#45|形式には人を前に進める力がある
わたしは長いこと、「形より中身や」と思っていました。
儀式とか形ばかりの行事なんて、気持ちさえあれば要らんやろ。
そんなふうに考えていました。
でも、その考えが変わった出来事がありました。
1.ペットを見送ったとき、気づいたこと
ペットが死んだとき、家族だけで小さな葬儀をしました。
家族だけで静かに見送る、ただそれだけの時間でした。
悲しみが消えたわけではありません。
寂しさも残っています。
でも不思議と、少し気持ちが軽くなりました。
ちゃんと向き合えた。
ちゃんと見送れた。
そう思えたことで、少しだけ前を向けたんです。
そのときに初めて気づきました。
儀式は、亡くなった側のためだけじゃない。
残された側が気持ちに区切りをつけるためのもんでもある、と。
2.頭でわかっても、腹に落ちるまで時間がいる
頭はすぐに現実を理解できます。
「もう会えへん」「日常が変わった」、事実としてはすぐわかります。
でも、気持ちのほうはそう簡単にはいきません。
たとえば会社で、長年一緒にやってきたスタッフが辞めるとします。
頭では「あの人はもうおらへん、次の段取りを考えなあかん」とわかってる。
でも気持ちは追いつきません。
なんとなくモヤモヤしたまま、次の仕事に入ってしまう。
そのモヤモヤを整理して、「さあ、切り替えよか」と前を向かせてくれるのが、儀式や形式の役割なんだと思います。
3.感情は「水」、形式は「グラス」
感情を「水」だと思ってみてください。
大切な存在を失ったとき、コントロールできないくらいの悲しみが溢れ出る。
でも、その水を素手ですくおうとしても、指の隙間からこぼれ落ちるだけ。
形式は、その水を安全に運ぶ「グラス」の役割をしてる。
グラス自体に栄養はありません。
味もありません。
でも、グラスがなければ水を飲めない。
形式は「飾り」ではなく、「大切なものを届けるための器」なんです。
4.会社の現場でも、まったく同じことが起きてる
合理的に見たら「要らんやろ」と思えるものが、中小企業の現場にもあります。
朝礼、節目の一声、送別の場、新人の迎え入れ、月末の振り返り、「そんなことしてる暇があるなら手を動かせ」となりやすいですよね。
仕事だけ見たら、なくても回るかもしれません。
でも、仕事は「作業」だけでできてるわけじゃない。
そこには人の気持ちがある。
たとえばこんな場面を思い浮かべてください。
10年以上工場を支えてきたベテランが定年を迎えた。でも忙しさにかまけて「お疲れさんでした」の一言だけで終わってしまった。
新しく入った若手に、仕事の説明はしたけど「よう来たな、一緒にやっていこう」という場をつくれなかった。
苦労してこなした大口の仕事が終わったのに、「次の仕事があるから」とそのまま流れてしまった。
業務は回った。
でも、人の気持ちは置いてきぼりになっていた。
気持ちが整理できないまま走り続けると、チームはどこかで息切れします。
誰かが「ここで働く意味、あるんかな」と思い始める。
辞める理由が、給料や条件だけじゃないのはそういうことです。
5.「伝えた」と「届いた」は違う
社長として会社の方針を話した。
新しいやり方を説明した。
でも現場は動かへん、そんな経験はありませんか。
それは、論理的には伝わっても、気持ちとして届いてないことがあるからです。
正しいことを言うだけでは、人は動かせません。
気持ちが追いついて初めて、人は腹を決めて動けるんです。
その間をつなぐのが、「ちゃんと場をつくる」ということ。
全社朝礼で一言添える。
区切りの日に、みんなの前で「今期、ようやってくれた」と言う。
ただそれだけのことが、人の背中を押すことがあるんです。
6.形だけではあかん。でも、形があるから届くものもある
今でも、形だけ整えて中身がないのは違うと思ってます。
気持ちの伴わない儀式は、むしろ逆効果です。
でも逆に、中身があるからこそ、それをちゃんと届けるために形が要ることもあります。
効率だけで見たら、なくても回る。
でも「なくても回る」ことと「人が前を向ける」ことは、同じじゃない。
自分の現場を振り返ってみてください。
効率化の名のもとに、削ってしまった「場」や「区切り」はありませんか。
それが本当にただの無駄なのか、それとも職人やスタッフの気持ちを前に進めるための大切な器だったのか。
一度立ち止まって考えてみる価値はあると思います。
形式には、人を前に進める力がある。

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