#40|会社経営版ももたろう─鬼ヶ島は会社の中にあった─
本記事は、日本の昔話『桃太郎』をモチーフに、会社経営の課題整理を目的として再構成したオリジナルストーリーです。
登場する会社名・人物・団体は架空のものです。
画像は生成AIにより作成したイメージです。

ある地方の町に、小さな製造業の会社がありました。
社長は二代目。
先代であるおじいさんと、経理を長年見てきたおばあさんから会社を引き継ぎました。
会社は昔からの取引先に支えられ、なんとか続いていました。
でも、時代は変わっています。
材料費が上がる。
人は採れない。
若手はすぐ辞める。
銀行からは数字の説明を求められる。
現場からは「社長は現場をわかってない」と言われる。
社長は毎日、資金繰り表とにらめっこしながら思ってました。
「このままでは、いつか会社が鬼に食われる」
その鬼とは、目に見える怪物ではありません。
赤字。
人手不足。
社内の不信感。
古い仕事のやり方。
値上げできない体質。
社長ひとりで抱え込む癖。
それらが集まったものを、社長は心の中で「鬼ヶ島」と呼んでいました。

ある日、社長は先代に言いました。
「俺、鬼ヶ島に行ってくるわ」
先代は驚きました。
「鬼ヶ島ってなんや」
社長は答えました。
「会社の中にある、見て見ぬふりしてきた問題や」
先代は少し黙ってから言いました。
「ひとりで行ったらあかん。会社は社長ひとりで変えられへん」
経理のおばあさんも、そっと袋を差し出しました。
中には、きびだんご……ではなく、会社の通帳コピー、試算表、資金繰り表、そして古い手書きのメモが入っていました。
メモにはこう書かれていました。
「数字から逃げるな。
でも、数字だけで人を見るな。」
社長はそれを持って、鬼ヶ島へ向かうことにしました。

まず出会ったのは、犬でした。
犬は、現場一筋30年のベテラン社員です。
口は悪い。
新しいことには文句を言う。
でも、機械の音を聞いただけで異常がわかる。
誰よりも現場を知っている人でした。
社長が言いました。
「会社を変えたい。力を貸してほしい」
犬は言いました。
「社長、変える変える言う前に、まず現場を見に来い。現場を知らん改革は、だいたい現場を疲れさせるだけや」
社長はムッとしました。
でも、言い返せませんでした。
そこで社長は、犬にきびだんごを渡しました。
それはお菓子ではなく、
「毎週30分、現場の困りごとを聞く時間」
でした。
犬は言いました。
「それなら、ついて行ったる」

次に出会ったのは、猿でした。
猿は、若手社員です。
パソコンに強い。
効率化が好き。
でも、会社の古いやり方にモヤモヤしていました。
「なんで同じ数字を何回も手入力するんですか」
「この紙、誰が見てるんですか」
「この会議、何を決める時間なんですか」
社長は最初、その言葉を生意気に感じました。
でも、よく聞くと、猿は会社をバカにしているのではありませんでした。
「もっと良くできるのに、もったいない」と思っていたのです。
社長は猿に言いました。
「会社のムダを見つけてほしい。ただし、現場を否定するんじゃなくて、楽にするためにやってほしい」
そして、きびだんごを渡しました。
それは、
「改善提案を出したら、ちゃんと検討して、結果を返す約束」
でした。
猿は言いました。
「それなら、やります」

最後に出会ったのは、雉でした。
雉は、社外の経営パートナーです。
会社の中にはいない。
でも、社長の話も、社員の話も、銀行の話も、少し距離を置いて聞ける存在でした。
社長は言いました。
「正直、何から手をつけたらいいかわからん」
雉は言いました。
「まず、鬼の正体を分けましょう。
赤字の鬼。
資金繰りの鬼。
人間関係の鬼。
採用の鬼。
値決めの鬼。
全部まとめて戦うから、しんどいんです」
社長はハッとしました。
鬼ヶ島はひとつの島に見えていたけれど、実は問題がごちゃ混ぜになっていただけでした。
社長は雉にきびだんごを渡しました。
それは、
「社長が本音を話せる時間」
でした。
雉は言いました。
「それなら、伴走します」

こうして社長は、犬・猿・雉を連れて鬼ヶ島へ向かいました。
ただし、乗っていったのは船ではありません。
月次試算表。
資金繰り表。
社員面談。
現場改善シート。
銀行向けレポート。
値上げ交渉の準備資料。
それらを一つひとつ積み上げながら、会社の鬼と向き合っていきました。
最初に出てきた鬼は、赤字の鬼でした。
赤字の鬼は言いました。
「売上さえ上げればええんやろ?」
社長は昔なら、そう思っていました。
でも、今は違います。
犬が言いました。
「忙しいだけで儲かってへん仕事、ありますよ」
猿が言いました。
「案件ごとの粗利を見たら、利益を削ってる仕事が見えます」
雉が言いました。
「売上ではなく、粗利とお金の残り方で見ましょう」
社長は、売上至上主義という鬼を退治しました。
次に出てきたのは、人手不足の鬼でした。
鬼は言いました。
「人が足りない、人が足りない。とにかく誰でも採れ」
社長は焦りました。
でも、犬が言いました。
「採ったらアカン人を採ったら、今いる社員が辞めますよ」
猿が言いました。
「求人票にきれいごとだけ書いても、入社後にズレます」
雉が言いました。
「会社が社員に何を提供できるのか、先に言葉にしましょう」
社長は、人数合わせの採用という鬼を退治しました。
次に出てきたのは、社内不信の鬼でした。
鬼は言いました。
「どうせ社長はわかってくれない」
「どうせ社員は動いてくれない」
この鬼は強敵でした。
なぜなら、社長の中にも、社員の中にも、少しずつ住みついていたからです。
社長は会議で熱弁するのをやめました。
その代わり、付箋を配りました。
「今、仕事で困っていることを書いてほしい」
最初は誰も書きませんでした。
でも、犬が一枚書きました。
猿も書きました。
少しずつ、他の社員も書きました。
そこには、社長が知らなかった困りごとが並んでいました。
社長は言いました。
「こんなにあったんか。気づけてなくて悪かった」
その瞬間、社内不信の鬼は少し小さくなりました。
最後に出てきたのは、社長ひとりで抱え込む鬼でした。
この鬼は、社長そっくりの顔をしていました。
鬼は言いました。
「お前がやった方が早い」
「社員に任せても失敗する」
「結局、最後は社長が全部背負うしかない」
社長は黙りました。
なぜなら、それはずっと自分が信じてきた言葉だったからです。
でも、犬が言いました。
「社長が全部やってたら、こっちは育ちません」
猿が言いました。
「任せるなら、丸投げじゃなくて、判断基準をください」
雉が言いました。
「社長の仕事は、全部を背負うことではなく、会社が進む方向を決めることです」
社長は、ゆっくりと言いました。
「俺が全部やらなあかん、と思ってた。
でも、それでは会社は俺の器以上に大きくならへんのやな」
その言葉を聞いて、社長ひとりで抱え込む鬼は消えていきました。
鬼ヶ島には、金銀財宝がありました。
でもそれは、お金そのものではありませんでした。
案件ごとの粗利が見える仕組み。
社員が困りごとを言える空気。
銀行に説明できる月次資料。
採用でブレない基準。
社長が未来を考える時間。
そして、社長ひとりではなく、チームで会社を動かす感覚。
社長はそれを持って、会社に帰りました。
会社は一夜で変わったわけではありません。
売上が急に倍になったわけでもありません。
社員全員が急に前向きになったわけでもありません。
銀行がすぐに満面の笑みで融資してくれたわけでもありません。
でも、会社の空気は少し変わりました。
社長がひとりで鬼と戦う会社から、
みんなで鬼の正体を見つけて、一つずつ退治する会社へ。
犬は現場を守り、
猿は仕組みを整え、
雉は社長の視界を広げ、
社長は未来から会社をデザインするようになりました。
そして先代のおじいさんと、経理のおばあさんは言いました。
「ようやく、あの子は本当の社長になったな」
めでたし、めでたし。
✨️この記事書いた人✨️
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