【幕間】 芸術とは?
【幕間】 芸術とは?
王都図書館勤務のクラリスは、司書というより——
王族の“執務担当”になっていた。
理由はシンプル。
字が、やたら上手い。
王都主催のコンクールでは毎年優勝。
ついには“筆華八段”という前人未到の称号まで持っている。
——結果。
「重要書類はクラリスに回せ」
そんな流れが出来上がった。
「あー……魔石ペン様様……」
クラリスは、書類の山を前にため息をつく。
かつては——
誤字脱字だらけ、不備だらけの書類を抱えて
ひたすら修正する日々だったのだ。
「相手が王族だと、書類って戻せないの?」
真琴が、さらっと聞く。
「うーん……説明するより、こっちで直した方が早いのよ」
「でもそれ、改善されなくない?」
「そこなのよ〜!」
クラリスは勢いよく一枚の書類を差し出した。
「特に王弟のところが酷くて!」
真琴はそれを見て、固まる。
「……何これ。ミミズが暴れてる?」
「そう。まず“読む”ところから始まるの。
しかも調子に乗って、奥方や令嬢のパーティ招待状やら茶会の開催案内やら挙句に恋文まで!」
「そんなの、付箋紙の束ごと突き返したいね」
「……付箋紙って何?」
食いついた。
当然である。
この二人が扱う“付箋紙”が、普通なわけがない。
「ふっふっふ……無限付箋紙💕」
減らない。
用途別に色分け済み。
修正用。不備指摘用。ちょっとした用事用。
「まずは——宿敵、王弟一家!」
クラリスはぶつぶつ言いながら、ぺたぺたと貼り始める。
「それ、不敬にならない?」
真琴が一応心配する。
「重要書類には使わないわよ」
ちらりと見ると、ちゃんと仕分けされていた。
「じゃあ遠慮なく……魔改造💕」
真琴も参戦する。
——結果。
書類は付箋まみれ。
剥がされた付箋紙はひらひらと舞い、
いつの間にか宮殿の壁を埋め尽くしていた。
しかも——
クラリスの達筆メモが、
書類の持ち主の顔を“再現”し始める。
付箋紙で。
完全に。
顔面アート。
最初は怒鳴り込んできた人々も——
王の一言で黙った。
「誤字脱字と不備を無くせば、恥はかかずに済むだろう」
——それ以来。
書類の質は、少しずつ改善されつつあるとか、ないとか。
そして今日もまた——
宮殿のどこかで、新たな“芸術作品”が生まれている。
——特に王弟の肖像は、
もはや芸術の域に達しているらしい。
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