【第6章】 第142話
【第6章】第142話 嵐の前の焚き火
ヴィクトルがグレアムへ飛ばした伝書鳩は、皆の緊張を走らせる返事を運んできた。
「狼の群れが魔法庁の隊列を襲い、マシュー長官とカイルという魔法師が攫われた」
ヴィクトルが伝書鳩の手紙を読みあげたのだ。
「やはり、人間を拉致にシフトしましたね」
ルードヴィッヒが冷静に分析した。
「蜘蛛ちゃんズ、もしさっきみたいな動きを感じたら教えて」
おそらく、敵も同じ轍は踏まないと思いつつ、警戒は必須だ。
アレクシス王子は、改めて御者に願った。
「馬の替えもないが、一刻も早く頼む。」と。
「リオ、地図タブレットには、仲間以外が近づけば印が出るようには出来ない?」クラリスがリオに問いかけた。
「このスピードで動いているならば、罠すらも難しいんだ。
到着したら、仲間の情報更新はするから、それで我慢して」
あまりに人数が増えれば、地図タブレットも確認作業すら難しくなる。そこはあまり無理が言えないところだ。
「私的には、一度野営を挟んだ方が良いと思います。
ダンジョンには、冷静に準備万端が必須かと」
疲れも取りたいでしょうとフィオナが提案した。
「そうだな。馬も休ませる必要がある。それに、我々が一晩野営すれば、魔法庁の隊列とも合流しやすくなる。」
アレクシス王子は、その提案に納得して、それぞれの御者に連絡した。
⸻
ダンジョンから数キロ離れた場所に野営地を設営した。
「敵に気づかれないか?」
この近距離に設置で大丈夫か?とアレクシス王子が心配の声を寄せた。
「僕がいるのに?」とリオが首を傾げる。
「空間把握でこの場所にいながらこの場所じゃないんですよ」
「でも、ちゃんと周りの注意はしてますから、魔法庁隊列が通り過ぎちゃうって心配も無用です」
空間把握の魔法や斥候の人員は、心強いのだなと感心された。
「だから、野営飯は、期待してくださいよ」
「冷静というよりは、余裕過ぎだろうお前達は!」
「100%の攻略には、120%の余裕が必要なんですよ。真琴達と付き合ってるとそう思えます」とクラリスが言った。
「Bプランは、常に考える。それが勝利の法則です」
真琴が料理の手を動かしながら言った。
「ジャガイモがあったらシチューかポテトサラダか。その場の材料で判断するのが大事って思うわ」
「大事!両方出来るよね?」
リオの提案にフィオナとレオンハルトも頷いている。
「それをサバイバル術って言うんですよ」と真琴がアレクシス王子に諭していた。
⸻
リオが真琴を呼んだ。
オルフェウスとの話を伝えるためだ。
「精霊の姿を見えるようにしたいと言う依頼だったけど、今回は物質に付加する形でって言われて魔法陣を貰ったよ」
「物質に?例えばどんな?」
「見るって形だから、レンズ系が良いと思うんだけど何かあるかな?」
「そうね…でも、私に直接付与は、出来ないの?」
「おそらくさ、真琴は魔法ログを見るのに今回の付加は相性が悪いんだと思うよ。ステータスとかに影響とか?」
リオは、憶測だがそう説明した。
「そうね。確かにそうかも。そう言えば、クラリスがゴーグル持ってたかしら?」
そう言って、真琴は、クラリスのところへ走って行った。
すぐに戻ってくるとその手には探検ゴーグルともう一つ、
ペストマスクも持っていた。
「被るつもり?」
「ヴィクトルがね」
「へーへー」気の抜けた返事をしながら、リオが掌から魔法陣を浮かび上がらせる。それぞれの物質を潜らせた。
「試してみて」真琴は、ペストマスクを被った。
(いや、普通探検ゴーグルでしよ?)リオは思ったが、ツッコまなかった。
精霊使いのマナミさんに協力してもらって精霊を見たが、問題なく姿は見えた。しかし、マナミさんがゴーグルを被ると
「……あれ? 色が少し違って見える。」
と精霊の見え方が違うらしい。
他の者にはその違いが分からず、ひとまず様子を見ることにした。
真琴のペストマスク姿にヴィクトルが
「意外と似合ってるぞ」と言われて赤くなっていた。
「そこ、赤くなる所?」とクラリスとフィオナは不思議がっていた。
ヴィクトルがペストマスクを手に取る。
「これ、俺専用で構わんな?」
「はい。毒霧や胞子系の罠も考えられますし、精霊も見えます。一石二鳥です」
「見た目はともかく、実用性は十分ですね」
ルードヴィッヒが頷く。
クラリスは地図タブレットを広げた。
「現時点で確認できる仲間は全員表示されています。ダンジョン内部は未知ですが、入口付近までは問題ありません」
リオも続ける。
「それと、もし通信が切れたら慌てないで。ダンジョン内部は魔力干渉が強い可能性があるから」
「つまり、中では各自の判断が重要になるということか」
アレクシス王子が腕を組む。
「はい。だからこそ、今夜の休息は無駄じゃありません」
その日、野営地には静かな夜が訪れた。
焚き火の音だけが、ぱちぱちと響く。
誰もが明日の戦いを思いながら、それぞれの時間を過ごしていた。
その夜。
ダンジョンの奥深くでは、一匹の黒い狼がゆっくりと目を開く。
まるで、彼らの到着を待っていたかのように――。
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