#31|「反対されたから成功する」は本当か?
「あんたが反対するんだから、これは絶対うまくいく」
新しい設備を入れる、新しい取引先を開拓する、そういう場面で、こんなことを言う社長に会ったことありませんか。
あるいは、自分自身が言ったことある、という方がいるかもしれません。
気持ちはわかります。
大きな決断を前にして、自分を奮い立たせたくなるのは人間として自然です。
「頭のいいやつが反対するなら、これは常識を超えた話に違いない」
そう思いたくなる瞬間は誰にでもあります。
だが、冷静に考えてみてください。
「反対された」という事実と「だから成功する」という結論の間に、何のつながりもありません。
それは根拠のある判断ではなく、ただの願掛け。
1.「うまくいった話」しか耳に入らない
ものづくりの世界でも、「皆に無理だと言われたが、やり遂げた」という武勇伝はよく語られます。
それは確かに本当の話でしょう。
しかし、忘れてはならないことがある。
同じように「反対を押し切って」挑戦し、借金だけが残って静かに廃業していった会社が、その何倍も存在するという事実です。
成功した話は語り継がれ、失敗した話は闇に消えます。
これを「生存者バイアス」と呼びます。
勝ち残った者の話だけを見て「反対されたから成功するんだ」と信じ込むのは、表彰台に立った選手だけを見て「猛練習と根性さえあれば誰でも日本一になれる」と言うようなものです。
この思い込みが怖いのは、貴重な反対意見に耳を塞ぐことに直結するからです。
計画の穴を指摘してくれる声を、「わかってない奴の戯言」として切り捨ててしまう。
2.あるボクサーの「名言」
ここで、全く別の話をします。
元世界チャンピオンの畑山隆則選手が、坂本博之選手とのタイトルマッチを前に記者会見でこう言いました。
「僕は顎が弱い。彼は顎が強い。彼は僕よりパンチがある。僕は彼ほどのパンチがない」
ボクシングで「打たれ弱くてパンチもない」、普通に聞けば、これは試合前の敗北宣言です。
記者が当然の疑問「それでも勝てますか」。
畑山選手の答えはひと言でした。
「だから勝てるんですよ」
3.言葉の形は同じ。中身は天と地ほど違う
先ほどの社長の言葉と、畑山選手の言葉を並べてみると、構文はどちらも「〇〇だから、成功する(勝てる)」で同じ。
しかし、その中身には天と地ほどの差があります。
畑山選手の「だから」には、3つのコトが詰まっています。
まず、自分の弱点を正確に把握していた。
顎が弱い、パンチがない、見栄を張らず、自分の現状をありのままに認めた。
これがすべての出発点です。
工場で言えば、「うちの設備は古い、熟練工が少ない」と正直に直視することに相当します。
次に、相手の強みとその裏にある隙を読んでいた。
相手はパンチが強い。
だからこそ、一発で仕留めようと大振りしてくるはずだ、そう読んでいました。
強みを持つ者は、その強みを過信して慢心することがあります。
それを見抜いていたのです。
そして、2つの分析から具体的な戦い方を決めていた。
顎が弱いから、クリーンヒットだけは絶対にもらわない。
パンチがないから、一発KOを狙わず、地道にポイントを積み上げて判定で勝つ。
彼の「だから勝てる」は、勝つための設計図の要約だったのです。
4.結果が出たから名言なのでは?
ここで疑問が浮かぶかもしれません。
「でも、畑山選手が実際に勝ったから名言なのであって、負けていたら『やっぱり顎が弱かった』で終わりだったのでは?それもまた生存者バイアスじゃないか?」
この問い、本質を突いています。
社長の言葉は「反対された」という出来事が起きてから、「だから成功する」という結論に飛んでいます。
そこに戦略はありません。
神頼みと同じです。
一方、畑山選手は試合の結果が出る前に、自分の弱点を起点として「だからこう戦う」という道筋を自分で組み立てていました。
たとえ負けていたとしても、この思考の価値は揺るがない。
社長の言葉は願掛け。
畑山選手の言葉は作戦計画。
その違いがすべてなんです。
5.反対意見は「無料の品質検査」
製造業に置き換えて考えてみましょう。
製品を出荷する前に検査を行います。
その検査で不具合が見つかれば、「うるさい、この製品は絶対大丈夫だ」と無視するでしょうか。
そんな社長はいないはず。
「どこに問題があるか教えてくれてありがとう、直そう」と動くはず。
反対意見も同じです。
自分では気づけなかった計画の穴やリスクを、無料で教えてくれる品質検査のようなものです。
それに対して「わかってない奴の戯言だ」と耳を塞ぐのか。
それとも「なるほど、そのリスクをつぶすにはこうすればいい」と計画を修正するのか。
その差が、成功と失敗を分けます。
もしあの社長が「反対してくれるのは、この計画にこういうリスクがあるからですね。ではそこをこう対策します。どう思いますか」と返せていたなら、事業が成功する確率は格段に上がっていたはずです。
6.成功するのは、反対の中に根拠があるときだけ
反対されたという事実に喜ぶのではなく、その反対意見の中にある指摘を吟味して、それを乗り越える手を打てたときに、はじめて成功への道が開けます。
次に誰かから反対されたとき、こう自問してはどうでしょうか。
この反対意見が教えてくれている、俺の計画の穴はどこだ?
その穴を塞ぐために何ができるか?
根拠のない自信は、時として最大の敵になります。
現場を正直に直視して、弱点を弱点として認め、そこから戦略を組み立てる。
それが、本物の「だから勝てる」につながる思考です。

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