【第6章】 第146話
【第6章】第146話 歪みの先へ
ダンジョンを進む。
一本道なので、黒狼の後を追っているという事になるのだろうか?
「あの狼をどう判断するの?」真琴がリオに聞いた。
「僕からの答えは保留だね。この先の古代遺跡の何をあの魔物は守護しているのかによるのだろうけど、どうやら僕にも真琴にも自分の目で確認しろって事だと思うよ。」
「保留をそうとらえるんだ?」
「ポジティブに考えればだよ。僕は、精霊達をあんな目に合わせた存在に信頼なんて寄せるつもりはないのだけど、でもこの遺跡の中であの高位種と対峙するのは武が悪いのも事実」
「そうなんだよね。火にしろ、風でも水でもこの空間ではね」
真琴とリオの会話は、他のメンバーにも聞こえている。
聞こえるように話しているからだ。
「クラリス、相変わらず地図タブレットに異変は感じない?」
「ええ。真っ直ぐに進む道しか表示されていないわ。もう、何キロ歩いている感じなのかしら?」
「さっきの隠し部屋を考えると、空間を捻じ曲げてることも考慮しないといけないかも」
「ぐるぐる回っているだけだったりして?」
「それは、それで嫌だわ〜」
「一度止まってみるか」
ヴィクトルが言った。
「疲労感はあるのに、なぜか時間の感覚だけが曖昧な感じがする」
ルードヴィッヒもそう感じていたらしい。
リオが先を見ながら思案した。そして、
「僕の空間転移魔法でこの先の空間を確認してみようか」
真琴は、その提案には素直に応じられなかった。
「いえ、それはあまりに無謀な賭けでしょう。さきの情報は、蜘蛛ちゃんズを待ちます」
「逆にさあ、リオに入り口に行ってきてもらったら?空間転移でここの異常値を把握したいんたろう?ついでに入り口にエマさん達が来ていれば、俺たちの位置を教えられるしさ」
レオンハルトが言った。
「レオンがまともな事を言った。」真琴談
「レオンが」ヴィクトル談「レオンなのに」リオ談
「レオンのイメージって軽いのね?」フィオナの言葉がトドメだった。
「騒ぐなよ?」ルードヴィッヒに止められて、レオンはグググッとなっている。
「本意じゃないけど、ちょっと入り口まで行ってくるね」
リオが、空間転移魔法で飛んだ。
リオの空間転移は、シュパっと魔法移動するのとは訳が違う。
空間と空間の狭間を繋ぎ合わせるような移動だ。
地球におけるエレベーターを横にしたような感じと思ってくれればいい。階と階をつなぐあれだ。だから、途中で曲がるとかは考慮されていない。
「うっ!」リオが途中で止まった。
途中とは、さっきの隠し部屋付近だ。
「やはり、空間が捻じ曲がってるな」
リオは一瞬迷った。
戻って報告するべきだ。
それが正しい判断だと理解している。
しかし、この空間の歪みが偶然ではないなら、原因を確認する必要がある。
先ほどの指示を考慮するならば、ここから歩いて入り口がセオリーだろう。
でも、気になるのはどうしてもこの先だ。
リオは、戻らずにひとり単身で精霊が収集されているという隠し部屋へと向かった。
「確認するだけだ」
蜘蛛ちゃんズが、精霊は、収集されているが命の存在を感じられないとジェスチャーした場所へ
⸻
隠し部屋の奥は、静かだった。
命のざわめきは感じない。静寂とも違う。
青白い光だけが空間を淡く照らし、壁一面に刻まれた古代文字を浮かび上がらせている。
中心には、巨大な魔法装置が据えられていた。
幾重にも重なった魔法陣。
それらを繋ぐように張り巡らされた透明な魔力の管。
そして、その中心では淡い光の粒が、ゆっくりと循環を繰り返している。
リオは慎重に一歩ずつ歩み寄った。
魔法陣を踏まないよう足元を確認しながら、その構造を観察する。
「魔力を集める術式じゃない……」
しゃがみ込み、指先を床へ近付ける。
微かな振動。
規則正しく脈打つような波。
「違う。これは……」
収集した精霊を拘束する術式でもない。
ましてや消滅させるための魔法でもなかった。
魔力の流れは一方向ではない。
何度も循環し、浄化するように、ある一点へと集まり、再び全体へ送り返されている。
「……そういう事だったのか。」
思わず声が漏れた。
蜘蛛ちゃんズが伝えた『命は感じられない』という意味。
それは命を奪われたという意味ではなかった。
命という概念そのものが、この装置の中では別の状態へ移されている。
リオは顔を上げ、部屋全体を見渡した。
黒狼の爪痕が床に残っている。
壁際には、巨大な体が横になったような窪みも見えた。
ここへ何度も出入りしている証拠だ。
「守っている……?」
そう呟いた自分の言葉に、リオは小さく首を振る。
まだ断定はできない。
だが少なくとも、蜘蛛ちゃんズが見た光景だけで、この遺跡の全てを判断するのは危険だ。
リオは深く息を吸い、胸元の通信機へ手を伸ばいた。
「真琴……」
通信が繋がる。
「やはり、空間は捻じ曲げられている。そこで待ってて。僕は今、あの隠し部屋付近にいるから。ここから入り口まで歩いて行くね。」
『分かった。でも無茶だけはしないで。』
真琴の返事に、リオは思わず苦笑する。
「僕だって無茶は嫌いだよ。」
通信を切ると、もう一度だけ装置へ視線を向けた。
青白い光は、何事もなかったかのように静かに脈動を続けている。
その奥で、誰かの視線を感じた気がして、リオはゆっくりと振り返った。
しかし、そこには誰もいない。
静寂だけが、変わらず遺跡を包み込んでいた。
ーーーーーーーーーー
ここまで読んでいただきありがとうございます。
少しでも続きが気になったら、スキやフォローで応援してもらえると嬉しいです!
←前の話
→次の話
→【第6章】まとめページ
→【第5章】まとめページ
→【第4章】まとめページ
→【第3章】まとめページ
→【第2章】まとめページ
→【第1章】まとめページ
