【幕間】 第一王子の恩寵

【幕間】第一王子の恩寵


王城の一室——図書館。

クラリスに付き添う形で、真琴もそこにいた。



「——というわけで、女神生誕祭の準備は全て整っております」

報告は簡潔だった。

無駄はなく、滞りもない。

完璧に——整っている。



「早いね」

第一王子アレクシスは、素直に感心したように頷いた。

最近のお気に入りの場所。
『王子席』と呼ばれる席が、いつの間にか用意されている。

「助かるよ」

「いえ、殿下のお言葉ですので」

「……僕、何か言ったかな?」



「言いましたよ」

横から、淡々とした声。

ヴィクトルである。

「“うまくいくといいな”と」



「それ、指示になるの?」

思わず、真琴が口を挟む。

「なります」

一拍。

「この場合は」

「……へぇ」

アレクシスは、どこか楽しそうに笑った。



「……いや、ちょっと待って?」

真琴が眉をひそめる。

「それで、全部ここまで進むの?」

「進みます」

ヴィクトルは即答した。

「殿下の発言は、影響力を持ちますので」

「影響力ってそういう意味だっけ?」



クラリスが、横で小さくぶつぶつと呟く。

「……ここ、執務室じゃないのに」

ヴィクトルは聞いているのかいないのか、そのまま続けた。

「結果として最適化される、というだけの話です」



「クラリス、女神生誕祭って何?」

真琴は気を取り直して聞いた。

オルフェウス以外に神がいるなんて聞いていない。
——後で確認してみるか、くらいの温度感ではあるが。

「神殿が唯一信仰している女神の誕生日なのです」

クラリスは淡々と説明する。

「詳しくは、フィオナ様が説明してくださいますよ」



「いや、怪獣聖女の講義まではいいや」

真琴は、いらぬ汗を拭いながら答えた。



「当日の来賓席とか、あっお母様の席は僕からは遠くね」

(お母様って皇后だろうが。実の息子だろう?)と真琴は
脳内ツッコミに忙しい。

「では、第一王女様をここにして…」
侍従は、違和感なく話を進めている。

「……なにそれ」

ぽつりと、真琴が呟く。

「願うだけで全部整うとか……王子様スキル強すぎない?」



「じゃあ、あとは任せてもいいかな」

アレクシスが、軽く言う。



「お任せください」

周囲の声が、綺麗に揃う。



さらさらと、紙の音が重なる。

誰も迷わない。
誰も確認しない。
それでも——話は、綺麗に進んでいく。



「いやだから何もしてないって」

アレクシスは、少し困ったように笑った。

その声音には、曇りがない。



「……これ」

真琴が、小さく呟く。

「楽でいいけど——ちょっと怖いね」



誰も、否定しなかった。



「……だから、嫌いなんです」

クラリスの声は、小さかった。



アレクシスは、気づかない。

ただ、穏やかに微笑んでいる。



静かだった。

整いすぎているほどに。



——それは、“願い”というには、あまりにも正確すぎた。

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【幕間】セルディンの受難の話と対になる話になっています。
『だって、王子様だからさ〜』を地で行く天然BOYです。
これから出演機会が増えるかは微妙ですが、よろしくお願いします。

【外伝】幻の蜂蜜を求めて

【第2章】まとめページ
【第1章】まとめページ

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