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#33|10万円の差が教えてくれた値付けの本質

今から20 年ほど前、わたし、レーシック手術を受けました。

クリニックで受付の人に説明されたこと。
・院長が執刀する :30万円
・勤務医が執刀する:20万円
あなたならどっちを選びますか。

わたしは、院長を選びました。
目は一つしかない。
失敗したら取り返しがつかない。
1回きりの大事な手術だ。
10万円くらい余分に出しても院長にやってもらいたい、そう思うのは当然ですよね。




1.なぜ「10万円の差」なのか


ここで少し立ち止まって考えてみてください。
なぜ差額は10万円なのか。
5万円でも、50万円でもよかったはず。

実はこの10万円、適当につけた金額ではありません。
差が1万円だったら、誰も迷わず即決で院長を選ぶでしょう。

クリニックとしては、勤務医に仕事が回ってこない。
逆に差が50万円だったら、患者は「高すぎる」と別のクリニックへ行ってしまう。

10万円という金額は、「なんとか払えなくはないが、正直痛い」というギリギリのラインです。
この絶妙な設定が、患者の頭の中に「どうしよう、どうしよう」という葛藤を強制的に生み出す。


2.人は「自分を納得させる理由」を探し始める


人間というのは面白いもので、高い方にお金を出そうとするとき、無意識に「それで正解だ」という根拠を探し始めます。

院長の診察室に通されると、そこにはこれでもかというくらい「材料」が並んでいる。
立派な学歴と資格の額縁、院長が書いた本、雑誌の取材記事、「おかげさまで見えるようになりました」という患者さんの声。

患者はそれを見て「やっぱり院長先生はすごい。10万円の価値がある」と自分を納得させる。

ここが大事なポイントです。
本や雑誌掲載や患者の声は、「院長の腕が勤務医より確実にうまい」という証明には、実はまったくなっていません。
でも患者にはそれを確かめる方法がない。
執刀の腕前なんて、素人には見えないからです。

だから患者は見えるもの、実績、権威、体験談を手がかりにして、「この値段を払って正解だった」と自分自身を説得します。

つまり、わたしたちは「より高い技術」に10万円を払っているつもりで、実際には「自分が安心するための納得感」に10万円を払っているわけなんです。


3.中小企業に置き換えて考えてみる


「それって医療の特殊な話でしょ」と思うかもしれません。
でも、中小企業の現場でも全く同じことが起きています。

お客さんはあなたの会社の加工精度を、数字だけでは判断できません。
図面通りに仕上がるかどうか、納期を守るかどうか、何かトラブルがあったときに誠実に対応してくれるか、こういうことは、実際に付き合ってみないとわからない。

だから初めての発注では、お客さんは「見えるもの」で判断します。
工場の整理整頓、社長の話し方、過去の取引先の顔ぶれ、対応の速さ。
これらは技術力の直接の証明ではありませんが、「この会社なら安心して頼める」という納得感を作り出す材料になっています。

あなたが「うちは技術で勝負だ」と思っていても、お客さんに技術の中身が見えない以上、判断の材料は別のところにあります。
お客さんはその材料を使って自分を納得させ、発注先を決めているんです。


4.値段は「仕事の仕分け装置」でもある


もう一つ、経営者として絶対に知っておいてほしいことがあります。
値付けには、需要を整理する機能があるということ。

先ほどのクリニックの話に戻ります。
もし院長も勤務医も同じ20万円だったら、全員が院長を指名しますよね。
院長はパンクし、勤務医は暇を持て余し、クリニック全体が回らなくなる。

だから10万円の差をつける。
「どうしても院長に」という患者だけが院長のところへ来て、「まあ、どちらでも」という患者は勤務医へ流れる。
クリニック全体がスムーズに動く。

これは「ぼったくり」でも「足元を見ている」わけでもありません。
価格が仕事を仕分けする信号機の役割を果たしているんです。

中小企業でも同じことが言えます。
何でもかんでも安く受けていると、社長や熟練工に仕事が集中して現場が回らなくなる。
あるいは、利益の出ない仕事ばかりになって、本当に得意な仕事に集中できなくなる。

価格を少し上げると、「それでも頼みたい」という客だけが残る。
むしろそういう客の方が、無理な値引き交渉をしてこない分、付き合いやすかったりする。

値付けとは、原価に利益を乗せる計算ではありません。
どんな仕事を、どんな客と、どのくらいの量でやるかを決める、経営の設計図なんです。


5.「安くしないと仕事が取れない」の前に考えること


最後に、中小企業の社長によく聞く言葉を一つ取り上げます。
「値段を上げたら仕事が逃げてしまう」という不安。

でも考えてみてください。
あなたのお客さんは、本当に値段だけで判断しているでしょうか。

お客さんにとっても、発注先を変えるのはリスクです。
品質が落ちたら困る、納期が乱れたら困る、何かあったときに相談できる相手がいなくなったら困る。
だから多少高くても、信頼できる付き合いが続いているところへ頼みたいと思っているはず。

あなたの会社がその「信頼」を作れているなら、値段だけで競う必要はありません。
むしろ安くし続けることで、「安いから使っている」という客しか残らなくなるリスクの方が怖いですよね。

お客さんが「この値段でお願いしてよかった」と感じてくれるような仕事と、それを支える価格の設定、それを一緒に考えることが、値付けの本当の意味だと思っています。

あなたの会社の値段は、あなたの工場の価値を語っていますか。
一度、そこから見直してみてください。


✨️この記事書いた人✨️

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