【第4章】 第91話

【第4章】第91話 黒曜城の鼓動

不夜城が完全に動き始めた。

ここに来て、デュラガーの増加と
お父様の空気圧で城内の干渉圧に
立っていられない。

頭に直接響く『何処だ!』の声、声、声!

「ヤダもう!偏頭痛誘発音声!」

クラクラして、そのまま気絶しそうである。
そこを壁に拳を叩きつけて、踏ん張っている真琴。

このままでは、デュラガーに追いつかれるのも時間の問題だ。

魔石ペンがここでピコんと光った。

「壁に直接真琴様を描きます!」

「えっ!そんな事…でもそれをしたらペン先が死ぬよ?」

「戻ったら修理してくださいね」

蜘蛛ちゃんズが真琴の頭をペシって叩く
動け!って。ここは魔石ペンに任せろって!

「魔石ペン、任せた」

グッと足に力を込めて立ち上がる。
歩かなければ。走らなければ。



魔石ペンの先端が、
淡く青白く光る。

真琴が壁際へ身を寄せた瞬間、
ペンは自ら宙へ浮かび上がった。

「では、少しだけ頑張ります」

「う、うん……頼んだ!」

カリ……カリカリ……

黒曜城の壁へ、
魔石ペンが高速で線を描き始める。

その速度は、
もはや人の筆記ではない。

線が重なり、
光が宿り、
描かれた輪郭がゆっくり立体化していく。

「うわ……」

真琴が思わず声を漏らした。

壁から、
“真琴”が浮かび上がっていた。

しかも一人ではない。

走る真琴。
振り返る真琴。
壁際で息を潜める真琴。

半透明の残像のような姿が、
薄暗い通路へ次々と投影されていく。

「すごっ……超立体映像……!」

蜘蛛ちゃんズも、
ぴょこぴょこと前脚を振って驚いていた。

直後。

ズン……

重い足音。

デュラガー。

赤い光を灯した首無し騎士達が、
通路の奥から現れる。

その瞬間。

ギギ……

一斉に、
偽の真琴へ顔を向けた。

「うわ、本当に騙された」

デュラガーには、
“首”がない。

視覚ではなく、
魔力反応と気配で追っているのだろう。

薄暗い黒曜城の中では、
魔石ペンが作り出した偽像でも十分だった。

ギャリギャリギャリ!!

巨大な槍が、
壁の“真琴”を串刺しにする。

だが当然、
手応えはない。

槍はそのまま黒壁へ深々と突き刺さった。

ピシ……

空気が止まる。

「あ」

真琴が固まる。

次の瞬間。

ゴガァァァァン!!

デュラガーが、
壁ごと叩き砕いた。

「怒ったぁぁぁ!!」

轟音と共に、
黒い破片が廊下へ飛び散る。

偽物の真琴達を、
次々と破壊していくデュラガー部隊。

もはや追跡ではない。

完全にキレていた。

「魔石ペンちゃん!?
これ逆効果じゃない!?」

「囮としては大成功です!」

「成功の方向性ぃ!!」

蜘蛛ちゃんズが、
一斉に真琴の頭を叩く。

逃げろ、と。

「はいはい走りますよぉぉ!!」

真琴は半泣きで、
崩れる黒曜城の通路を駆け抜けた。



「なんか、物凄く悪い予感と物音が続いていないか?」

ゴガァーーーンとかギリギリギリとか
聞きたくない音が響き渡る。

「イメージ的には、槍かな?」
リオが冷静に判断する。

「そこ!そんな冷静な判断いらないわよ。
もう、真琴の仲間ってどうして変な事ばかり。
普通は、真琴が見つかって、追いかけられてるって考えないの?」
ルナミナが叫ぶ。

それをレオンハルトとリオが、同時に「シーッ!」と制した。

「声がデカい」「城に響く」

「アンタ達ねぇ!」

だが、次の瞬間。

──ゴガァァァン!!

今度は、すぐ近くで轟音が響いた。

三人の足が止まる。

「……近いな」レオンハルトが眉を寄せた。

ギリ……ギギギ……

壁を削るような、嫌な音が続く。

「いや、これ絶対槍ぶっ刺してる音でしょ」リオが呟く。

「だから分析しなくていいって言ってるでしょ!?」

ルナミナが頭を抱えた。

その時だった。

ドゴォン!!

すぐ横の通路壁が、突然内側から爆ぜた。

「うわっ!?」

黒い破片が飛び散る。

砂煙。

崩落。

そして。

「ぎゃあああぁぁぁぁ!!」

聞き覚えしかない悲鳴が、壁の向こうから響いた。

ルナミナ達の目が見開かれる。

「真琴!?」

煙の中から、真琴が物凄い勢いで飛び出してきた。

その頭には蜘蛛ちゃんズ。

後ろには、槍を振り回しながら壁をぶち抜いてくるデュラガー部隊。

「ちょっ、なんで壁壊してくるのこの人達ぃぃ!?」

「真琴ぉぉ!?」

「ルナミナぁぁぁ!?」

感動の再会。

……のはずだった。

だが次の瞬間。

ズズズズ……

真琴とルナミナ達の間へ、黒い壁がせり上がり始める。

「は?」

全員の顔が固まった。

「いやいやいやいや!!タイミング考えなさいよこの城ぉぉぉ!!」

真琴が絶叫する。

完全に、嫌がらせだった。



「デュラガーに出来て、俺に出来ない事はーない!」
レオンハルトが剣を構えた。
剣先を後ろに向け、
腰を低くして、力を込める体制だ。

剣が雷撃を溜め始める。

「相性いいじゃん!」
リオがにんまりと笑った。

「ダァーーッ!」

気合いとともに、雷撃が放たれて
壁が崩れ落ちる。

「お見事!」
リオの感嘆と

ルナミナと真琴の何やってるのコイツら的な
シンクロした表情が固まっていた。



その瞬間だった。

黒曜城全体が、
ドクン……と脈打つ。

「……え?」

セラフィナが、
遠く離れた部屋で顔を上げた。

嫌な汗が伝う。

「嘘……」

黒曜城の気配が、
一つ増えた。

いや、違う。

“目覚めた”。


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