【第6章】 第141話
【第6章】第141話 消えた三つの反応
アレクシス王子達隊列が緑水の調べと合流し、再び行路をダンジョンへ向かい始めた頃。
マシューとグレアムの魔法庁調査隊の方も慌ただしくなっていた。
「猿の次は、狼か…」
こちらの人数も把握しているのか、統率の取れた狼の群れがマシュー達の隊列をじわじわと包囲していく。
「この動きは、どこかで動かしている親玉がいるな」
グレアムが呟いた。
魔法使いを意識した距離感。焦りは相手に隙を突かれる。
「うわっ!」後方の補給馬車付近から悲鳴が上がった。
「まずいな。向こうさん、こちらの弱点読んで来てるぞ」
マシューが自身の隊列の全てを把握している。だからこそ、その弱さも熟知していた。
開けた草原などでは、大きな猛獣よりも数を揃える中型魔物の方が脅威だ。
統率の取れた隊列は、攻撃が分散され、弱いところを突いてくる。命令系統が冷静なほど、勝率は上がるだろう。
「マシュー、相手は一発脅威な魔法を放つと思うか?」
「狼だからな。それはないと思うぞ」
「やはりな。ではこちらは馬車を馬を中心にしてまとめて、円形で守りを固めよう。攻撃は、お前に任せる」
「わかった。攻撃派魔法使い、私に続け。補助and治療系魔法使いは、グレアムの指示に従え!」
マシューが隊列に指令を送って、動き出した。
「狼は、知能が高い。こちらも攻撃魔法に過信せず、2人1組で攻撃だ。威力の是非をもって、補助使用も考慮する。行くぞ!」
まずは、動きやすい2人1組での攻撃である。
中心に集まった馬車を守るように円陣を組む。これは、狼のような中型で狼という生体だからだ。
これが、魔物だったり、大型生物ならば、中心を襲われればやばいであろう。
だが、今は狼であり、馬車の要である馬を狙われてはこの先に進めなくなる。
円陣になった所で、空間把握魔法でグレアムが敵の位置と数を調べた。
「狼の数は、85匹。多いな。一匹だけ東南離れた位置にいる。これがボスらしい」
「では、ボスには俺が行くべきだな。カイルついてこい」
マシューは、ひとり魔法使いを呼んだ。
「これから俺とお前は、ボスの方に向かう。」
ほかのメンバーには、グレアムの指示に従うようにと言い置き、走って行った。
「意外と武闘派なんだよなぁアイツ」
グレアムは深く息を吸った。
「前衛、飛び出すな! 相手は包囲を維持したまま隙を待っている!」
狼達は唸り声を上げながら円陣の外を走り続ける。
一匹が飛び込めば、別方向から二匹。
二匹を追えば、さらに反対側から三匹。
まるで誰かが盤上の駒を動かしているような連携だった。
「右!」
叫びと同時に、一頭の狼が荷馬車へ飛び掛かる。
「《風刃》!」
魔法が狼を吹き飛ばした。
しかし、それは囮だった。
「左から来る!」
今度は三頭。
「《土壁》!」
補助魔法使いが即座に土壁を展開する。
ドンッ!
狼達は壁へ激突すると、すぐさま後方へ飛び退いた。
「……様子見か。」
グレアムは眉をひそめる。
攻めているように見せて、実際は魔法の発動速度、詠唱時間、誰が補助役かまで観察している。
「嫌な相手だ。」
その時だった。
遠くから甲高い遠吠えが響く。
「ウォオオォーーーン!」
すると八十匹を超える狼達が一斉に動いた。
「来るぞ!」
今度は四方同時。
前後左右から波のように飛び込んでくる。
「前衛、迎撃!」
炎、水、風。
無数の魔法が草原を駆け抜ける。
だが狼達は魔法を恐れない。
一頭が囮となり、もう一頭が横を抜ける。
倒れた仲間すら盾にして前へ進む。
「馬を守れ!」
補給隊も必死に槍を構えた。
ギャンッ!
一頭が槍に貫かれる。
しかし、その隙に別の狼が馬へ飛び掛かった。
「危ない!」
治療魔法使いの女性が悲鳴を上げる。
その瞬間。
「《重圧》!」
グレアムの重力魔法が発動した。
飛び掛かった狼達が地面へ叩き付けられる。
「今だ!」
二人一組の魔法使い達が一斉に魔法を叩き込む。
轟音と共に土煙が舞い上がった。
「……倒したか?」
誰かが呟く。
しかし空間把握魔法を維持していたグレアムだけは首を横に振った。
「違う。」
煙の向こう。
狼達はすでに後退していた。
「攻撃じゃない……。」
グレアムの顔色が変わる。
「時間稼ぎだ!」
その言葉と同時に、空間把握魔法へ新たな反応が映る。
「しまった!」
狼の群れのさらに外側。
草原の向こうから、黒い影がゆっくりと近付いてくる。
それは狼ではない。
人影だった。
フードを深く被った何者かが、静かにこちらを見つめている。
その人物の足元では、一頭の黒い狼だけが静かに座り、まるで主の命令を待つように赤い瞳を細めていた。
グレアムの表情が曇った。
「マシュー達はどうした?」
ボスと思しき狼のところへ走って行ったはずだ。
フードマントの男が、そのマントを翻した。
周りに風が舞い、黒い狼ともども姿を消した。
そして、マシューとカイルと呼ばれた青年の姿も忽然と姿を消したのである。
「馬鹿な……。」
グレアムから絶望の声が洩れる。
彼の空間把握魔法から、三つの反応が同時に消えたのだから。
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