【第6章】 第143話

【第6章】第143話 覚悟の入口


「アレクシス王子、真琴さん、話いい?」

緑水の調べパーティーで陣を取っていたエマさんとエンヤが、真琴さん達の方へやって来た。

「エマさん、エンヤさん、どうぞ。食事は口に合いましたか?」

真琴が薪のそばの場所を空ける。

「野営でこんな豪勢な食事は初めてよ。マジックボックス持ちって、うちのパーティーにも欲しいわ」

「斥候だったか、ナオトとやらは大丈夫そうか?」

「うん。お姉さんのマナミがついているから大丈夫よ。今やっと眠りについたところなんだけどね」

二人は、先のスタンピードで両親や親戚を失い、それから互いに支え合って生きてきたという。

「年齢を考えれば、もっと小生意気な年頃なのに、素直に擦れずに育ったと思うよ」

「頼れる冒険者ギルド長がいましたからね」

「え? 私は?」

エマが首を傾げる。

「十五年間、リーダー任せっきりだった人が聞きますか?」

エンヤが容赦ないツッコミを入れた。

「ところで、話とは何だ?」

アレクシス王子が本題を促す。

「そうね。私たち緑水の調べは、後続調査隊である魔法庁の隊列を待ってから進もうと思うの」

「理由は?」

アレクシス王子が尋ねる。

「グレアムよ。夫が心配というのももちろんあるけれど、魔法庁はマシューが長官として引っ張ってきた組織だから、グレアムは言ってしまえば客将みたいな立場なの。隊列を率いるには荷が重いでしょうし、しかも攫われたのが親友だからね」

「ならば、ヴィクトルが隊列を率いるという案もあるのでは?」

「まあ、それもありえるんだろうけど、ヴィクトルは個人主義だから」

そう言ってエマは真琴を見た。

「隊列を引っ張るというタイプではないですね。良くも悪くも研究者タイプですから」

真琴の返答に、エマは「よく分かってるわ」と頷いた。

「分かりました。私たちとアレクシス王子のパーティーは先にダンジョンへ向かいます。エマさん達は魔法庁の隊列を待って、必要なら昼間でも野営を考慮しながら進んでください」

アレクシス王子も頷く。

「ありがとう。そうさせてもらうわ」

緑水の調べも、もう少し休ませたいというのが本音なのだろう。

真琴も『ご安全に』という言葉を飲み込み、静かに頷いた。



アレクシス王子組と真琴組、それぞれの馬車がダンジョンへ向かう。

緑水の調べは、後続の魔法庁調査隊列を待つ。

「母さん、父さんにはさっき伝書鳩で連絡しておいたから」

ヴィクトルとクラリスは、エマへそう別れを告げた。

「すぐに追いつくから、あなた達もしっかりね。マシュー達の行方が分かったら、随時連絡してちょうだい」

エマの激励に後押しされ、一行は出立した。



「だから、どうしてこの馬車はこのメンバーに戻るのだ?」

アレクシス王子の馬車は先頭を走る。

大型馬車で、馬の質も馬車の頑丈さも一級品だからだ。

「それは我々も同感だ。最初から言っているだろう? 馬車に乗っている間に確認したいことや、調査結果の共有、それに仮説の話を真琴やリオ、クラリス達ともしたいと!」

ヴィクトルの物言いに、ルードヴィッヒも頷く。

「ああ言えばこう言う。ならば、お前達の言う調査結果や共有する情報、仮説の話とやらをここでしても良いだろう?」

「「アレクシス王子に?」」

二人が同時に呟いた。

「お前達は、どれだけ私を無能扱いするんだ?」

「クラリスに婚約破棄されたし?」

ヴィクトルが言えば、

「レオンハルトに婚約者候補を攫われたし?」

ルードヴィッヒも負けていない。

「そ・れ・は結果論だ! 俺は諦めてない!」

「「普通は諦めると思う」」

二人は声を揃えた。

アベルとエドルクは顔を伏せたまま、肩を震わせていた。



馬車は急いだ。

決して悠長に進んでいたわけではない。

だが、ダンジョンの目前で馬車が止まった時、全員が息を呑んだ。

入口の両脇には、積み上げられた大量の魔石。

さらに、森からさらわれ、実験に失敗して吐き出されたのだろう魔物や動物たちの死骸が無数に転がっていた。

漂う腐臭だけで、そのダンジョンの異常さが伝わってくる。

「酷い……」

その一言しか出なかった。

「ごめん、真琴。僕……今回は、とても冷静ではいられないかも」

リオが感情を露わにする。

いつも飄々としている彼だからこそ、その怒りと悲しみが、この光景の異常さを何より物語っていた。

「魔物だって、生きている命なんだ。」

リオは積み上げられた魔石へ視線を向ける。

「倒されることもある。食べられることもある。それは自然の摂理だよ。でも……これは違う。」

拳を強く握り締めた。

「利用するだけ利用して、壊れたら捨てる。命を道具としてしか見ていない。」

誰も言葉を返せなかった。

その腐臭こそが、このダンジョンで行われていた非道さを物語っている。

「怒っていいよ。」

真琴が静かに口を開いた。

「でも、その怒りを利用されたら負けだからね。」

リオはゆっくりと真琴を見る。

「僕は怒っている。でも、真琴の言いたいことも分かる。」

一度大きく息を吐く。

「ありがとう。少しだけ落ち着いた。」

その姿を見届けたアレクシス王子が前へ出た。

「全員、聞いてくれ。」

その一言で場の空気が引き締まる。

「ここから先は未知のダンジョンだ。何が起こるか分からない。」

全員が王子へ視線を向けた。

「決して単独行動はするな。異変を感じたらすぐに知らせること。目的は敵を倒すことではない。まずは、マシュー長官達を救出し、必ず全員で帰還することだ。」

調査や探索は、後回しだと念を押した。

「「了解!」」

仲間たちの声が重なる。

真琴はダンジョンの闇へ視線を向けた。

入口の先は静まり返っている。

だが、その静寂こそが異様だった。

まるで、この場所そのものが侵入者を待ち受けているかのように──。

真琴たちは覚悟を決め、一歩ずつダンジョンの入口へと歩み始めた。

ーーーーーーーーーー
ここまで読んでいただきありがとうございます。
少しでも続きが気になったら、スキやフォローで応援してもらえると嬉しいです!

前の話
次の話
【第6章】まとめページ
【第5章】まとめページ
【第4章】まとめページ
【第3章】まとめページ
→【第2章】まとめページ
【第1章】まとめページ


いいなと思ったら応援しよう!