#32|その問題、触る場所が違う
学生時代、こんな経験はありませんか。
黒板に「2分のX+3分のX=5」という方程式が書かれている。
見た瞬間、頭の中で「通分しなきゃ……最小公倍数は……」と、ゴチャゴチャした計算が始まる。
ところが先生が一言。
「両辺に6をかけてみて」
やってみると、あの厄介な分数が一瞬で消え去り、
「5X=30、答えはX=6」
という小学生でも解ける式に変わる。
あのスッキリ感、あの「なんだ、こうすれば一瞬じゃないか」という感覚。
今回は、この「変換」という発想を、経営の現場に持ち込む話です。
現場の話に置き換えると…
機械のトラブルで、こんな経験ありませんか。
ある部品がうまく動かない。
力ずくで引っ張ってみる。
ハンマーで叩いてみる。
でも全然動かない。
ベテランの職人さんが来て、少し離れた別の場所をちょっといじると、あっさり動く。
「え、そこ?」と思わず声が出る、あの感覚。
経営も、まったく同じことが起きている。
1.力で押してもなぜ動かないのか
受注が足りなければ「もっと営業に行け」と檄を飛ばす。
従業員が辞めればハローワークや求人誌にお金をつぎ込む。
気持ちはよくわかります。
でも、それで解決しない場面が多いのはなぜでしょう。
売上も、社員の気持ちも、直接手が届く場所にないから。
売上というのは、毎日の仕事の積み重ねが「後から出てくる結果」に過ぎません。
売上を増やすボタンなど、どこにも存在しません。
それを力技で動かそうとするのは、サイドブレーキを引いたままアクセルを踏み込むようなもんです。
しかも、そのブレーキは運転席から見えない場所にある。
だからいくら踏んでも空回りする。
2.「受注を増やせ」ではなく、「なぜ負けているのか」を見る
では受注が伸びないとき、どこを触ればいいのでしょう。
答えは「なぜ見積もりで負けているのか」を掘り下げること。
価格か、納期か、担当者との関係か。
そこを探すと、今まで見えていなかったブレーキが見つかります。
ブレーキを外せば、同じ営業の動きでも自然と受注は増えます。
利益についても同じです。
「今期は利益を出すぞ」と言って目標だけを高く設定すると、現場はどうするでしょうか。
値引きして仕事を取ろうとする。
結果、仕事量だけ増えて、従業員は疲れ果て会社にはお金が残らない、という最悪の状態になる。
見るべきは売上の合計額ではなく、一件ごとに「この仕事でいくら残るか」という粗利の構造です。
儲かる仕事と、やればやるほど苦しくなる仕事を区別することが先決になります。
3.「もっと考えて動け」ではなく「数字を見せる」
「うちの社員は言われたことしかやらない」
「もっと会社のことを考えてほしい」
中小企業の社長からよく聞く悩みです。
しかし、人の気持ちは命令で変えられない。
「経営者目線を持て」と言われて、「はい、持ちました」とはならない。
そこで有効なのが「会社の数字を見せる」というアプローチです。
「数字を見せたら不安になって辞めるんじゃないか」と心配する社長は多い。
しかし実は逆です。
数字を隠しているとき、従業員の頭の中はどうなっているか。
「社長が何とかするだろう」
「会社はまだ大丈夫だろう」
という、根拠のない安心感の上に立っている。
これが、自分で考えない、動かない、の正体です。
そして業績が悪くなっても隠し続けると、現場は空気でそれを感じ取ります。
「最近、社長の機嫌が悪い」
「急に経費がうるさくなった」
根拠のない噂が広がり、じわじわと人が離れていく。
人は、見えない不安の方がよほど怖がります。
毎月の売上、粗利、固定費、手元の資金繰り。
これを従業員と一緒に眺める場をつくるだけで、現場の空気は変わり始める。
気持ちを変えろと説教するのではなく、自分で考えるための材料を目の前に置く。
それだけでいい。
採用も同じ構造です。
求人にお金をかける前に、なぜ人が辞めるのかを先に潰す。
入ってみたら聞いていた話と違った、教えてくれる先輩がいない、評価の基準がよくわからない。
こうした理由を放置したまま募集をかけても、ざるで水をすくうようなものです。
まずバケツの穴を塞ぐことが先決です。
4.「値上げが怖い」をどう乗り越えるか
材料費が上がっているのに、価格を上げられない。
お客さんに断られるのが怖い。
よそに仕事を出されるのが怖い。
この悩みは、計算の問題でも知識の問題でもありません。
純粋に怖いという感情の問題です。
この怖さは、帳簿をいくら眺めても消えません。
有効な方法は
「ここまでは下げても構わないが、ここから先は受けない」
というラインを、あらかじめ自分で決めておくことです。
このラインがないから、お客さんに押されるたびに際限なく下がってしまう。
「どこまで下がったら赤字か」
「どのお客さんには断っても構わないか」
これを先に決めておくと、交渉の場で必要以上に怖くなくなります。
怖さが「際限のない不安」から「計算できる範囲のリスク」に変わるから
です。
5.「現場が回らない」の本当の原因
仕事が立て込んで現場が回らなくなると、社長はつい「人を増やそう」と考えます。
しかし、すでにゴチャゴチャしてる現場に人を入れると、ゴチャゴチャが倍になる。
現場が本当に忙しい原因は、仕事の量ではなく
「誰が何を決めるかが決まっていないこと」
です。
ちょっとしたことでいちいち社長に確認しに来る。
社長が捕まらないと仕事が止まる。
これが現場の時間を奪い、忙しさを生んでいる。
信号機のない交差点に車を増やしても、渋滞がひどくなるだけ。
まず必要なのは
「この判断は職長が決めていい」
「この金額以上は社長に通す」
という、判断の交通ルールを作ること。
これこそが社長の本来の仕事です。
6.行き詰まったら…
正面からいくら押しても動かないなら、一度立ち止まって問いかけてみて。
「今、自分が直接いじれる場所はどこか?」
受注が増えない ➡ なぜ負けているのかを掘る
社員が動かない ➡ 数字を一緒に見る場をつくる
値上げが怖い ➡ 断っていい仕事のラインを決める
現場が回らない ➡ 判断のルールを作る
力ずくで解けない問題は、触る場所を変えてから解く。
ベテラン職人がひと触りで機械を動かすように、経営も「どこを触るか」が全てです。

✨️この記事書いた人✨️
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