【第3部】財源論で迷子になった――消費税減税は「できない」のか?
第2部の末尾では、
「5兆円の財源と、その副作用」を第3部で扱う予定だった。(▼ 前作:未読の方、または再確認したい方はこちら)
ところが、資料を集め、数字を並べ、制度を追いかけるうちに、
私は思っていた以上に深い場所に迷い込んでしまった。
答えがあると思って掘ったら、
地層そのものが複雑だったのである。
本稿は、消費税減税の是非に結論を出すためのものではない。
むしろ、なぜこの議論がここまで錯綜するのか、
その理由を整理することを目的とする。
「減税できない」という前提は正しいのか
消費税減税の議論では、しばしば次のような言葉が使われる。
「財源がない」
「社会保障がもたない」
「国債依存がさらに進む」
確かに、財務省が公表している資料を見ると、
一般会計歳出は税収だけでは賄えておらず、
国債発行が前提となっている。
この数字だけを見れば、
「減税など不可能」と感じるのも自然だ。
しかし、ここで一度立ち止まる必要がある。
歳入歳出は“国家のキャッシュフロー”に近い
一般会計の歳入歳出構造は、
企業会計で言えば損益計算書というより、
キャッシュフロー計算書に近い性格を持つ。
たとえば令和7年度予算案では、
国債発行額は約28兆円
そのうち約17兆円は既存国債の償還財源
となっており、
純増分としての国債は約11兆円にとどまる。
これは、企業で言えば
「借換えを含んだ資金調達」と見ることもできる。
この構造を無視して、
「国債28兆円=すべて将来負担」と捉えるのは、
やや粗い理解と言わざるを得ない。
税収は本当に「足りていない」のか
もう一つ見逃されがちなのが、税収の推移である。
2019年度(決算)には約58兆円だった一般会計税収は、
令和7年度予算では約80兆円規模まで増加している。
この間、日本経済は
消費税率の引き上げ
コロナ禍
急激な物価上昇
という大きな変動を経験した。
それでも税収は、名目ベースで大きく伸びている。
では、この増加分はすべて
社会保障費の自然増
借金返済負担の増加
に吸収されてしまったのだろうか。
少なくとも、
物価上昇率を上回る税収増が存在している可能性は否定できない。
「提示される数字」は加工後の情報である
ここで重要なのは、
私たちが目にしている数字の性質である。
財務省が提示する資料は、
国という巨大な意思決定装置を一度通過し、
整理・加工された後の情報だ。
そこに恣意があると断定する必要はない。
ただし、生の取引データではないことも事実である。
どの数字を集め、
どの範囲でまとめ、
どの切り口で提示するか。
その時点で、情報はすでに「編集」されている。
私たちは、その編集後の結果をもとに、
是非を議論しているにすぎない。
国家にもB/Sは存在する
歳入歳出だけで国家の余力を測ることには、限界がある。
実際、財務省は
「国の財務書類(連結)」として、
国家の資産・負債を一覧化した資料を公表している。
そこには、
国債などの負債
金融資産
出資金
インフラ資産
などが計上されており、
国家が単なる「借金の塊」ではないことが分かる。
本稿では詳細な分析には踏み込まないが、
減税議論においてこの資料がほとんど参照されない
という事実そのものが、示唆的である。
なぜ答えが一つに収束しないのか
ここまで見てきた通り、
消費税減税を巡る問題には、
財政規律という視点
国民生活という視点
制度設計という視点
政治的判断という視点
が複雑に絡み合っている。
減税を渋るのは、
本当に余力がないからなのか
将来リスクを過大評価しているのか
政策カードとして温存しているのか
あるいは、そのすべてなのか。
一つの答えに収束しないのは、
この問題が「能力」だけでなく
「意思」や「戦略」や「演出」まで含んでいるからだ。
おわりに
本稿は、
消費税減税を支持するための文章ではない。
同時に、
減税を否定するための文章でもない。
ただ、
「減税できない」という前提
「財源がない」という言葉
「危険だ」という警句
それらが、
十分な材料をテーブルに載せた上で語られているのか
その点に疑問を投げかけたにすぎない。
答えは出なかった。
しかし、迷子になったことで、
少なくとも地図の輪郭は見えてきた気がしている。
参照資料
財務省「一般会計税収の推移」
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/a03.htm財務省「一般会計歳入歳出の概要」
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/a02.htm財務省「国の財務書類(連結)令和5年度」
https://www.mof.go.jp/policy/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2023/national/fy2023renketsu.pdf
