#10|赤字事業から撤退できない社長へ|4つの問いが導く「本当に関わりたい自分」
思いのある事業が赤字続き。
あらかじめ撤退基準を決めていたとしても、リアルな数字を突きつけられても、撤退を決断できない社長、意外と多いです。
数字だけではどうしても意思決定できない実際のケースを基に、新たな視点をお伝えします。
1.数字だけでは決められない赤字事業への思い
事業を撤退するか継続するか、これは本当に多くの社長が悩むポイントです。
ビジネスにおける難しい判断が迫られる場面。
特に数字だけを見れば撤退一択のような事業について。
なぜ決断できないのか、そしてどうすれば前に進めるのか。
本業はすごく好調なのに、抱えている別事業だけが赤字続き。
財務諸表だけ見たら、答えは明らか。
それでも社長はどうしても撤退に踏み切れない。
片方には万年赤字という冷静な客観的なデータがあり、もう片方には社長のこれまでの思いや、従業員のこと、あるいはまだ数字にはなっていない価値みたいなものなどの人間的な要素があります。
そういうものが社長の中でせめぎ合っているわけです。
だから、決断が難しくなるのはある意味当然とも言えます。
では、この一見非合理にも見える状況の背景には何があるのでしょうか。
数字だけではない判断軸に光を当てたいと思います。
2.数字以外の判断軸とは
意思決定を助ける4つの問いがあります。
単なる財務分析を超えた視点です。
まず状況をもう一度整理しますと、本業は好調で会社全体が傾いているわけじゃない。
でも、特定の事業だけが赤字を出し続けている。
普通に考えたら、財務の視点からだと、数字だけ見たら撤退一択、となりがちです。
でも社長は決断できない。
ここにこの話の核心があります。
なぜ選べないのか。
単なる感情だけじゃない理由がある。
なぜ数字だけでは決められないのか。
もちろん、
数字は経営の判断材料として欠かせない、
というのは大前提です。
客観的なデータがないと現状把握もできませんから、羅針盤みたいなものです。
ただ、その羅針盤が示す方向が必ずしも唯一の正解とは限らない。
数字っていう地図だけを見ていても、実際にどの道を進みたいのか、という意思が決まらないと一歩も踏み出せないってことだと思うんです。
そこには当事者の思い、つまりその事業に注いできた情熱や一緒にやってきた仲間、築き上げてきたものへの愛着、あるいはいつか花開くはずだというい期待感など。
数値化しにくいけども、すごくパワフルな感情とか期待ですね。
それが複雑に絡み合っているわけです。
そう考えると、撤退っていう判断は、単に財務上の損失を止めるってこと以上に、そういう見えない何かを切り捨てる痛みが伴うから躊躇するんです。
そして、その思いの正体とか、事業への関わり方みたいなものに対する本心を見つめ直さない限り、堂々巡りになってしまう。
3.意思決定を助ける「4つの問い」
そこで出てくるのが4つの問いなんです。
この行き詰まった状況を打開するために、社長にすごくシンプルだけど核心をつく4つの問いを投げかけました。
① 社長としてこの事業を経営したいですか?
② 責任者としてこの事業を運営したいですか?
③ 従業員としてこの事業で働きたいですか?
④ 何らかの形でこの事業に関わりたいですか?
この質問一つ一つは驚くほど単純な言葉ですよね。
でも、こう並べて、しかも赤字事業を前にして聞かれるとどうでしょう。
あなたなら即答できますか。
なかなか言葉に詰まるかもしれません。
シンプルに見えて多層的な意味があります。
大きな特徴としては、議論の焦点を事業そのものの価値という抽象的なレベルから、社長個人の意思という、もっと具体的でパーソナルなレベルに意図的に引き下げています。
事業はどうなのかじゃなくて、あなたはどうしたいのかってことです。
「べき」から「したい」への変換、さらに重要なのが、問いごとに立場を変えている点です。
社長として、責任者として、従業員として、何らかの形でと。
これはその事業に対するコミットメントの質と深さをいろいろな角度から探るためなんです。
① 社長としてこの事業を経営したいですか?
これは、その事業が会社全体の中で戦略的にどういう意味があると考えているか、トップとしてのビジョンとか情熱があるか、というのを確認しています。
もしここで「ノー」なら、もう根本的な部分で意欲が薄れている可能性が高いわけです。
② 責任者としてこの事業を運営したいですか?
トップとしての視点では、2つ目の責任者として運営したいか、です。
これは1つ目とどう違うのか。
経営と運営、似ているようでちょっとニュアンスが違います。
これはもっと現場寄りのレベルでの関与意欲を確認しています。
経営が全体戦略とか方向性だとすれば、運営は日々のオペレーション、実際に事業を動かす実務に近い立場です。
現場を回すのは好きだけど、社長として全責任を負うのはもうしんどい、みたいなケースもあるでしょう。
立場が変わると見える景色も感じる重荷も違います。
③ 従業員としてこの事業で働きたいですか?
3つ目の従業員として働きたいか。
これはさらに視点が下がります。
これはその事業が提供している仕事そのものの魅力や価値、あるいは働く場としての魅力を問う質問です。
仮に経営や運営の責任は負わなくても、いち担当者として、この仕事内容やここで働く仲間に魅力を感じるか。
もし従業員の立場ですら働きたくないなら、その事業が持つ本質的な魅力や、職場環境に何か問題があるのかもしれない。
チーム全体の士気にも関わってきます。
自分がもし社員だったら、で想像すると、また違う感情が湧きそうです。
④ 何らかの形でこの事業に関わりたいですか?
これはかなり広範囲な問いです。
これがある意味、最後の砦とも言える問いで、すごく重要です。
たとえ社長としても責任者としても従業員としても関わりたくない。
つまり、1から3までが「ノー」だったとしても、完全に手を引くのではない。
例えば、アドバイザーとして助言する、一部の業務だけ引き受ける、あるいは単に友人として応援する、など限定的であっても、何らかのポジティブなつながりを持ち続けたい気持ちがあるかどうかを探る問いです。
もしこの問いにすらノーなのであれば、それはもう心理的な距離がかなり離れてしまっている証拠です。
段階的に関与のレベルと質を問い直すことで、自分の本心がどこにあるのかをあぶり出そうとしているわけです。
実際にこの4つの問いかけをした社長の反応。
答えに詰まって、ようやく出てきたのは「そういう視点で考えたことなかった」と。
まさにこの問いかけが、普段あまり意識してない深層心理に触れたことを示しています。
わたしたちは日常的に事業としてどうすべきか、会社としてどう判断するかみたいな枠組みで考えがちですが、個人としてわたしはどうしたいのかっていう問いは、特に責任が重くなるほど見失いがちです。
つまり、わたしたちは普段、無意識のうちに、どれだけ多くの前提や役割意識に縛られて意思決定をしているのかということです。
4.「4つの問い」がもたらす効果
この4つの問いは、その固定化された思考の枠組みを良い意味で壊してくれるものです。
この問いかけのプロセスを通して、単にイエスノーを出すだけじゃなくて、なぜそう思うのかっていう自己対話が深まります。
それが次のステップに進むためのすごく大事なエネルギーになるんです。
つまり、数字という客観的な情報だけじゃなく、自分はこの事業にどの立場でどれくらいの熱量を持って関わりたいのか、というすごく個人的で本質的な問いに向き合うことが最終的な決断、それも納得感のある決断への鍵になります。
最後に決めるのは、自分はこの事業にどう関わりたいか、その一点に尽きます。
これは、ビジネスの撤退継続みたいなシビアな場面だけではなく、わたしたちが日々関わっているいろいろなことにも応用できます。
例えば、あなたが関わっている地域のボランティアや、長く続けている趣味のサークル運営、キャリアチェンジを考えているときなど。
成果や効率、周りの期待だけではなく、自分はこの活動にどういうスタンスで関わり続けたいのだろうと自問してみる。
この視点は普遍的な自己分析ツールとして使うことができます。
大事なのは、決して数字とか客観的な状況を無視する、ということではありません。
赤字という厳しい現実や、プロジェクトの遅延のような客観的な事実をまずしっかり受け止める。
その上で、ではそれに対して自分はどういう意志と熱量で向き合いたいのかを、これらの問いを通じて明確にしていく。
この両輪があってはじめて、地に足のついた、かつ納得感のある決断が可能になるんです。客観と主観のすり合わせみたいな感じです。
5.白黒だけじゃない、多様な選択肢の可能性
そして、この4つの問いに正直に答えていくと、継続か撤退かっていう二者択一じゃない、
もっと多様な選択肢が見えてくる可能性もあるんです。
例えば
・社長として経営するのはもう精神的に無理だ。
➡Q1:✕
・現場を管理するのも、やりたくない。
➡Q2:✕
・でも、現場でお客さんと接するのは
好きだし、この商品には愛着があるから、
従業員としてなら続けたい。
➡Q3:○
・何らかの形で関わりたい気持ちは強い。
➡Q4:○
みたいな答えが出たとします。
そうなると、単純な事業撤退ではなく、例えば事業を誰かに売却するけど自分は従業員として残るだったり、事業規模を縮小して自分が担当者レベルで関われる範囲に留めるだったり。
信頼できる後任に社長を任せて、自分はアドバイザーになるみたいな第3、第4の道筋が具体的に検討できるようになるかもしれない。
白か黒かじゃなくて、グラデーションのある解決策や役割の変更みたいな、より柔軟な着地点を探るヒントになるわけです。
単に決断を迫るだけじゃなくて、創造的な解決策を生み出すための問いかけでもある。
客観的な状況分析と主観的な意思決定と統合して、最終的な行動と心からのコミットメントを一致させるための、すごく実践的なアプローチです。
もちろん、自分自身に正直になるのは、痛みを伴う作業です。
答えに詰まった社長も、このプロセスを通じて痛みはあったかもしれないけど、自分の本心と向き合うことで思考が整理されて、前に進むための具体的な糸口を見つけることができました。
単に決断を出すプロセスじゃなくて、自己理解を深めるプロセスでもあります。
意思決定って、単に最適な選択肢を選ぶ、という合理的な行為だけではなく、その選択を通して自分は何を大切にして、どうありたいのかを再確認して、自己を形成していくプロセスです。
特に今回みたいな感情的な要素が強く絡む難しい決断においては、このような内省的な対話が後悔しない選択に不可欠なんです。
6.自分はどう関わりたいのかを問い直す
数字上は明らかに不利な状況。
例えば、赤字続きの事業や停滞しているプロジェクトなどに直面した際、わたしたちは往々にしてどうすべきか、という客観的な正解を探そうとします。
でも、それだけじゃ動けない時があります。
そんなとき、自分はその対象にどのような立場で、どの程度深くどんな気持ちで関わりたいのか、という問いを自分自身に深く投げかけること。
これが、迷いを断ち切って納得のいく次の一歩を踏み出すための、非常に有用な羅針盤になり得るということです。
4つの問い
「①経営したいか ②運営したいか ③働きたいか ④関わりたいか」
これらは特定のビジネスケースを超えて、あなたが今まさに直面しているかもしれないいろいろな課題とか岐路において、自分自身の内なる声を聞いて、立ち位置を明確にするための実践的な問いかけとして使えるということです。
客観的な状況分析に加えて、この主観的な意思の確認作業を行うことで、より統合的で後悔の少ない意思決定が可能になります。
特に最後の「何らかの形で関わりたいか」という問いの持つ意味は大きいです。
オールオアナッシングではない。
多様な関与の可能性、グラデーションのある関係性を模索するきっかけを与える。
完全撤退でもなく、すべてを抱え込むのでもない。
この問いに正直に向き合うことで、自分にとって最もフィットする関与の仕方を見つけるための重要なヒントが見えてきます。
7.最後に
是非あなた自身に問いかけてみてほしいことがあります。
あなたは今、力を注いでいる仕事やプロジェクト、あるいはライフワークとして取り組んでいる活動や大切にしている人間関係に対して、
本当はどんな立場で、どのくらいの熱量を持って関わりたいと心の奥底では願っていますか?
もしかしたら、日々の忙しさの中とか、周りからの期待とか、これまでの慣習、数字や効率みたいな外的な指標に気を取られて、自分自身の内なる声、つまり、本当はどう関わりたいのかっていう純粋な意思を見失っている瞬間があるかもしれません。
一度立ち止まって、その声に静かに耳を傾けてみる。
そこから何か新しい発見とか、次の一歩を踏み出すためのあなただけの答えが見つかるかもしれません。
だからこそ、まずは身近なことから試してみてください。
小さなプロジェクトや日常の人間関係で
「自分はどう関わりたいのか」
を問い直す練習を重ねておく。
その積み重ねが、いざ事業の継続か撤退かといった大きな決断に直面したとき、迷わず自分の答えを出すための力になります。
8.おまけ|実際の現場で使える具体例
例えば、こんな状況で4つの質問を使ってみてください。
ケース1:赤字の機械加工部門
質問1:社長として、この機械加工を会社の柱にしたいか?
質問2:現場責任者として、毎日の段取りや品質管理をやりたいか?
質問3:職人として、この機械を使った仕事をしたいか?
質問4:何らかの形で、この技術に関わりたいか?
ケース2:長年の下請け取引
質問1:社長として、この取引先との関係を続けたいか?
質問2:営業責任者として、この取引先の担当をしたいか?
質問3:現場作業員として、この仕事をやりたいか?
質問4:何らかの形で、この取引先と関わりたいか?
答えの組み合わせによって、完全撤退、段階的縮小、役割変更、新しい関係性の構築など、様々な選択肢が見えてきます。
大切なのは、正直に答えることです。
建前ではなく、本音で。
そこから、あなたの会社にとって最適な道筋が見つかるはずです。

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