【第6章】 第128話
【第6章】第128話 点と線
王宮で爆発事故があった頃、グレアムは王様に呼ばれていた。
王宮での爆発事故とあり、調査、報告、犯人探しと各部署がてんてこ舞いに動いていた。
「どう思う?」
王様は、すでに報告書を読んでいたジェイクとグレアムに尋ねた。
「爆発が、ですか?」
「爆発を、だ」
ジェイクは「?」を浮かべる。
「誰を狙ったものかで変わりますよね」
「まあな。普通ならばアレクシスと思うだろう」
「え? 違うのですか? クラリス嬢ですか?」
「私の娘を今更狙ってどうする?」
グレアムがジェイクに言った。
婚約者としてなら政治派閥もあったかもしれない。
しかし、今はらしくない時期だ。
「だから、誰を狙ったかではなく、なぜ爆破だったかを考えるのですね」
「なるほど。狙いではなく、手段の方を見るのですね」
「あそこには、アレクシス以外にも人がいた」
「高瀬真琴ですか」
ジェイクは笑う。
「高瀬真琴は、クラリス嬢のお友達で平民ですよ」
だが、王様は真剣な顔だし、グレアムも思案顔だった。
「平民だからと見誤るな。あれは、狙われるだけの火種を抱えている。」
「だとしたら、爆発を起こした派閥は、更なる火種をどこで起こすと思う?」
王様は謎解きのようにグレアムへ言葉を投げた。
「改めて、情報収集に努めます」
頭を下げ、グレアムは王様の前を辞した。
「情報収集に努めますか……ジェイク」
「はい。何でしょう?」
「緑水の調べを呼べ」
「火薬は痕跡を消す。
ならば残るのは、人の流れだけだ。」
「わかってるな?」
「承知しております。街の違和感は、彼らの得意分野です」
ジェイクもまた、頭を下げ、王様の前を辞した。
「グレアム、お前も歳をとったな。合理性が足りないぞ」
敵が隠したいものを探すのではない。
敵が次に動く場所を先に押さえる。それが合理というものだ。
一度失敗した者は、二度目は急ぐ。
王宮図書館でクラリスから渡された魔石ペンを、王様はくるりと回した。
「便利なんです」と言っていた彼女の言葉を思い出す。
その瞳には、高瀬真琴という友への確かな信頼が宿っていた。
王の瞳は、まだ誰も見ていない次の一手を見据えていた。
「急ぐ者ほど、尻尾を出す。」
王様は静かに口を開いた。
「緑水の調べへ追加指示だ。王都内で流通している“魔石”の動きを洗え」
「それと、通常の商隊とは別に、“短期で出入りする搬送経路”を重点的に追え」
「さらに、王都外周のダンジョン周辺で発生している魔石採取の動きも確認しろ」
その一言で、空気が変わった。
王はすでに“事件の流れ”ではなく、“供給と流通の線”を見ていた。
⸻
王都の冒険者ギルドにジェイクが直接訪れていた。
「ギルド長はいるか?」
受付嬢に聞くと、すぐに来ますからと応接室へ通された。
「読んでくだされば、すぐに参りましたのに」
応接室へきたのは、ギルド長のエンヤだ。
かつては、緑水の調べの初代メンバーで引退してからは、この王都のギルド長をしている。
「王様から緑水の調べに直接依頼でな」
「まあ、王様ったら私たちの事忘れたかと思ってましたのに」
「意地悪を言うな。街の治安にも目を光らせてくれている冒険者ギルドには感謝しておるぞ」
「まあね。騎士案件にすると裁判沙汰だからね〜ゴロツキ程度は、冒険者ギルドで収めているさね」
「あまり、意地悪を言うなよ。それはさておき、王様依頼だよ。最近、不安定な魔石が流通しているな?」
「それね。そうなのよ。時間差で爆発するから被害がねえ。ダンジョンの方は今見張りを立てて、子供とかも近づかないようにさせてるわ」
当初は、ダンジョンの入り口で魔石を拾えるというので子供の小遣い稼ぎが横行したらしい。
「時間差で爆発する魔石、か」
ジェイクは小さく息を吐いた。
「王様の言っていた“火種”と一致しますね」
エンヤは肩をすくめた。
「一致するも何も、最近は王都のあちこちで同じ話よ」
「拾った直後に爆発しないのが厄介でね。街の中でも被害が出てるの」
ジェイクの表情がわずかに変わる。
エンヤの言葉を聞いた瞬間、ジェイクは理解した。
「……つまり、王宮で起きた爆発と、街で起きている魔石の事故は……同じ流れの上にある」
エンヤは静かに頷く。
「そう考えるのが自然ね。少なくとも、偶然とは思えないわ」
ジェイクは小さく息を吐いた。
その瞬間、遠くで王都の鐘が鳴った。
報告が走り、緑水の調べが動き出す合図だった。
王が言っていた“次の現場”は、すでに現実の動きとして始まっていた。
そしてそれは、王宮の外側ではなく――王都そのものへと広がり始めていた。
⸻
王都の鐘は、緊急を知らせるもの。
それは国民の避難を促す警報音だ。
冒険者ギルドに伝えられた速報は、魔石の爆発による火事。
輸出入を扱う貿易商の店での爆発だった。
その報を聞いた瞬間、ジェイクの背に冷たいものが走った。
「……王宮、街、そして商流」
点が、線になった。
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