#39|辞めた理由より、残ってる理由を聞く
うちのベテランが辞めた。
そのとき社長として、何を考えるでしょうか。
「給料が不満やったのか」
「仕事がキツすぎたか」
「あの先輩との折り合いが悪かったか」
……頭の中でいろんな理由を探し始めるはずです。
それは当然の反応です。
辞められたら困る。
次は同じことが起きないようにしたい。
ただ、わたしが現場の支援をしていて気づいたことがあります。
辞めた人間の話ばかり追いかけていると、大事なものを見落とす。
「今も残ってくれている人は、なんで辞めずに残っているのか」
この問いに、ちゃんと向き合えている社長がどれくらいいるのでしょうか。
1.穴ばかり見ていると、残っている水が見えなくなる
底に穴が開いたバケツがある。
水がポタポタ漏れている。
そのとき誰でも「どこに穴があるか」を探す。
塞がないといけないから。
でも、穴を探すことに必死になっているうちに、「なぜバケツにまだ水が残っているのか」を考えることを忘れてしまう。
人の定着も、まったく同じだと思っています。
辞めた人間の不満を集め続けると、どうなるか。
「うちに足りないもの」ばかりに目が向きます。
給料が低い、休みが取りにくい、評価が不透明……改善すべきことは確かにあるでしょう。
でも、それを全部潰したとしても、会社は「マイナスがゼロになった」だけで、強くなったわけじゃない。
「不満がない職場」と「ここで働き続けたいと思える職場」は、まったく別物です。
不満をゼロにしたとしても、人の心はつなぎとめられません。
2.残っている人には、残っている理由がある
では、今いる人間に「なんでうちにおるんや?」と聞いたら、何が返ってくるでしょうか。
現場でこういった言葉を耳にすることがあります。
「子どもが急に熱出しても、ここは文句言われへん」
「わからんことを聞いたら、ちゃんと教えてもらえる」
「社長は口下手やけど、仕事ぶりはちゃんと見てくれてる」
「困ったとき、誰かが必ず助けてくれる」
こういう言葉を聞いて、「うちの自慢はそんなことか」と思う社長もいます。
最新の設備でも、高い給料でも、業界での知名度でもなく、そんな地味なことが……と。
でも、ちょっと待ってほしい。
スタッフが毎朝会社に来て、しんどい仕事を続けられるのは、なぜか。
「隣の先輩が困ったら助けてくれる」
「社長が自分のことをちゃんと見ている」
そういう日々の実感があるからです。
経営理念や会社のビジョンは大事です。
どこへ向かうかを示す「地図」になります。
でも、スタッフが毎日働き続けるための「燃料」は、もっと泥臭いところにあります。
現場の人間関係、困ったときに助けてもらえる空気、社長の目線……そういうものです。
どんなに素晴らしい地図があっても、燃料がなければ一歩も進めません。
3.残っている理由を知ることが、会社を強くする
「辞めない理由を聞く」というのは、単なる社員満足度の調査じゃありません。
今の会社を支えている土台が何かを、自分たちの言葉で見つける作業です。
しかも、これは採用にも直結する効果があります。
ハローワークや求人票に
「アットホームな職場です」
「やる気次第で活躍できます」
と書いている会社は、世の中にあふれています。
でも、求職者はそんな言葉をほとんど信用していません。
どこでも言える言葉だからです。
一方、実際に働いている人間の口から出た言葉には、重みがあります。
「現場で困ったとき、誰も放っとかへん」
この一言の裏には、「うちの会社では、トラブルが起きる」というリアルが含まれています。
完璧な職場じゃないことを、正直に見せているんです。
でも求職者が本当に知りたいのは、「この会社では、しんどいときに自分はどう扱われるか」です。
綺麗なキャッチコピーより、現場の人間の生の言葉の方が、はるかに強い。
ゼロから魅力を作る必要はありません。
すでにある強みを見つけて、言葉にすることの方が、ずっと効くんです。
4.今日から一つ、やってみてほしいこと
定着率を上げたいなら、辞めた人間の不満を減らすだけでは足りません。
今いる人間が「なぜここで働き続けているのか」を知って、それを大切にして、育てていくことが必要です。
難しいことじゃありません。
今日、会社で一番長く働いているベテランに、こう聞いてみてください。
「いろいろある中で、今もこの会社で働き続けてくれてる理由って、どんなところにある?」
その答えの中に、あなたの会社が本当に大事にしてきたものが、すでに入っているはずです。
バケツの穴を塞ぐことだけに必死になるのをやめて、まだ残っている水の価値をちゃんと見る。
そこから見えてくる会社の姿が、きっとあります。

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