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言いにくいことを建設的に伝える──生成AIでフィードバック設計

「もう少し頑張ってほしい」──部下にそう伝えた経験はないだろうか。言った側は配慮したつもりでも、受け取る側には何を改善すべきか伝わらない。一方で、具体的に指摘しようとすると角が立ちそうで言葉を選びすぎてしまう。

この「伝え方のジレンマ」を、生成AIとフレームワークの掛け合わせで解消する方法を紹介する。


なぜフィードバックは曖昧になるのか

原因は「何を言うか」と「どう言うか」を同時に考えている点にある。内容の整理と表現の調整を一度にやろうとすると、結果的にどちらも中途半端になる。

実際、自分がこの問題に気づいたのは、部下との1on1の直後だった。「最近の資料、もう少し精度を上げてほしいんだよね」と伝えたつもりが、翌週の資料は何も変わっていなかった。後から聞くと「何をどう変えればいいかわからなかった」と言われた。曖昧なフィードバックは、言っていないのと同じだった。

解決策はシンプルで、まず内容を構造化し、次に表現を整えるという2段階に分けることだ。

この「内容→表現」の分離を**「2段階分離法」**と呼んでいる。第1段階で「何を伝えるか」を事実ベースで構造化し、第2段階で「どう伝えるか」をトーン調整する。2つを同時にやるから曖昧になる。分離するだけで、フィードバックの解像度が上がる。


SBI形式──フィードバックを構造化するフレームワーク

SBI形式は、Center for Creative Leadership(CCL)が提唱したフィードバックの型だ。3つの要素で構成される。

  • Situation(状況):いつ、どの場面で起きたか

  • Behavior(行動):相手が具体的に何をしたか

  • Impact(影響):その行動がチームや業務にどう影響したか

この型に当てはめると、感情的な表現が排除され、事実ベースの指摘になる。ポイントは人格ではなく行動に焦点を当てること。「あなたはだらしない」ではなく「この場面でこの行動があり、こういう影響が出た」と伝える。受け取る側は何を変えればいいか明確にわかる。


生成AIでSBIフィードバックを設計する3ステップ

ステップ1:状況と行動をメモする

まず、伝えたい場面を箇条書きで整理する。完璧な文章は不要だ。

例:

  • 先週の進捗会議で、Aさんが担当タスクの遅延を報告しなかった

  • 他メンバーがスケジュールを組み直す必要が発生した

ステップ2:生成AIにSBI変換を依頼する

以下のようなプロンプトを使う。

あなたはマネジメントコーチです。
以下の状況をSBI形式(Situation / Behavior / Impact)の
フィードバックスクリプトに変換してください。

【条件】
- 相手の人格でなく行動に焦点を当てる
- 改善してほしい行動を1つに絞る
- 攻撃的にならず、協力を引き出すトーンにする

【状況メモ】
・先週月曜の進捗会議で、Aさんが担当タスクの遅延を報告しなかった
・他メンバーがスケジュールを組み直す必要が発生した

ステップ3:出力を確認し、自分の言葉に調整する

AIの出力例:

Situation: 先週月曜の進捗会議の場で、
Behavior: 担当タスクの遅延について共有がなかったのですが、
Impact: 他のメンバーがスケジュールを再調整する必要が生じました。早めに共有してもらえると、チーム全体で対応を考えられるので助かります。

この出力をそのまま読み上げる必要はない。自分の口調に合わせて微調整し、「伝える台本」として使う。


Before / After:3つの場面で比較する

場面1:進捗報告の遅れを指摘する

Before:
「進捗の共有、もうちょっとちゃんとやってほしいんだけど」

After:
「先週の進捗会議で、タスクの遅延が共有されなかった件なんだけど、他のメンバーのスケジュール調整が必要になったんだよね。次から遅れが見えた時点で共有してもらえると、チームで早めに動けるから助かる」

Beforeは「何を」「いつ」「なぜ改善すべきか」が不明確。Afterは事実と影響が明示され、改善の方向も具体的。

場面2:資料の品質について指摘する

Before:
「この資料、もうちょっとクオリティ上げてくれない?」

After:
「火曜に提出してもらった提案資料なんだけど、見積もりの根拠が記載されていなかったから、クライアントに説明する際にこちらで調べ直す必要があった。次回から見積もりの算出根拠を1行でいいので添えてもらえると、そのまま先方に出せるから助かる」

「クオリティ」は解釈が人によって違う。具体的に「何が」「どう困ったか」を示すと、修正ポイントが1つに定まる。

場面3:ポジティブなフィードバック(褒め方も構造化する)

Before:
「今日のプレゼン、よかったよ」

After:
「今日の役員会議のプレゼンで、冒頭にコスト削減の結論を先に出してくれたおかげで、役員が最初から集中して聞いていた。あの構成はぜひ今後のプレゼンでも続けてほしい」

SBI形式は改善指摘だけでなく、褒める場面でも有効。「何がよかったか」が具体的に伝わると、相手はその行動を再現できる。


場面別プロンプト3選

1. 勤怠・態度の問題を指摘する(最も言いにくいケース)

以下の状況をSBI形式のフィードバックに変換してください。

【条件】
- 相手の自尊心を傷つけない表現
- 「監視している」という印象を与えない
- 改善の具体的なアクションを1つ提示する

【状況メモ】
(ここに状況を箇条書きで記入)

2. 同僚・他部署のメンバーへのフィードバック(上下関係がない場合)

以下の状況をSBI形式のフィードバックに変換してください。

【条件】
- 上下関係がない同僚への伝え方
- 「お願い」のトーンを基調にする
- 相手の仕事の価値を認めた上で改善点を伝える

【状況メモ】
(ここに状況を箇条書きで記入)

3. 上司へのフィードバック(最も難易度が高いケース)

以下の状況をSBI形式のフィードバックに変換してください。

【条件】
- 部下から上司への建設的な進言
- チーム全体の成果向上を軸にする
- 「上司の行動を批判する」のではなく「チームとして改善する」提案にする

【状況メモ】
(ここに状況を箇条書きで記入)

よくある失敗パターン

| 失敗パターン | なぜ起きるか | 対策 |
|------------|------------|------|
| AIの出力をコピペしてそのまま伝える | 自分の口調と合わず不自然になる | 構造だけ借りて、言い回しは自分の言葉に |
| 1回のフィードバックで3つ指摘する | どれも印象に残らず改善されない | 1回1指摘を徹底する |
| SBI形式で整理したのに結局言えない | 伝え方ではなく「伝える覚悟」の問題 | 1on1のアジェンダに事前に入れて退路を断つ |
| ポジティブをサンドイッチにする | 「褒め→指摘→褒め」は相手に見透かされる | 指摘は指摘として独立させる。褒めは別の機会に |


まとめ

フィードバックの質は、センスではなく構造で決まる。

  1. 内容と表現を分離する。まず「何を伝えるか」を構造化し、次に「どう伝えるか」を整える

  2. SBI形式で事実ベースにする。Situation→Behavior→Impactの3要素で感情を排除する

  3. 場面に合わせてトーンを調整する。部下・同僚・上司で条件を変えてプロンプトに反映する

次のフィードバック機会に、まずはステップ1の「状況メモ」から試してみてほしい。箇条書き2〜3行のメモが、曖昧な「もう少し頑張って」を具体的な行動指示に変えてくれる。


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