【幕間】 真琴の逆鱗①
【幕間】真琴の逆鱗①
王都、魔法庁。
魔法に関する管理、研究、研鑽。
さらには動植物や魔物関連の調査まで。
魔法庁とは、魔法に関わるあらゆる事象を扱う巨大組織である。
その中でも、魔法庁研究所。
ヴィクトル執務室。
「今日来てもらったのは、他でもない」
ヴィクトルが、珍しく“仕事モード”の空気で高瀬真琴を部屋へ案内していた。
こんな空気は——
初めて出会った頃以来だろうか。
真琴は、黙って応接室のソファへ腰掛ける。
「この調査報告書の件なんだが……」
差し出された書類。
そこには、王都から数日離れた町外れ。
廃墟となった神殿周辺での異変が記されていた。
スケルトン。
動く死体——いわゆるゾンビ。
そんな目撃情報が相次いでいるらしい。
「一緒に調査へ行ってくれないか?」
廃墟。
スケルトン。
ゾンビ。
完全にホラーやん。
「きゃー怖い!って言っちゃダメ?」
速攻で、ヴィクトルが胡乱げな目を向けてきた。
「もちろん、私が魔力ゼロなのは知ってるでしょ?
パーティーはどう組むつもり?」
「神殿に打診したんだが、“忙しい”の一点張りでな」
「まあ、一応は神殿の廃墟だしね。
許可が下りれば御の字か」
「聖杖使い、聖水などの用意も頼んだんだが……」
「忙しいって?」
「今、作れる者がいないそうだ」
真琴の表情が止まった。
聖杖使い。
神殿でブリースト級以上に与えられる“資格の証”らしい。
ちなみにフィオナは、退職時に返還済みである。
「聖水って、クラリスの水魔法の浄水とか、フィオナも作ってたよね?」
「作れる者がいないそうだ」
ヴィクトルが、もう一度答える。
沈黙。
そして——
「浄水器に聖水バージョン作ったる!」
真琴が叫んだ。
「嘆かわしい!」
完全に怒っている。
「まあ、それはそれとして調査には同行してくれ」
ヴィクトルが静かに言う。
「魔物が魔物だからな」
「フルメンバーでOK?」
「勿論だ。クラリスにも話を通しておく」
「じゃ、私はこの後フィオナの所行ってくるわ」
⸻
「あー、レオン〜!」
王都の街中。
真琴が手を振ると、レオンハルトが振り返った。
「よう!どっか行くのか?」
「フィオナ探してるんだけど、知らない?」
「ああ、これから合流するところだ。
一緒に行くか?」
レオンハルトは最近、街の道場で剣の鍛錬を続けている。
神殿騎士団は、フィオナの退職と共に離れてしまったからだ。
「調子は?」
真琴が聞く。
「んー……冒険者ギルドにも登録しようか悩んでる。
進み方がなぁ」
古代遺跡での一件以来。
レオンハルトも、自分の立ち位置を考え始めているらしい。
「私もねぇ。
リオには色々言われるんだけどさ」
真琴が肩を竦めた。
「魔法ログなんて、誰かが使って初めてわかる仕様だからさ。
魔力ゼロには難しいわけよ」
「わかるわー……」
二人は、揃ってため息を吐いた。
⸻
フィオナは、相変わらず街の相談役をしていた。
当然のように、お金にならない案件ばかりである。
「え? 聖水が出来ない?」
フィオナが、目を丸くした。
「あれだけ……
あれほど……
引き継ぎと手順書を徹夜で仕上げて——」
途中から、半泣きになっている。
思い出してしまったらしい。
レオンハルトが慌てて慰め始めた。
真琴は、
そんなフィオナを見てオロオロしていた。
綺麗事で慰める気にはなれない。
むしろ。
——怒っていた。
⸻
夜。
真琴の部屋。
「ねえ、リオ。この世界の——
……いや、まだいいや」
真琴は言葉を止めた。
まだ、判断するには早い。
そう思った。
「真琴が危惧してるのはわかるよ」
机の上で、リオがガチャガチャと何かの道具を弄っている。
「でも僕達はまだ、“そこ”に着手するにはレベルが低い。
そう感じてるんだろ?」
「うん。
今までがラッキーだったと思う」
真琴が、小さく息を吐いた。
「タイミングも実力のうちかもしれないけどさ」
「そうだね」
リオが頷く。
「真琴は、これから色んな経験と人との関わりで成長していくタイプだから」
一拍。
そして真琴が口を開いた。
「——というわけで、リオ」
嫌な予感しかしない。
「リオの情報収集能力で、ルナミナと連絡取れる?」
リオの手が止まった。
「……何考えてるわけ?」
「ヴィクトルに“フルメンバーでOK”って返事貰ったから」
真琴は真顔だった。
「神殿に忍び込んで、フィオナに合う聖杖の仕組み調べてもらってきて欲しい」
ガタン。
リオが持っていた道具を落とした。
「何を言ってるのかな?
真琴ちゃんは?」
「だって今回は神殿廃墟でスケルトンとかゾンビだよ?
フィオナに頑張って貰わなくちゃなのに、今は力半減状態なんでしょう?」
「レオンハルトの剣で首チョンパしてれば依頼達成は出来るだろ」
「依頼はね?」
真琴が、むっとした顔をする。
「でも私、怒ってるの」
昼間のフィオナを思い出す。
「あれだけ頑張って引き継ぎしたのに、
無駄にした神殿の対応に」
綺麗事で慰める気にはなれなかった。
オロオロしてしまった自分も含めて。
全部、気に入らなかった。
「そのお株を奪うくらいの復讐はしてやりたい!」
リオが、深々とため息を吐く。
「……また厄介な方向に逆鱗入ったなぁ」
「神殿が責任放棄して魔法庁に依頼した責任は、取って貰いましょう」
真琴は、言い切った。
⸻
「なんで私が!」
夜の王都。
建物の屋根の上。
ルナミナが叫んだ。
「真琴が、“ルナミナにはたーくさん借りがあるから”って」
リオが平然と答える。
ルナミナの口が、ぱくぱくと動いた。
「どうして居場所わかったのよ?」
「僕は情報収集のプロだからねー」
実際には。
既にルナミナやフィオナには、
“目印”のような楔の魔法が施されている。
「……わかったわよ。
フィオナお姉様には内緒だからね」
ルナミナが腕を組む。
「で?
何を取ってくるの?」
「ブリーストの杖」
リオが即答した。
「レベルは?」
既にルナミナの頭の中では、
侵入経路のシミュレーションが始まっている。
「最高級品」
珍しく、リオが真顔で答えた。
「ふーん」
ルナミナが、にやりと笑う。
「腕が鳴るわね」
準備運動のように、指を鳴らした。
「今回は僕も行く」
「信用ならないと?」
ルナミナが目を細める。
「信用?」
リオが鼻で笑った。
「最初からしてないぞ?
真琴がお前の能力を買ってるだけだ」
「僕一人でも問題ない」
「可愛くないわね!
足手纏いにならないでよ?」
「そちらこそ」
夜の王都を——
二つの影が駆けた。
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