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#42|冬は自分の輪郭がよく見える

四季の中で、わたしは冬がいちばん好きです。

寒いのが得意かと言われたら、別にそうでもありません。
朝は布団から出にくいし、手も冷たなるし、外に出るまでにちょっと気合いがいる。

それでも冬が好きなのは、自分の輪郭がいちばんハッキリする気がするから

夏は自分が液体になっていく感じがします。
暑さに溶かされて、境界がゆるんで、外の空気と混ざっていくような感覚。
なんとなく身体も重たい。
集中も散りやすい。
「ここからここまでが自分」と言える線が、少しぼやける。

その点、冬は良い。
空気が冷えてる分、自分の体温を感じやすい。
服の内側のぬくもりも、吐く息も、手の先の冷たさも、全部が「自分はここにおる」と教えてくれる。

世界とのあいだに、ちゃんと境目ができる。
自分が固体に戻る感じがするんです。




1.忙しいと、人は「液体」になる


この感覚は、仕事にも少し似てると思います。

忙しい時期ほど、人は液体になりやすい。
目の前の予定に流される。
相手の都合に引っぱられる。
周りが求めてることに反応してるうちに、自分が何を大事にしたいのかが少しずつ曖昧になる。

経営の現場でも、全く同じことが起きています。

やることが多い。
考えることも多い。
お金のこと、人のこと、機械のこと、取引先のこと。
毎日いろんなものが一気に押し寄せてくる。

そうやって動き続けてると、気づかないうちに「流される」状態になっていきます。

取引先に無理な納期を頼まれても、断れない。
採算が合わない仕事でも、「まあ、うちがやるしかないか」と引き受けてしまう。
従業員に頼まれたことを全部抱え込んで、気づけば自分だけが夜遅くまで残っている。

これは意志が弱いからでも、経営者としての軸がないからでもありません。
熱のある場所に長くいると、形はゆるみやすい。
ただそれだけのことです。


2.「何でもやります」が、会社を弱くする


もう一つ、会社全体の話もします。

「うちは何でもやります。小ロットでも、急ぎでも、難しい加工でも」
中小企業の強みは、この柔軟さにあることが多いです。
それ自体は本当に大切な武器です。

ただ、何でもやりすぎて、自分たちが何屋なのかわからなくなってしまうことがあります。

得意でもない加工を無理して受けて、品質でミスが出る。
採算が合わない小口の仕事ばかりが増えて、肝心の得意先への対応が手薄になる。
「断ったらお客さんが離れるかも」という不安から、じわじわと仕事の中身が変わっていく。

これが「液体になった会社」の姿です。
やさしく見えるけど、輪郭がぼやけている状態です。


3.固体に戻る時間


人には、ときどき固体に戻る時間がいると思います。

立ち止まる時間。
自分の感覚を取り戻す時間。
ぼやけた輪郭をもう一回なぞり直す時間。
ほんまに大事なんは何か。
いま抱え込んでるものは、自分が抱えるべきものなんか。
人に合わせすぎて、自分の判断基準を見失ってないか。

そういうことを考えるには、少し冷えた空気が合う気がします。

「自分の輪郭をはっきりさせる」と聞くと、頑固になる、融通が利かなくなる、お客さんを断る、そんなイメージを持つ方もいるかもしれません。

でも、そうではありません。

輪郭とは、自分の足元に静かにチョークで線を引くようなものです。

工場でいえば、作業エリアの床に引いてある白線のようなものです。
あの線は、誰かを締め出すためではなく、「ここが自分たちの持ち場だ」とわかるために引いてあります。

「うちが本当に得意なことは何か」
「どのお客さんのために力を使いたいのか」
「ここまでは引き受けられるが、ここから先は難しい」
そういうことが自分の中でわかってる状態。
それが輪郭です。

この感覚があると、判断が少し落ち着きます。
頼まれたことに全部「はい」と言わなくてよくなります。
断るべきときに自然に断れるようになります。
そして、本当に力を入れるべき仕事に、ちゃんと力を入れられるようになります。


4.「冬の時間」を意図的につくる


人には、ときどき固体に戻る時間が必要です。

立ち止まって、感覚を取り戻して、ぼやけた輪郭をもう一度なぞり直す時間。

冬の冷たい空気の中に出ると、自分の体温を感じます。
吐く息が白くなる。
手先が冷たくなる。
「ああ、自分はここにいるんだ」と、妙にはっきりする感覚があります。

忙しい日々の中にも、そういう時間を意図的につくることが大切です。
問いはシンプルで構いません。

  • 今、本当に大事にしたいことは何か

  • 今抱え込んでいるものは、自分が抱えるべきものか

  • 人に合わせすぎて、自分の判断基準を見失っていないか

この問いを、月に一度でも、静かな場所で考えてみてください。
早朝の工場、誰もいない事務所、帰り道の車の中、どこでも構いません。

それは生産性を落とす無駄な時間ではなく、次にまた動き続けるための、不可欠なメンテナンスです。

忙しい社長ほど、この時間を後回しにしがちです。
でも、熱に溶かされたまま走り続けることが、長い目で見て一番危ない。

自分の輪郭を思い出すために。
「ここからここまでが自分の仕事だ」と、もう一度確かめるために。

そんな「冬の時間」を、日常の中に少しだけ取り入れてみてください。


✨️この記事書いた人✨️

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