ししてくれます。だから最初から「やめる理由を」と聞いています。壁打ちの相手は反対してくれる人ではなく、こちらが求めた立場を演じてくれる相手だと思って使っています。
2つ目は、自分の組織のことは知らないという点です。 社内にAIの利用ルールがあるか、使っているツールの規約がどうなっているか。AIは一般論として論点を挙げてはくれますが、答えは持っていません。結局そこは自分で確認します。壁打ちは確認すべき項目を洗い出す道具であって、確認そのものではありません。
この2つを踏まえると、壁打ちで得られるのは結論ではなく論点です。それでも十分だと感じています。私が20時間目まで気づけなかったのは、論点がなかったからでした。
正直な話: 止めた判断を後悔していない理由
ここからは感想です。
20時間を使って完成しなかったので、傍から見れば失敗です。実際、費用が嫌で自作を選んで費用で止めているので、一周回って元の位置に戻っています。書いていて、われながら間が抜けているなと思います。
それでも後悔していないのは、あのまま完成させていた場合を考えるからです。便利だからと社内に配って、会議の中身が毎日どこかに送られていく状態を作っていたかもしれません。止めた判断のほうが、完成させた場合よりましだったと今でも思います。
もう1つ、止めた記憶は完成した記憶より残るということもあります。うまくいったものは、うまくいった時点で考えるのをやめてしまいます。止めたものは、なぜ止めたのかを何度も考えます。次に何かを作ろうとしたときに最初に思い出すのは、完成したもののほうではありませんでした。
作る前にAIに聞くという習慣は、その20時間の代わりに残ったものです。手を動かす楽しさを1回分手放して、代わりに手放さずに済んだものがあると考えています。
まとめ: 明日から試すなら
これから何かを自動化しようとしている方に向けて、私が次にやるなら何から始めるかを書きます。
1. 思いついたその日は、作らない
作れそうだと分かった瞬間が一番手を動かしたい時間です。そこで着手すると、条件を確認する工程が丸ごと飛びます。1日置くだけで、たいていの思いつきは形が変わります。
2. 最初の質問を「やめたほうがいい理由」にする
AIでも、人に相談する場合でも同じです。賛成を求めると賛成が返ってきます。反対の材料を求めれば、論点が返ってきます。出てきた論点のうち、自分で答えられないものが残ったら、そこが確認すべき場所です。
3. 「作らずに済ませる方法」を必ず1回聞く
自動化を作らなくても済む代替案を出してもらいます。設定を1つ変えるだけで解決する話や、回数が少なくて手作業のままでよい話が混ざっています。作らずに済めば、それが一番安く済む方法です。
4. 止まったら、止まった理由をメモに残す
私は止めた理由を書き残していなかったので、この記事を書くときに思い出すのに苦労しました。次に似たものを思いついたとき、同じ場所で止まるかどうかがすぐ分かります。
作れるかどうかは、手を動かせば分かります。作るべきかどうかは、手を動かしても分かりません。その1点だけでも、着手前に数分使う理由になると思っています。
