【第6章】 第130話

【第6章】第130話 灰青の精霊


ヴィクトルが真琴の私室を訪れた。

新ダンジョンで判明した調査結果を共有するためである。

部屋には真琴のほか、リオとクラリスも集まっていた。

「禁断の古代魔法実験って感じだね」

吐き出され続ける魔石の報告書を見ながら、リオがぽつりと呟く。

真琴はクラリスへ視線を向けた。

「クラリス。精霊のコアっていうの? 精霊を倒したら、魔物みたいに回収できるものなの?」

クラリスは少し考えてから首を横に振る。

「うーん……精霊は少し違いますわ。相手の大きさにもよりますけれど、魔物のように死後に取り出すというより、生きている状態から奪う感覚に近いでしょうか」

少し言い淀み、それから続けた。

「例えば、人間の心臓を生きたまま欲しいと言われるようなものですわね」

その例えに、部屋の空気が少し重くなる。

ヴィクトルも静かに補足した。

「魔物の魔石は、死後でも性質は変わらない。だから討伐後に取り出せるんだ」

「なるほど……」

真琴は報告書へ視線を落とした。

やはり、普通の魔石とは根本から違う。

そこでふと疑問が浮かぶ。

「リオ。そもそも精霊って、どこへ行けば会えるの?」

するとリオは、きょとんとした顔をした。

「どこって言われても……一体なら、ここにいるよ?」

「「「えっ?」」」

真琴、クラリス、ヴィクトルの声が見事に重なる。

リオは真琴の膝で丸くなっている灰青猫を指差した。

「シャドームーンは精霊だよ?」

「「「えええっ!?」」」

三人の視線が一斉にシャドームーンへ集まる。

当の本人――いや、本猫は「今さら?」と言わんばかりに尻尾をゆっくり揺らしただけだった。

「特殊な精霊なんだけどね。“影”と“幻影”を司る精霊なんだ」

リオはどこかまだ隠していることがありそうな口ぶりだった。

しかし真琴は、そこには踏み込まず別のことを尋ねる。

「だから水晶竜とも繋がりがあるのね?」

「うん。眷属だからね」

真琴は思わずシャドームーンの頭を撫でた。

(猫の姿をした精霊だったんだ……)

驚きは隠せない。

「じゃあ、他の精霊は?」

「森とか湖とか海とか火山とか……自然の力が強い場所には、それぞれ眷属として存在している感じかな」

ヴィクトルが腕を組む。

「魔法庁でも実際に精霊を見た者はいない。だが、古い文献にはそのように記されているとマシュー長官も話していた」

クラリスも頷く。

「古代には、もっと多く存在していたそうですわ。人の文明が発展するにつれて、その数は急激に減っていったと言われています」

真琴は思わず身を乗り出した。

「ちょっと待って。それだけ貴重な存在なのに、その実験で精霊のコアなんか使われていたら……」

顔色を変えながら言葉を続ける。

「精霊が絶滅しちゃうじゃない!」

「そうだよ。水晶竜が怒り出す前に解決しないと、本当に暴れ出すかもしれないよ」

「水晶竜も精霊なの?」

「竜は精霊の最上位種だったんだ。今、生きているのは水晶竜だけ。ほかの竜はみんな卵になって、水晶竜が守ってる。」

思わぬ話に三人は言葉を失った。

ヴィクトルが額を押さえる。

「リオ、お前はそういう大事なことをさらっと開示するな」

「聞かれなかったから答えなかっただけだよ〜」

悪びれる様子もない。

真琴が苦笑しながら尋ねる。

「でも、生きている最後の竜は水晶竜だって言ってたよね?」

「うん。もし水晶竜がいなくなったら、ほかの竜は卵のまま化石になっちゃう。」

「羽化はしないのか?」

「今の自然環境じゃ無理らしいよ。」

真琴は少し考えてから口を開く。

「それって、人間が自然を壊したから?」

リオは静かに首を横へ振った。

「僕はそれを答える立場にない。」

それ以上は、オルフェウスに聞け。

そう言われているようだった。

真琴もそれ以上は追及しない。

「そこは、今の私たちが踏み込む話じゃないってことね。」

「そういうこと。今の問題は新ダンジョンだよ。」

真琴はゆっくりと頷いた。

「つまり、新ダンジョンは精霊のコアを利用した古代実験場だった可能性が高い。そして、その影響が今も残っている……。」

「可能性は十分ある。」

ヴィクトルも同意する。

「魔法庁は未知のダンジョンとして調査隊を派遣する。王家からも調査隊が出る予定だ。」

「でも、私たちは事情を知っちゃった。」

真琴は真剣な表情になる。

「ただの資源調査じゃ済まないわ。」

クラリスも頷いた。

「精霊が関わるのでしたら、人類全体にも関わる問題になりますものね。」

真琴はヴィクトルを見る。

「私たちも調査に行きましょう。」

「魔法庁の調査隊へ同行するか?」

少し考えた後、真琴は首を横に振った。

「ううん。私の魔法ログを読めることは、あまり公にはしたくないの。今回は私たちだけのパーティーで行きたい。」

「了解した。では私の名義で別働調査隊として申請しておこう。」

ヴィクトルはメモを取りながら尋ねる。

「メンバーはどうする?」

真琴は少し考えて答えた。

「一度みんなで集まりましょう。新ダンジョンのことも、精霊のことも共有したいし。」

「わかった。」

リオが軽く手を挙げる。

「じゃあ、僕がみんなに連絡しておくよ。都合が合えば明日にでも。」

「ああ、早急に頼む。」

クラリスも立ち上がった。

「私は王宮図書館へ休暇届を提出してまいります。」

ヴィクトルも報告書をまとめ始める。

「こちらも魔法庁へ申請を出しておこう。」

それぞれが動き始めた。

新ダンジョン調査。

その第一歩として、シュバルツ邸に仲間たちが集うこととなった。


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