【第6章】 第140話

【第6章】第140話 蜘蛛ちゃんズの警告


ここで、このタイミングか――という出来事が起きた。

アレクシス王子の馬車は、ダンジョンへ向けて街道をひた走っていた。

エマ達後続組も、すぐに追いついてくるだろう。

そう考え、先を急いでいた。

だが、そのおかげで気付けたのかもしれない。

「かゆ、かゆ、かゆ~! どうしたの、蜘蛛ちゃんズ!」

真琴の頭の上で、勝手についてきた蜘蛛ちゃんズが一斉に暴れ始めた。

「おい、真琴。女性として最低限の清潔というものを意識した方がいいと思うぞ。頭に蜘蛛が湧くとは……」

ヴィクトルが呆れたように言う。

確かに、頭をかきむしった途端、蜘蛛がぴょこぴょこと飛び出してくれば、そう思われても反論しづらい。

「違います! これは蜘蛛ちゃんズ。友達です!」

真琴が必死に否定すると、アレクシス王子はクラリスへ視線を向けた。

クラリスは苦笑しながら、小さく頷く。

「……本当なんです。」

王子は何とも言えない表情で頷き返した。

その間も蜘蛛ちゃんズは落ち着かない様子で、一方向を何度も指し示している。

いつものように敵を警戒している動きではない。

何かを知らせようとしているようだった。

「馬車を止めてください。」

真琴の声に、御者がすぐさま手綱を引く。

馬車は街道脇へと静かに停車した。

「誰か、この馬車を隠せる魔法は使えますか? このままだと目立ちすぎます。」

「私ができます。」

アベルが前へ出る。

淡い魔力が馬車を包み込み、その姿が周囲の景色へと溶け込んでいく。

「これで簡単には見つかりません。」

全員が馬車を降り、周囲を警戒する。

「蜘蛛ちゃんズ、どうしたの?」

蜘蛛ちゃんズは街道から外れた森の方を、一斉に前脚で指し示した。

しかも、その方向へ何かが移動しているようにも見える。

最初に異変へ気付いたのは、カモフラージュ魔法を扱うアベルだった。

「……誰かいます。」

全員が息を潜める。

「相手もカモフラージュ魔法を使っています。ですが、よく見ると周囲の景色と動きが微妙に噛み合っていません。」

言われるまま目を凝らす。

すると確かに、草木の揺れ方とは別に、不自然な違和感だけがゆっくりと移動していた。

「あれか……!」

真琴はすぐにステータス魔法陣を展開する。

視界には草花や木々の説明が次々と表示される。

その無数の情報の中に、一つだけ植物ではない表示が混ざっていた。

【種族:マントヒヒ】

「いた!」

さらに視線を追う。

そのマントヒヒは、肩に誰かを担いだまま、森の奥へと移動していた。

「蜘蛛ちゃんズの暴れ方を見れば、止めてあの荷物確認がセオリーね」

真琴は、蜘蛛ちゃんズにあのマントヒヒ止められる?って聞いた。

ピッっと敬礼して、草むらに全員飛んでいった。

「便利だな」王子が言った。

「有能なんです」

真琴は、たとえ魔物だろうと物扱いはされたくない。

草むらで、蜘蛛の巣があっち、こっちで飛び回り
しばらくすると大人しくなった。

そのタイミングで護衛騎士のエドルクが確認に行ってくれた。
蜘蛛の巣にがんじがらめのマントヒヒとそのマントヒヒが担いでいた袋を開いた。

「あっ、エマさんのパーティーのナオトさんだっけ?」

彼は、気絶している。怪我がないか、フィオナに託した。

「気を失っているだけみたいです」

「よかった。じゃ、私はリオに通信機で教えるね」

後続組のリオにナオトを助けた事を伝えた。

通信機越しにも安心した空気が伝わって来た。

「思ったよりも離れてなかったみたいだから、このままここで待ちましょう。マントヒヒは、拘束したまま安全の為、離しておいて」

自爆するような仕組みではないと思うが、爆ぜる仕組みは分かってないので距離をとった。

エドルクが拘束されたマントヒヒを調べる。

「武器は……ただの棍棒か。」

「魔石は?」

アベルが慎重に近付く。

「あります。しかし……」

眉をひそめた。

「他の個体より融合率が高い。」

ヴィクトルも膝をつく。

「それだけではない。」

マントヒヒの首筋を見つめる。

「これは命令を受けた個体だ。」

「命令?」

「群れで狩りをする魔物が、単独で人だけ運ぶ理由がない。」

その言葉で全員が黙る。

「つまり……」

「誰かがナオトだけを連れ去らせた。」

重い沈黙が流れる。



すると、そのタイミングで通信機。

「真琴!」

リオの少し焦った声が響く。

「こちらでも確認しました! ナオトが突然いなくなって、マントヒヒの群れを追っていたんです!」

「他のみんなは?」

「無事です!」

そこへエマの声が割り込む。

「でも、おかしいの。」

「マントヒヒなら食料を奪うか、その場で襲うはずなのに……ナオトだけを担いで逃げたのよ。」

「こちらでも確認したわ。この個体、人間を攫うよう命令されていた可能性が高いの。」

「敵が、捕獲を始めたのか…」
ヴィクトルの声もした。

「では……精霊だけではない。攫われた人間が、他にもいる可能性がある。」

「ダンジョンへ急ぐ理由が、また一つ増えたな。」
アレクシス王子の言葉にみんな頷いた。

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