【第2章】 第14話

【第2章】第14話 冒険の旅立ち前


ヴィクトル達の住まい――居城というのか。

クラリスに言わせると、領地を持たない王都住まいの貴族としては小規模な館らしい。
都内郊外の1LDKに住んでいた人間からすれば、十分すぎるほど立派な“城”だ。

そんな館の一室に、一同が集められていた。

真琴、クラリス、リオ、フィオナ、レオンハルト、そしてヴィクトル。
六人が揃っている。



まずヴィクトルが、フィオナ達に新入りを紹介した。

「高瀬真琴の弟、リオ・オコーネルだ」

フィオナが首を傾げる。

「顔が似ていないのはともかく……お名前も随分と違いますのね?」

真琴は、あっさりと言った。

「異父母兄妹ってやつ」

一拍。

レオンハルトが素直に返す。

「……それって、ほぼ他人じゃね?」

フィオナがレオンハルトの脇を軽く小突いた。

「もう少し言い方がありますでしょう?」

「悪い、言われたくなかったか?」

「別に」

真琴は肩をすくめる。

「まあ、私にも数日前に出来た弟だしね」

リオが続ける。

「血の繋がりって、そんなに大事?」

「あらまぁ」

フィオナのいつもの口癖で、その場は一度緩んだ。



軽く咳払いをして、ヴィクトルが本題に入る。

「皇后から書簡が届いた。クラリスが受けていた依頼――水晶竜の更なる調査を求められている」

クラリス、真琴、リオは既に聞いていた話だ。静かに頷く。

だが、フィオナとレオンハルトは首を傾げていた。

レオンハルトが口を開く。

「依頼の話は分かった。でも、それと俺たちに何の関係がある?」

「うむ」

ヴィクトルは短く頷いた。

「調査先がな――リオの話によれば、この国の西南地方にある砂漠の古代遺跡だ」



「……西南地方の砂漠にある古代遺跡、か」

レオンハルトの声に、わずかな緊張が滲む。

その変化を見逃さず、リオが静かに続けた。

「その遺跡はね――ただの遺跡じゃない」

一呼吸置く。

「“水晶竜の痕跡”が確認されている場所なんだ」



空気が変わった。

フィオナが目を細める。

「……水晶竜。伝承上の存在ではなかったのね」

「伝承で済めばよかったんだけどね」

リオは肩をすくめ、ヴィクトルへ視線を送る。

ヴィクトルは一拍置き、口を開いた。

「その遺跡には――私たちの両親が向かったきり、帰ってきていない」



静寂が落ちる。

クラリスは俯いたまま、拳を強く握りしめていた。

やがて、何も言わず立ち上がると、ガラスケースから水晶竜の鱗を取り出す。

それを、皆の前に差し出した――その瞬間。



「っ……!」

レオンハルトが息を詰まらせた。

次の瞬間、手首を押さえ、顔を歪める。

「熱い……っ、なんだこれ……!」



リオが即座に動いた。

「レオンハルト、腕を見せて!」

有無を言わせぬ声だった。

周囲が固まる中、リオはその腕を掴み、痣を覗き込む。

わずかな沈黙。



「……痣、か」

その声は、いつもの軽さを失っていた。



レオンハルトが歯を食いしばる。

「なんだよ……これがどうかしたのか。生まれつきだぞ」

リオは少しだけ言葉を選ぶように間を置く。

「……伝承の話になるけどね」

フィオナの視線が、静かにリオへ向けられる。

「かつて、竜と意思を通わせる一族がいたらしい」

「彼らは竜と契約し――“竜騎士”と呼ばれた」



クラリスが濡れたタオルを差し出す。

「これ、冷やして」

「ああ……助かる」

手首に当てると、レオンハルトの呼吸が徐々に落ち着いていく。



リオはゆっくりと立ち上がる。

その目には、抑えきれない興味が滲んでいた。

「もしこれが、その系譜のものだとしたら……」

小さく息を吐く。

「面白いことになるね」



「面白いって……おい」

「偶然じゃないよ」

リオは軽く笑った。

「君がその遺跡に行く理由としては、十分すぎる」



フィオナが口を開く。

「……つまり、その遺跡には“竜に関わる何か”がある可能性が高い」

リオは否定しない。

ただ、曖昧に肩をすくめるだけだった。



しばしの沈黙が落ちた。

誰も軽々しく言葉を発しようとはしない。

だが――

その場にいる全員が、同じものを見ていた。



ヴィクトルが静かに口を開く。

「……異論はないな」

問いではなく、確認だった。



クラリスが顔を上げる。

その瞳に迷いはない。

「行くわ。……必ず、確かめる」



レオンハルトは手首を押さえたまま息を吐く。

「ここまで来て無関係ってのは無理だな」



フィオナは小さく肩をすくめる。

「危険な匂いしかしませんけれど……放ってはおけませんわね」

一瞬だけ、リオへ視線を向ける。

「――特に、“何かを知っていそうな人”がいるならなおさら」



リオは笑ってみせる。

「買いかぶりすぎだよ」

だが、その目は笑っていなかった。



真琴は、ゆっくりと皆を見渡す。

(……また、始まるんだな)

抗うことはできない。

けれど――

目を逸らすつもりもなかった。



ヴィクトルが告げる。

「各自用意もあるだろう。出発は、3日後だ」
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