【雲間月怪異譚】 第48話
【雲間月怪異譚】第48話 花壇
※注意※
本作『雲間月怪異譚』には、
怪異・都市伝説・因習・和風ホラー表現が含まれます。
薄暗い話や、
“じわりと嫌な感じ”のする話が苦手な方は、
どうか無理をなさらず回れ右でお願いします。
それでも覗いてくださる方は――
どうぞ、雲間の怪異譚へ。
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本日は、リスナーさんからの投稿です。
リスナーさんの名前は、仮でK子さんと言います。
まだ小学生の頃、7月20日がうちの地方の夏休み入りでした。
歳がバレてしまいますが、小学校の校舎が南に向いて建っています。
その校舎のすぐ前に、町の幼稚園というか、この町では年長さんが小学校へ入る前の準備の為に一年だけ通う場所がありました。
基本的な席に座っていること。
時計の時間の読み方。
自分の名前を書くこと。
給食の時のスプーンやフォークの使い方。
小学校生活で困らないように、そんな基本的なことを教えていました。
そして、今でも覚えているのが、その幼稚園舎の前にあった花壇です。
夏休み前に種を植えて、夏休みに入ると先生方や町の大人が水やりをします。
上手く時間を調整して、夕方に来ることができれば良いのですが、仕事や家庭の都合でそうはいかないこともあります。
仕方なく、夜に水をやりに来ることもあったそうです。
先生方もその辺りは分かっていたのでしょう。
花も病気に強く、虫がつきにくい種類が選ばれていました。
夜。
ひとり小学校の門扉前に車を停め、中へ入る。
今では考えられないですが、当時はまだその辺りも緩かったそうです。
ジョウロに水を入れて、花壇へ向かう。
花壇の広さは一辺10m×1.5mほど。
それが煉瓦で囲まれて、ふたつ並んでいました。
まだ土の部分が多い花壇へ、水を撒いていく。
簡単な仕事のはずでした。
夜の校庭には電気もなく、照明は空に浮かぶ星だけ。
懐中電灯は持ってきていましたが、置いておくと全てを照らせるわけではありません。
「さっさと終わらせちゃお」
そう気合いを入れて、水を撒き始めました。
ジョウロから落ちた水が、乾いた土へ吸い込まれていく。
その時でした。
ガサッ。
花壇の中から音がしました。
続いて、
ボコッ。
土の中から、何かが押し上げられたような音。
私は驚いて、懐中電灯のある場所まで戻りました。
音のした場所を照らします。
でも、そこには何もありません。
風で葉が動いただけ。
そう思うことにしました。
そして、また水撒きを続けました。
しかし。
別の場所から、
ガサッ。
今度ははっきり聞こえました。
慌ててそちらを向き、懐中電灯を向けようとした瞬間。
足元をよく見ていなかったのでしょう。
私は花壇側へ尻もちをついてしまいました。
「きゃあ!」
幸い、そこは柔らかな土でした。
怪我はありません。
でも、尻もちをついた場所は大きくへこんでいました。
「どうしよう……」
先生に怒られる。
そう思った私は、慌てて土を戻そうと手を動かしました。
その時です。
私の手が、何かに触れました。
最初は木の根かと思いました。
でも違いました。
柔らかい。
そして、妙に人間の腕に似た感触でした。
反射的に手を引こうとした瞬間。
私の手首が掴まれました。
土の中から。
一本。
また一本。
青白い指が伸びていました。
「え……」
声が出ませんでした。
私が四つん這いになっていた花壇。
その周囲から、次々と手が出てきたのです。
泥にまみれた青白い手。
細い指。
黒ずんだ爪。
まるで植物の芽が土から伸びるように。
花壇いっぱいに、人の手だけが生えていました。
それらは動いていました。
ゆっくりと。
でも確実に。
私へ向かって。
逃げようと体を起こした瞬間、足首を掴まれました。
服を。
腕を。
掴もうと伸びてくる。
私は叫びながら、必死で花壇から離れました。
どうやって門まで戻ったのか覚えていません。
ただ、車に飛び乗って、鍵をかけて、震えていたことだけは覚えています。
翌朝。
怖かったですが、気になって学校へ行きました。
花壇を見ると、
何事もなかったように土は平らになっていました。
昨日、私が崩した場所も。
掘り返されたように見えた場所も。
全部元通りでした。
先生に聞いてみました。
「昨日、花壇を誰か直しましたか?」
すると先生は不思議そうな顔をしました。
「花壇?」
「ええ……昨日、土が崩れてしまって」
先生は首を傾げました。
「おかしいわね」
「何がですか?」
「この花壇、昨日の夕方に見た時から……」
先生はそこで言葉を止めました。
「土が少し盛り上がっていたから、誰かがいたずらしたのかと思っていたの」
その話を聞いて、私は二度とあの花壇へ近づけませんでした。
後になって聞いた話ですが。
あの幼稚園舎が建つ前。
その場所には、古い墓地があったそうです。
もちろん、正式には移転されている。
そう聞いています。
でも。
植物を植えるために掘り返された土の中に、
何が残っていたのか。
それを知る人は、もう誰もいません。
