【第6章】 第144話

【第6章】第144話 精霊が消える先


アレクシス王子、真琴たちメンバーには、斥候はいない。
砂漠の先の古代遺跡を探索した時も、地図タブレットなどを利用して攻略してきた。

今回は最初からダンジョンの調査・探索が目的だと思っていたため、その対策として蜘蛛ちゃんズの同行と地図タブレットの更新を余儀なくされたのである。

「蜘蛛が役に立つのか?」と思われるかもしれない。

だが、真琴達パーティーからすれば「今さら何を」という話だ。

今回はアレクシス王子達が同行していたため、当初は真琴の不衛生疑惑まで疑われたからね。

「蜘蛛ちゃんズは、とっても優秀ですよ?」

王子陣営への説明は、蜘蛛ちゃんズと一番意思疎通のできるクラリスに任せていた。

「では、蜘蛛ちゃんズ、斥候よろしく!」

ピッと敬礼すると、蜘蛛ちゃんズは元気よくダンジョンへ突入していった。

ダンジョン入口には、先述した通り、不安定な魔石の山と破棄された実験体の成れの果てが腐臭を放っている。

「真琴さん。この子達がアンデッド化する前に埋葬する時間はないのは分かっています。でも、お祈りだけでもさせてください。」

フィオナの願いで、一同は短く黙祷を捧げた。

本来なら全員で手を合わせたいところだが、ここはすでに敵地である。

警戒のため、先行する者と最後尾を守る者に分かれる。

事が済んだら、帰る前にきちんと黙祷と埋葬の時間を取ろう。

クラリスがリオと共に先頭を歩く。

精霊が見えるようになった探検ゴーグルを装着し、地図タブレットで罠や敵を確認しながら慎重に進む。

真琴は蜘蛛ちゃんズの斥候報告を意識しながら、その後ろを歩いた。

アレクシス王子のすぐ後ろにはアベルとエドルク。

フィオナはレオンハルトと並んでいる。

「ごめんなさい。貴方も最初に進みたかったでしょう?」

フィオナは、黙祷で時間を取ったことをレオンハルトへ謝った。

「今回は剣士も人数がいる。気にするな。」

神官や聖女が、不遇なる者へ祈りを捧げるのは当然のことだろう。

レオンハルトはそう答えた。

「戻ったら、ちゃんと埋めてやろうな。」

二人は、いつもそう励まし合ってきた。

ヴィクトルも突入後には、ペストマスクことヴィクトルマスクを装着している。

「精霊の動きがあったら教えて。」

そう伝えてあるが、ルードヴィッヒもマスカレードマスク風に顔を隠しているため、真琴の隣にはマスク姿の男が二人並ぶという、なかなかシュールな光景になっていた。

「ダンジョンというよりは、遺跡だな。」

アレクシスが呟く。

壁は山肌の洞穴とは思えないほど煉瓦造りで、人工的に整えられていた。

しかも入口から一本道である。

静けさだけが、一行の緊張を高めていく。

その時、蜘蛛ちゃんズの一匹が戻ってきた。

前脚で、この先に分岐と扉があることを懸命に伝えている。

「地図タブレットには表示されないね。やっぱり隠蔽魔法も使われているのかな。」

まだ罠にも敵にも遭遇していない。

一本道の廊下には、一定間隔で蝋燭が灯され、不気味な静けさだけが漂っていた。

「相手も私達を捕獲対象としているのでしょうね。」

人間も狙ってきたのだ。

自ら入ってきてくれる真琴達は、美味しい獲物なのだろう。

「地図タブレットにも表示されていない……。」

蜘蛛ちゃんズが示した壁の前で、真琴は腕を組んだ。

「隠蔽魔法かな。」

クラリスは探検ゴーグルを壁へ向ける。

「あります。この先にも空間があります。」

「やっぱり。」

リオが魔力を壁へ向けると、煉瓦造りの壁は水面のように揺らぎ、隠されていた通路がゆっくりと姿を現した。

「隠蔽魔法……。」

クラリスは通路の奥を見つめたまま、表情を曇らせる。

「それだけじゃありません。」

「どうした?」

「精霊達が……。」

リオも目を閉じ、意識を集中させた。

「この奥へ集められている。」

遅れてヴィクトルもヴィクトルマスク越しに頷く。

「間違いない。精霊を収束させる術式が組まれている。」

ヴィクトルは、風の流れからその気配を読み取っていた。

真琴は三人の話を聞きながら考え込む。

「精霊を集める魔法……。」

魔法ログの知識をたどっても、その用途は限られている。

「大規模な魔法の触媒か……それとも実験施設への魔力供給か。」

誰にも答えは分からない。

だが、この遺跡の奥で何かが今も動き続けていることだけは確かだった。

「どうする? この隠された部屋へ向かうか、それとも正面の通路を進むか。」

今、一行は二つの選択を迫られる。

集められた先が牢のような場所なら、まだ助けられる可能性はある。

だが、もし違うのだとしたら──。

「蜘蛛ちゃん。この先に生きた反応はある?」

蜘蛛ちゃんは静かに首を横へ振った。

真琴は小さく頷く。

「……なら、原因を止めよう。」

精霊達が消えていく、その先へ。

一行は誰一人言葉を発することなく、静かに足を踏み入れた。

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