【雲間月怪異譚】 第49話
【雲間月怪異譚】第49話 トウモロコシ畑
※注意※
本作『雲間月怪異譚』には、
怪異・都市伝説・因習・和風ホラー表現が含まれます。
薄暗い話や、
“じわりと嫌な感じ”のする話が苦手な方は、
どうか無理をなさらず回れ右でお願いします。
それでも覗いてくださる方は――
どうぞ、雲間の怪異譚へ。
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本日もリスナーさんからの投稿です。
三日月保は、投稿をラジオ風に読む時は、メールをプリントアウトしたものを読む。
アナログな事と思われるだろうが、このやり方が一番情感を意識して読めると思っている。
だが、本日は手紙が手元にある。
読むからに昔の方のようだ。
本日のリスナーさんは、Sさん(仮名)です。
昭和の話です。夏休みが始まると共働きの両親は、田舎の祖父の家に私は預けられました。
本当に田舎で、コンビニもない時代で、道は塗装のされていない畦道。
一面に田んぼが広がり、その中でトウモロコシ畑を敷いている農家も多くありました。
今回は、そのトウモロコシ畑での話を聞いて欲しいと手紙を出しました。
まだ小学生の頃、身長も低い私は、生い茂るトウモロコシ畑は背丈よりも30センチほど上まで伸びていました。
「S爺さん所の孫娘か?トウモロコシむしって行けや」
両手で抱えても4本が限界の太さに育ったトウモロコシ
家に帰り、祖母が煮てくれるのが楽しみでした。
お礼を言って、祖父の家まで走って帰る。
そんな日常が夏休みには良くありました。
だけど、そんな田舎でも事件はあるもので
「町の娘さんが、痴漢にあったとよ」
町から親戚の家に来ていた娘さんが神社近くで襲われたとニュースが広がっていました。
犯人は捕まらず、その後も畑に連れ込まれた。とか追いかけられた女子高生とか続いたのです。
私は、まだ小学生でピンとこず、他人事に聞いていた気がします。
話変わりますが、田舎の祖父の家には、祖父と祖母が住んでいて、お盆(8月の13日から16日まで)には、親戚がみんな集まってお墓参りして、この日に来た両親と自宅に帰るというのが毎年の日程でした。
祖母は、とても信心深くて、辻の道祖神やお地蔵様にも頭を下げる人です。私も一緒に歩いて、団子(上新粉を丸めたもの)をお供えして回りました。
祖父が寄り合いで酔ってしまったと連絡が入りました。
祖母は
「夜道は危ないけん、一人では行くな」
と止めましたが、子供だった私は、
「すぐそこだから」
と聞きませんでした。
提灯を片手に歩き始めると、道の片側は田んぼ、もう片側は背の高いトウモロコシ畑です。
夏の夜なのに、風もなく静かでした。
すると突然、畑の中から男が飛び出してきました。
口を塞がれ、そのままトウモロコシ畑の中へ引きずり込まれます。
必死にもがき、噛みつき、爪を立てても、大人の男の力には敵いません。
「助けて!」
そう叫んだ瞬間でした。
ザワッ……
風もないのに、トウモロコシ畑全体が一斉に揺れたのです。
男が動きを止めました。
私の体から手を離し、何かを見るように畑の奥へ目を向けます。
ガサッ……
ガサガサ……
誰かが歩いてくる音。
けれど姿は見えません。
男は小さく
「なんだ……あれ……」
と呟きました。
次の瞬間。
畑の中から、何本ものトウモロコシが倒れる音が続きました。
バキッ。
バキッ。
バキバキッ。
まるで、人とは思えない大きな何かが、真っ直ぐこちらへ歩いてくるように。
男は悲鳴を上げて畑の奥へ逃げました。
私は夢中で飛び出し、祖父のいる公民館まで走りました。
あの夜、私を助けてくれたものが何だったのかは、今でも分かりません。
翌朝、近所の人たちと畑を見に行くと、一筋だけトウモロコシが根元から折れ、一直線に倒れていました。
足跡はありませんでした。
祖母は、その跡を見て静かに手を合わせ、
「今年も、お団子を供えていて良かったねぇ」
とだけ言いました。
私は何も聞けませんでした。
あの夜、あの畑にいたものが、人だったのか、それとも人ではない何かだったのか。
今でも夏になり、トウモロコシ畑を見ると、あの音だけは思い出します。
バキッ。
バキッ。
まるで、何かが畑の中を歩いてくる音を。
◇◇◇
以上、Sさんの話でした。
トウモロコシ畑で僕もひとつ話があるんですよ。
夏の台風近づく時期に、強い風に揺れるトウモロコシ
数メートル先は、薄暗く視界は遮られるところだった。
風に紛れて、人を呼ぶ声がする。
大人は、子供に呼ばれても返事をするな。声を探るなって
注意されるものだった。
僕は、その時畦道を夕方の時間歩いていた。
家に帰る時間だったのか、誰かを迎えに歩いていたのかは忘れてしまったけれど、山の輪郭がオレンジに染まるそんな時間だった。
「おーい。おーい。」って畑から声がする。
振り返っても畦道には、人はいない。
さーーっと頬を風が通り過ぎ、トウモロコシ畑の大きな葉も擦れて幹揺らす。
「おーい、こっちだ こっちにこい」と畑から声がする。
トウモロコシとトウモロコシの重なりの間から
人の手が手招きをしていた。
誘われるがままに、手招きする手に向かっていく。
もうトウモロコシの重なりの間は、暗く先が見えない。
「こっちだ…こっちに来い……」と
耳に届く声は、風に揺れるようであった。
畦道からトウモロコシ畑の中程で声が途切れた。
「どこ? 誰なの?」声の主を探すが、誰もいない。
手招きした手ももうどこに引っ込んだのかわからない。
周りを見渡すうちに、自分の位置も曖昧となる。
背を高く越えるトウモロコシは、自分の姿を隠し、
右も左もわからなくする。
日はすでに沈み、真っ暗な世界に染まる。
肌を掠める葉の動き。その中で気がついた。
葉と葉の間に微かに見つめる何かを。
僕は、葉を掻き分けて、その先を覗いた。
暗闇に浮かぶ顔がそこにあった。
ふたつの眼にニタリと笑った口から1メートルはあるか
長い舌が揺れていた。
「ここじゃ ここだよ…」
それが喋ったというより、誘う言音がしたと思う。
そこからの記憶はない。
夢中で走って逃げて、逃げて、転んで、畦道に出た時には
真っ黒に泥だらけで転がり出てきたそうだ。
子供が消えたと探しにきた村の若い衆が見つけてくれて、
家に帰り着いた。
だから、今もトウモロコシ畑を見ると背中に変な汗が流れる。
風が吹き、葉が擦れる音を聞くだけで、あの日を思い出す。
あの暗闇の中で、葉の隙間からこちらを見つめていたものを。
夏になるたび、あれはまだ誰かを呼んでいるのではないかと考えてしまう。
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